第37話

「オリヴィアです。

 あいつの中にオリヴィアの気配を感じます」


 聖女の素質を開花させたエイダが、怨魔獣を前にして叫んだ。


「まずは浄化させる。

 浄化させて、他の怨念を分離させる。

 その後で魔獣とオリヴィアを分離させる。

 自力で分離できないようなら、斬り離す。

 何時でも治癒魔法を使えるように!」


 シャアが指示を出す。


「「「「「おう!」」」」」


 シャア達はひときわ巨大な怨魔獣と対していた。

 この一戦が全てだ。

 こいつさえ斃せたら、残った怨魔獣に不覚をとる可能性は低い。

 だが難しい。

 ただ殺せばいいだけではないのだ。


 オリヴィアを助けるのが一番の目的だ。

 先に魔獣が死んでしまったら、怨念が他の魔獣に移ってしまう可能性があった。

 いや、それならまだいい。

 次の機会がある。

 だが魔獣の死と共に、オリヴィアが死んでしまうかもしれないのだ。


 だから武器の温存をせず、全てをこの一戦に賭けた。

 聖なる金属で造られた鏃を使った矢を射掛けた。

 魔獣を殺さないように気をつけながら、怨念だけを浄化するように戦った。

 なにより一番の武器は、バートとエイダの声掛け説得だった。


「オリヴィア!

 戻ってこい。

 一緒に父さんと母さんの所に帰ろう!」


「オリヴィア!

 また一緒に御手伝いしよう。

 母さんと三人で、シチューを作って食べよう!」


 バートとエイダは、声をかけながら中衛として戦った。

 オリヴィアを殺してしまうかもしれない恐怖と戦いながら、致命傷を与えないように、巨大怨魔獣の四肢を狙って斬りつけた。

 巨大怨魔獣をシャアとクロードが斬り裂き突く度に、オリヴィアが死んでしまわないかと、恐怖と痛みを感じながら戦った。


「きゃぁぁぁぁ」


 そん迷いが隙を作ってしまったのか、巨大怨魔獣の鋭い爪がエイダを捕らえ、深く広くえぐり切った!


「きゃぁぁぁぁ」

「「回復!」」


 巨大怨魔の中から、この世の終わりを迎えたかのような悲鳴が叫ばれた。

 ほぼ同時にエミリーとアメリアがエイダに治癒魔法を使った。

 だがエイダは回復するまで待たなかった。

 致命傷と言える傷を負いながら、オリヴィアの声が体の中から聞こえた、巨大怨魔獣に体当たりするように抱き着いた。


「帰ろう。

 一緒に帰ろう、オリヴィア。

 お姉ちゃんが抱っこして連れて帰ってあげるよ」


「ガァルゥゥゥゥ!」


 巨大怨魔獣が再び前脚を振り上げ、エイダに止めを刺そうとした!

 シャアとクロードが、一撃で巨大怨魔獣を斃そうと必殺の覚悟を決めた。

 エミリーとアメリアが、少しでもエイダの傷を癒し、生き残る確率をあげようとした。

 バートが盾となるべく巨大怨魔獣とエイダの間に割って入った。

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