第49話 講習会
オークの串焼きを四人で食べた後、賑やかなメイン通りを少し散策し、再度ギルドに向かった。
普段食べている食糧だからとなめていた。
常時依頼の依頼達成報酬とかも合わせると、13万7千600ジェニーにもなったのだ。
アワビの買い取り額が一番の高額だが、トコブシも良い値で買い取ってくれる。グラム400ジェニー。意外と殻つきのムラサキウニも良い値がついていた……1kgあたり300ジェニーだ。他の者が採ってきたものより鮮度が良いからと、若干高めに査定してくれたみたいだ。【インベントリ】のおかげだね。
トサカノリ、昆布やワカメ等の海藻類もそれなりの金額になった。今後も見つけ次第回収するとしよう。
宿屋に帰り、朝食を部屋で受け取って皆で頂く。
朝食メニュー
・目玉焼き
・ソーセージ
・黒パン
・生野菜サラダ
・オニオンスープ
なんだか喫茶店のモーニングセットのような品だが、それなりの量があって美味しい。
何の卵の目玉焼きかは分からない。ソーセージも何の肉か不明だが、美味しいから良しとする。
「八雲君、さっきの得たお金でもう暫くこの町に居られそうだけど、どうするの?」
「俺は予定通り後2日でここを出たいかな。町の雰囲気は堪能できたし、もうこの町に特に用はない」
「そうよね、ヤクモのお母様とも早く合流したいしね」
「そういえば、母さんを仲間に誘って良いか皆に確認してなかった……」
「「そんなの、良いに決まってるでしょ!」」
怒られた……。聞く必要もないことのようだ。
「ルディも良いかな? 俺を産んでくれた転生者の人が居るんだ」
「はい。勿論反対などしないですよ」
ルディにも母さんの種族や人柄を簡単に説明してやり、講習会の時間まで雑談をして過ごした。
* * *
「それでは、初心者講習会を始めます!」
夜の部の講習会に参加したのだが、参加者は11人……意外と少ない。
2時間の講習会はほぼ知っている情報だったが有意義な情報も幾つか得られた。
その中でも最大の情報は次の町へのルートのことだ。
だが、予想通り先に厄介ごとを済ませる必要がある。
「ねぇ、僕たちの仲間にならないか!」
「何言ってるんだ! 彼女たちはパーティーを組んでるんだ! 既にパーティーを組んでる奴らは引っ込んでろ! 俺を仲間に入れてくれ!」
「私を仲間に入れてください!」
講習会に出ていた者たちの勧誘合戦が始まる。
美少女ばかりの俺のパーティーが注目の的になるのは、当然の結果だ。
「八雲君? これ、どうするの?」
「ヤクモに任せるわ……」
ちーちゃんとミーファから、うんざりといった雰囲気で一任される。
事前に話し合ってたように、余程条件が良い者以外は全て断るつもりだ。
「悪いが他の町で仲間が待っているので、これ以上仲間を増やすつもりはない」
パーティーメンバーが他にも居て、もう増やせないということにしてこの場から脱出する。
「ちょっとあの女の子、可哀想だったね」
「そうね、仲間もなく一人だったしね。ヤクモ、彼女はダメなの?」
「鑑定魔法でステータスを調べたんだけど、俺たちのスペックが高過ぎて彼女は足手纏いにしかならない」
「そんなに差があるの?」
「うん。ちーちゃんは誕生時から俺の恩恵を受けてるから、ヒーラーなのにさっきの娘より戦闘力が高いぐらいなんだよ。エルフのミーファや白狼種のルディも、元が高スペックだからね。一般レベルの者を混ぜても、守ってやらなきゃいけないだけで、なんのメリットもない。最初は良いけど、1ヶ月もしないうちに仲間内でギクシャクし始めるよ」
「スペック差で、入った娘も気を使い始めるって訳ね?」
「うん。余程図太い人間じゃなかったら、寄生していることに気を使うようになるはずだよ。後、最大のダメな理由として『毒耐性』がない。俺や母さんの毒で死んじゃう可能性があるから俺は嫌だよ」
「「「あ~~~納得」」」
「ということで、進路どうする?」
要約したら俺たちには6つの選択肢がある。
1、通常ルートで海中を進んで、次の町を目指す
2、通常ルートで海中を進んで、2つ先の町を目指す
3、この町の中にあるダンジョンから、人族の姿のまま次の町を目指す
4、この町の中にあるダンジョンから、人族の姿のまま2つ先の町を目指す
5、町の少し沖にある海中ダンジョンから、仮種族の姿で次の町を目指す
6、町の少し沖にある海中ダンジョンから、仮種族の姿で2つ先の町を目指す
「ギルドの講師の説明だと、通常ルートがお勧めなんだよね?」
「そう言ってましたわね。ヤクモどうする?」
「先にどっちに進むか決めようか? 次の町か2つ先の町か?」
「「ローレンでしょ」」
躊躇いなくちーちゃんとミーファがそう答えた。
「二人共迷いなくどうしてそっちなんだ?」
「2つ先の町には八雲君のお母さんが居るのでしょ?」
