幽霊が見える男子は死んだ少女に恋をする

ぬー(旧名:菊の花の様に)

きっと続くかもしれない始まりの話

 高校生の朝の登校は、多くの学生が自転車を利用するだろう。

 しかし、中には歩いて登校する人間もいる。

 そんな人達には『歩く理由』というものが存在する。


 健康のため、家が近すぎるから、中には自転車に乗れないから、等々。


 まぁ、その理由を何も笑おうとかそんな気は一切ない。


 ということで、なんで唐突にこんな話をしたのかと言うと、俺も歩いて登校している人間だからだ。

 だがしかし、その理由が特別である。


「ねぇあんた、私が見えるの?」


 幽霊が見えるからだ。


「ねぇってば。

 あんた、私のことが見えるんでしょ」


 幽霊が見えるというのは、面倒くさい。

 基本的に普通の人間と同じに見えるが、触れない。

 話はできるのだが、幽霊側が話そう、聞かせたいと思わないと意思疎通ができない。

 幽霊は一部の霊的な要素に影響されるから、油断していると恨みを持たれる。

 等々。


「ねぇ、分かってるんだよー。

 ほらほら、あえて目を逸らしているのも分かってるぞー」


 まぁ、そんなこんなもあるから、俺は自転車を運転するのが危ない。

 幽霊が見えるから変なところで止まるから危ないし、信号の前に幽霊がいるときなんて冷や汗もんだ。


「ん?

 あぁ、気づいているけど声が出せないのね」


 俺は胸ポケットにあるサインペンで、自分の手のひらに文字を書いていく。『気づいてる。察せ』

 その文字を見たのか、俺のそばにいる幽霊は納得する。


「良かった。

 見える人がいて」


 隣でホッとしている幽霊。

 俺は早急に人気のいない所に駆け込む。


「おい」

「あ、やっぱり見えてるんだ、よかった」


 再度ホッとする幽霊。


 俺はその姿をしっかり見て驚いた。


 小さな女の子。

 ツインテール。

 大きな瞳に、整った顔の造形。

 絶世の美少女。

 来ている服は制服……しかも隣町の有名な高校のものだ。

 ……高校?


 俺は固まる。


「ん? どうしたの?」


 目の前で不思議そうに俺の目の前で手を降っている幽霊に、俺は言葉を失う。


 俺は、幽霊が見えること以外、普通の人間だ。

 普通に綺麗な人には綺麗だと思うし、好みの女性は同い年くらいだ。

 つまるところ、ロリコンではない。


「い、いや、別になんでもないよ」

「ん?

 ……もしかして幽霊が見えるくらいだから変な人とか……」

「あ、いや、別にコミュ障とかじゃなくて……」


 俺はどもってしまう。

 幽霊の顔を直視するとどうしてもドキドキしてしまう。

 多分俺の今の顔は赤い。


「それじゃあ何なのよ。

 ……もしかして風邪とか?

 それなら私にかまってないで家に帰りなよ」


 死んでるやつに気を使われる始末。

 俺は流石にこのままではいけないと、咳払いをし、


「ごめん、結構可愛い幽霊だったもんで緊張ちゃったんだ」


 冗談めかしてそういった。

 その言葉に目の前の少女の幽霊は少し頬を膨らませて、


「もう、そんな言葉はちゃんと大事な人のために言ってね」


 あはは、と俺は苦笑いしながら、心のなかでは『冗談じゃないのにな』なんて思っておく。


 ……まぁ、流石に鈍感ではないので分かる。

 てかここまで可愛い子だと思っている時点でお察しだろう。


 俺は、幽霊に、恋をした。



☆☆☆☆☆



「いやー、ごめんね、学校休ませちゃって」

「別に気にしないで……ください」

「あー、別に敬語とかいいよ。

 見た感じ高校生でしょ?」


 田舎町の高校生である俺は、学校を休むことを友達に連絡して、人気のないところに移動した。

 少し山の中に入った、少し開けた広場。


 昔から地元の子達が遊んでいたから、いつの間にか公園みたいになったこの場所は、地元の子達しか来ない。

 そして、今日は普通に平日。

 子供がいるわけはない。


「そう……だね。

 一応そこの高校の生徒」

「あー、なら私がどこの高校かは分かるよね」

「まぁ、確かに」


 目の前の超絶美人高校生の幽霊は、俺の対面にある木でできた椅子に座る。

 少し大きめの丸太の椅子に座る様子が可愛らしくて、さっと目を逸らす。

 幸いにも俺が目をそらしたことには気づいていないのか、


「あ、そういえば、私の名前教えてなかったね。

 私はクミ。

 久しいに美しいで久美」

「あ、俺はリョウタ。

 涼しいに太郎の太で涼太」


 自己紹介をした。

 俺はそういえばそうだったなと名前を教える。


「リョウタ……涼太ね、おっけ。

 いい名前だね」


 鼻の最多様な笑顔、という表現を聞いたことがあるが、まさにそれを今俺は目の前で見ている。

 その様子に俺は自分の顔が赤くなるのを感じ、腕で顔を隠した。


「ん?

