第48話 デート
深夜(夕刻)に目が覚め、寝返りをうった時に心臓が止まるかと思うほど驚いた。
暗闇に浮かぶように、金色に光る2つの瞳があったからだ……。
だが、【暗視】スキル持ちの俺はすぐに目が慣れ、それがルディの瞳だと認識する。
ルディがこっちを見ていただけのようだが、金色に光るのは勘弁してほしい。寝起きの寝ぼけた思考が、悪魔とか吸血鬼かと思ってマジビビったのだ。
俺の視線を感じたのか、ルディの布団の方から尻尾がパタパタ振られている音が聞こえてくる。
視線が合ってそっぽを向かれると悲しいが、こうやって好意的なのもどうして良いか分からず困ってしまう。
時刻はまだPM5:42分……起きるにはまだ早いが、外はもう日も陰って薄暗い。
もともと睡眠時間が少なくても平気な俺は2度寝する気にもなれず、起きて散歩に出ることにする。
寝顔を見たらダメと言われていたが、起きて部屋を出る時にミーファとちーちゃんの寝顔を拝見させてもらった。
すやすや眠っている二人の寝顔はマジ可愛いかった。
起こさないように部屋をそっと出たのだが、起きていたルディが俺を追いかけてきた。
「ご主人様! どこに行かれるのですか? まさか本当に置いて行ったりしないですよね?」
どうやらちーちゃんがしつこく俺を疑うから、ルディが疑っているみたいだ。
「置いて行ったりしないよ。目が覚めちゃったから、散歩にでも行こうかと思ってね。俺たちからすれば早朝になるけど、昼型の者の方が多いから、この時間ってゴールデンタイムなんだよね。どんな感じか見ておきたくってね」
俺の言うとおり、外の喧騒は凄い。
部屋の中はとても静かで、外の騒音は全く聞こえなかった。お姉さんが言ってた音を遮断する魔法が効いているのだろう。
「私も一緒に行っていいですか?」
「良いけど、睡眠は足りてる? 講習会で寝ちゃったら怒られるよ?」
「私もご主人様が起きる少し前に目が覚めて、もう寝付けそうになくてどうしようか困っていたのです」
「じゃあ、一緒に行く?」
「はい!」
嬉しそうに尻尾がパタパタ振られる。
ウワ~やっぱ獣人娘可愛いな。
階段を下りて食堂に行くと、夜型の者の時間帯と比べたら5倍ほどの人がいるようだ。
PM6時~9時は夜型の者が朝食を摂るのと、昼型の者が夕食を摂る時間帯になるのでこの人数になるようだな。
俺はルディと真っ先にギルドに向かった。
レスカさんはいないな……8時間の3交代とか言ってたから、この時間は勤務時間じゃないのだろう。
「買い取りですか?」
「はい。魔獣は昨日売ったのですが、こういう普通のムラサキウニとかトコブシ・サザエ・アワビ・海藻類は買い取りしていないのでしょうか?」
「いえ、買い取りしていますよ。むしろ大量に欲しいくらいです。その感じだと、まだ依頼ボードは見ていないようですね?」
依頼ボードの方に常時依頼としてこれらはいつも出ているモノのようだ。
何でも地上世界の内陸部の方で消費されるから、いくらでも欲しいそうだ。
特に昆布やワカメ、アワビなどは天日で乾燥させれば長期保存できるから、とても良い値で買い取ってくれるみたいだ。
昨日、門番のサハギンが喜んでいたはずだ。商人から受け取る小銭より遥かに良い品だったのだ。
俺は【インベントリ】から、採り溜めていた保存食を買い取りカウンターに大量に取り出す。
依頼達成数もあるらしいので、パーティーでの活動にしておく。
買い取り査定に少し時間が掛かるとのことなので、スキル習得用に取って置いたスライムの魔石12個を先に換金してもらった。なにせ手持ち金が殆どないのだ。
スライムはMAPで探してまた狩ればいい。
10時からの初心者講習会に4人の予約を入れ、後でまた来ると伝える。