「それと、わたくし達のレベルの上がり方が早すぎるので、次の町だと到着時にはもう入れないって可能性なくないです?」
「レベルオーバーか~、有りそうだよね」
講習会で次の町の入場制限はレベル10~20まで、2つ先のローレンはレベル15~25まで入場可能だとの話だった。
「母さんの説明だとレベル15からなかなかレベルは上がらないって話だったけど、俺たちには通常より経験値が多く得られるというユニークスキルのパッシブが付いてるからね」
「じゃあ、目指す先はローレンの町で良いわね?」
「良いと思いますわ」
「私は皆に従います」
「俺もそれで良いと思う」
「それで、八雲君はどのルートが良いと思ってるの?」
ギルド職員が1・2の通常ルートを進めるのには理由がある。
通常ルートで狩った魔獣や一般素材は全て手に入る……全てというのは、魔石や解体素材などの品のことだ。
ウニやトコブシ、海藻類も海中に豊富にある。
一方ダンジョンで倒した魔獣素材はドロップ制で、ランダムで決定される。
運が高ければ良い物が得られるが、最悪経験値以外何も得られない。死骸は不思議なことにダンジョン内では倒した時点で煙のように消えて無くなるそうだ。
通常、煙の後に魔石+何か1品がドロップするのだそうだが、何が得られるか分からない。
運の要素が強い。
例えばウニの魔獣をフィールドで普通に倒せば、中の身と魔石・毒針が素材として売れるが、ダンジョン内だと魔石と何か1品となる。高位の魔獣になるほど素材の価値が高いので、倒す労力が同じなら、全て得られる通常ルートが良いとのことなのだ。それと最大のデメリットはダンジョンでのルートの方は、沸いた魔獣を倒さないことには先に進めないという点がある。最悪MPなどが無くなって、前後から魔獣に囲まれてしまう危険があるのだ。
フィールドなら避けて迂回したり、勝てそうになければ逃げたりもできる利点がある。
何故、人族スタイルの状態でのダンジョンが存在するのか? 神の救済処置だそうだ。
最初は何のことかと思って聞いていたのだが、ルディのようなウニみたいな種族だと、そもそも移動に困るのだ。
イソギンチャクとかだとその時点で手詰まりだ。運良く何かの体に寄生できなければ移動すらできない。
なら最初から仮種族とかふざけた制度は廃止して、人族のまま転生させろよと思ってしまう。
人族状態で活動もできるのなら、タコやらカメやらウニなんかの意味がない。
『♪ 全ての町がダンジョンで繋がっているわけではないので、ずっと人族状態ではいられないですよ』
ナビーから補足説明が入る。
『なら、ウニやヒトデとかの移動手段の乏しい種族は転生したその時点で詰みなのか? 神様は何考えてるんだ?』
『♪ 何かの試練でそういう種族になっているはずですから、それを悲観したり神のせいにするのはまた違う話ですね。全ての種族の第一の試練が、この町に辿り着くことです。ルディはウニという種族で見事達成し、仲間を得て移動手段を得ることができています』
言われてみれば確かにそうだ。ウニのルディにとっては悪条件なのに、ちゃんと町に辿り着き、その後の移動手段まで確保できている。
『そうだね。運も大事ということか……』
『♪ この町の中で人族中に仲間を得て、移動手段を得るのも試練の1つなのではないでしょうか?』
神の諸事情までは俺には理解できない。何かの試練とか言われてもね~。
「俺たちのステータス的なことを考えれば、人族状態でダンジョン制覇が一番楽だと思う。だけど、俺の持病があるから……ごめん……」
「ご主人様? ステータス的なこととはどういうことですか?」
「俺とちーちゃんは、全属性の魔法習得ができるんだよ。ミーファはエルフだから魔法も得意だしね。ルディもウニ状態より、その姿の方が本来の力が発揮できるだろ?」
「はい。魔法は苦手ですが、近接戦闘は得意な種族です。皆さんは人族姿での魔法戦の方が向いているのですね?」
「そうなんだよね。海中だと殆ど魔法は使えなかったんだよ」
魔法戦だと、魔獣が近づく前に一掃できるほどの火力が俺たちにはあるのだ。
「ちーちゃんは、ヤクモの今の姿はどう? 大丈夫かな?」
「八雲君なら問題なさそうだけど、できればタコさん状態の方が、精神的に楽かな……ごめんね」
「謝らなくて良いですわ。ヤクモとちーちゃんの事情を考えると、通常ルートでローレンに行くのが良いのかな?」
「そうね……それが良いかも」
「俺はダンジョンにも行ってみたいんだよね。なので選択は6番かな」
ルートとしてはダンジョンの方がイージーモードらしい。異世界に来たのならダンジョン攻略もしたいよね。
猛毒無双 ~転生したら海の中~ 回復師 @k1509
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