 どうしたの?」

「な、なんでもないですよ」


 その様子に久美は不思議そうにしている。

 俺は少し時間をかけて、腕を顔から離す。


「ほんとに大丈夫?

 もし具合悪かったら言ってね。

 ……あ、でも私幽霊だからどうしようもできないわ」


 えへへ、と冗談めかして話す姿に、俺は心が痛む。

 こんなことしている場合じゃないな、と気を取り直し、


「で、なんで久美……さんは俺に話しかけたの?」

「さんなんていらないよ。

 んー、強いて言うなら、暇だったから?」

「へ?」


 俺はその言葉に唖然とする。

 正直、この手の幽霊からの相談事は多い。

 幽霊の状態だと何もできないから手を貸してほしい、と。


 何回か付き合ったこともあるが、体外が結構面倒くさい。


 でも、解決できなかった場合も面倒なので、尽力はするけど。


「じゃあ、なんで現世に残ってるの?」

「……さぁ?」

「え、未練的なものは?」


 ゆっくりと首をかしげていく久美。

 かわいい。

 俺はそう思いながらも、その様子に違和感を感じる。


 幽霊は、未練がないと現世に留まる事はできない。

 それがなくなることは、消滅……いわゆる成仏を意味するからだ。


「じゃあ、ほんとに話しかけたいだけ?」

「申し訳ないけど……うん」


 照れくさそうに頭を掻きながら話す久美。

 かわいい。

 俺はその様子に悩みながらも、


「とりあえずさ、未練を見つけて成仏したほうがいいんだけど、どう?」


 幽霊は現世に長くいすぎると、魂を取り込みすぎる。

 そのため、基本的にはなんとかして穏便に幽霊は成仏させたほうがいいのだが、


「うーん、ほんとに申し訳ないんだけど、ちょっと見つからないかな……」

「……まぁ、別に無理したところで思い出せるとも限らないしね」


 俺は優しく微笑みかける。

 幽霊は、世界に影響を与えにくい。

 だけど、決して与えられないわけでもない。


「とりあえず、フラフラしてくれば?

 もしかしたら未練見つかるかもしれないし」

「うーん、たしかにそうなんだよねぇ……

 だから君に合う前にすごくここらへんを探索したの。

 だけど、結果はこうして見つからないってのがね」

「あー、たしかに寝なくても食べなくてもいいけどかなり暇だもんね」


 幽霊は睡眠、食を必要としない。

 だから、その2つの未練で現世に残られるのが面倒なんだけど、聞いた感じそういうことでもない。


「だから、君の学校に憑いて行ってもいい?」

「それ、感じが違うくない?」

「あ、バレた?」


 テヘッと舌を出す久美。

 かわいい。

 俺はとりあえず師匠に相談することを決め、立ち上がる。


「じゃあ、俺はとりあえず学校行くけど、どうする?」

「ん? 憑いて行くに決まってんじゃん」


 また感じが違う気が、と言おうとしたが、別にいいかと諦める。


 見た感じ、彼女はまだ何も変化はしていない。

 しかも彼女の話から幽霊になってからそんなに経ってはいない。

 まだ大丈夫。

 そう思い、即座に師匠に携帯で連絡をする。


 多分この時間は寝ているので、おそらく返信は遅いだろう。

 送信を確認し、後ろを振り向く。


 そこには、懐かしそうな顔をした彼女がいた。

 なんだかその顔は見たことがあるような気もしたが、


「なんで放っておくんですかー」


 頬を膨らませて可愛らしい仕草で怒る。

 かわいい。


「じゃあ、俺の学校に向かうか。

 途中どっか寄る?」


 今まで女性にときめいたことはない方だったのだが、一目惚れしてしまうと、人は判断が鈍るらしい。


 そのことに気づくのは、一週間後の話だった。

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幽霊が見える男子は死んだ少女に恋をする ぬー(旧名:菊の花の様に) @kiku_nu

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