その間にギルドの受付のお姉さんが、売却した素材で達成可能な依頼を探し出しておいてくれるそうだ。
ルディと連れだって少し町中を散策してみる。深夜と違ってほぼ全ての商店が営業中のようだ。
「ご主人様、凄いですね! キラキラです!」
ルディの言う通り、メイン通りは魔法の光でキラキラと煌びやかに輝いていた。
中央の公園に差し掛かった時に後ろから「きゅるる~~」と可愛くお腹が鳴ったのが聞こえた。
見たらルディが鼻をヒクヒクさせて、昨日俺たちが買ったオークの串焼きの店の方を見ていた。
確かに醤油の焼き焦げる暴力的な良い匂いがしている。俺は迷わずその露店に行き、串焼き4本と木苺のミルクオレを2杯注文する。
「あの……御主人様、ごめんなさい……」
どうやらお腹の鳴ったのに俺が気付いて、気を効かせたと分かったようだ。だがここは知らん顔だな。
「何がごめんなんだ? 朝食前にアレなんだけど、昨日ここの串焼き食べてめっちゃくちゃ美味しかったんだ。この匂いを嗅いだらまたどうしても食べたくなってね。ルディに聞かないで勝手に注文しちゃったけど、お腹が空いてないなら俺が後で食べるから大丈夫だよ?」
わざとルディのごめんなさいの意味を勘違いしたように言ってやる。あくまで俺が食べたかったからとする。
「いえ、ありがとうございます。頂きます」
嬉しそうに尻尾がゆっくり振られている。
俺の意図もバレちゃってるようだが、それに便乗してくれたようだ。
その時、俺にコールが掛かってくる……ちーちゃんからだ。
『はい。どうした?』
『どうしたじゃないわよ! あなた、今どこにいるの? まさかルディとふたりで私たちを置き去りにしたんじゃないでしょうね!?』
『そんなことするわけないだろ! もう勘弁してよ……』
『じゃあ、どこで何しているのよ……』
『ギルドに講習会の予約と素材の換金に行って、今は中央公園にいるよ』
どうも目が覚めて起きたら、俺たち二人が居なかったので逃げたのかもと疑ったようだ。
おじさんが串が焼けたと言うので、直ぐ横のベンチでルディと串にかぶりつく。
「美味しいです!」
「ね? 昨日も1本じゃ足らなくて追加で買ったくらいなんだよ」
3分もしないうちにちーちゃんたちがやってきた。
「ヤクモ信じられない! わたくしを不安にさせておいて、お二人はデートですか!」
「八雲君、二人だけで随分仲良く美味しそうな物食べてるわね」
「あわわっ……違うのです! 私がお腹が空いてお腹を鳴らしてしまったのがいけないのです!」
「ルディ、大丈夫だよ。二人は本気で怒っているんじゃないから。痩せ過ぎてるルディに食事を買い与えて怒るような娘たちじゃないから、言い訳なんかしなくて良いよ」
「「…………」」
痩せてガリガリなルディの体躯を見て、ミーファもちーちゃんもそれ以上俺を責めるようなことは言わなかった。
「朝食前だけど、二人も食べる?」
「八雲君、お金の方は後2日持つの? 宿屋で朝夕は付くけど、お昼は付かないのよ?」
「うん。さっきギルドに行って、俺が溜め込んでいた食材が売れるようだったから買取査定に出している。なんか食材の採取依頼が常時出ているようで、そこそこの額になるようだから、お金の事は心配ないよ。勝手に売っちゃったけど、スライムの魔石を先に換金してあるから、今も少しは余裕あるよ」
「「じゃあ、食べる!」」
二人も朝から2本食べるようだ。
ミーファに言われてから気付いたが、ルディとメイン通りを歩いて、公園のベンチで並んで串焼きを食べてるとか、やっぱこれってちょっとしたデートだよな。
こんな可愛い娘と二人きりで歩いたことなんか、日本じゃ全くなかったな。
浮かれている自分に気付き、ちょっと驚いた。
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