天使と女神とセーラー服

あおみどろ

爪痕は長く、深く。

ある放課後の出来事だった。


あの子は飛び降りた。


学校の屋上から。


あの子の遺書は机の中に眠っていた。


なぜか、私宛の手紙も入っていた。


あの子とは大して話したことも無いのに。


あの子の母親から渡された。


目の前で、私が手紙を開くのを待ちわびているから、読まないわけにはいかない。


わざわざ蝋で閉じてある手紙の封を開ける。


便箋には整った字が連なっている。


あの子の顔も整っていた気がする、とふと思った。


「拝啓 私の隣の席のあなたへ


まずは、突然手紙を送り付けてしまったことによるあなたへの御無礼をお詫び申し上げます。


あなたのことはきっと、他の人よりかは知っていると思います。


不躾ながら、授業中にひっそりと横目で観察させていただいていました。


まるでお人形のような顔をなさっていて、初めて会ったときは息が止まるかと思いました。


まさに天使のようで。


あなたがとても羨ましかった。


それと同時に、とても愛おしかった。


緊張しているときに手の指を絡めては解く癖も


眠いときに瞼を下げて船を漕いでいるところも


退屈げな顔でノートに絵を描いているところも


青空を見て少しだけ微笑んでいるときの表情も


あなたの存在自体が美しくて、愛おしい。


あわよくば恋人に、なんて。


何度も考えては諦めていました。


きっと、あなたは恋愛自体に興味が無いことでしょう。


そもそも、あなたに存在を認識してもらえてるかすらわからない。


それでもやっぱり愛おしくて、退屈な私の日常に現れた女神様のように思えたんです。


どうにかして振り向かせたかった。


でも、あなたは何をしても私を見てくれなかった。


だから、天使になろうと決めたんです。


あなたが、私の女神様が命を終えたときに、

私が迎えに行かせて頂こうと思ったんです。


そのために、一足先に死んでしまおうと思いました。


いつかあなたに会えたときに、あなたが私を愛してくれているように願っています。


この手紙は、誰にも見せないでくださいね。

内容を教えるのもダメですよ?


それでは、またいつか。


敬具」


いつの間にか、隣の席の彼女に想われていたなんて、夢にも思わなかった。


彼女の母親には、手紙の内容を教えたり、手紙を見せたりしないでと書かれていました。とだけ伝えた。


腑に落ちない表情を浮かべていたが、それが娘の意思ならと言って俯いた。


彼女は、クラスでは浮いた存在で、いわゆる、

“ぼっち”というものだった気がする。


それは私にも言えることだけれど。


彼女は母親に、「天使になります」とだけ書いたメモを遺したらしい。


穏やかな顔で死んでいたと聞いた。


私を女神と称してしまうような狂気を隠し持った少女だった。


高校生の彼女の死は、連日テレビを騒がせている。


重い足を運んで家へ向かう。


家に帰って、身体の痣を見つめながら呟く。


「愛してくれるなら、いいよね。」


一度は誰かに愛されてみたい。


そう思っていた。


でも、あなたが愛してくれていたなら。


私はあなたの元へ行こう。


私の天使の元へ行こう。


私はあなたの女神様。

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