第47話 クラン登録

 クランの有用性は理解した。

 初期の段階から登録して、討伐カウントを漏らさないようにした方が良いと受付嬢のレスカさんからアドバイスをもらったのだが、いかんせん資金が少ない……どうしたものか。


「「登録しましょう!」」


 迷っていたら、ミーファとちーちゃんがそう伝えてきた。


「有用性は分かるけど、5万は今きついよ。ルディの服や装備品はどうするの? ミーファの剣も売っちゃったから、中古の鉄の剣でも良いので買っときたいよね?」


「ヤクモ、剣は要らないわ。後3日で町を出ましょう。ルディのレベルも高いし、この町に滞在する価値はあまりないの。なら、ルディの服だけ買って次の街を目指した方が良いわ」


「八雲君、私もミーファの意見に賛成よ。どうせ大した資金もないんだから、そんなに遊ぶ事はできないんだし、遊べないなら却ってストレスになるのでさっさと町を出ましょ」



 ルディの魔石は全て売ると、26400ジェニーになるとレスカさんが手渡してくる。

 俺たちの手持ち金と合わせたら、服を買って、ルディの2日分の宿代を払ってもなんとかなるな。


「レスカさん、あなたのアドバイスどおりクラン登録します」

「ふふふ、良い子たちね。お姉さんのアドバイスは絶対後悔しない筈よ。じゃあ、クラン名は何にする?」


 こういう名前は難しいんだよな……。そう思っていたのだが、ちーちゃんのゲーム脳的な厨二センスが炸裂した!


「『悠久の絆』ってのはどうかしら?」

「「それ良い!」」



 クッ! 恥ずかしい! なんて恥ずかしい厨二センスなんだろう!

 冒険者ギルドで、可愛い受付嬢にクラン名を聞かれる度にその名を言うのは恥ずかしすぎる!


 ミーファとルディは凄く気に入ったのかノリノリだ。何とか阻止しなければ!


「ちょっと恥ずかしくないか? 悠久って、長く続くとか永遠にとかいう意味だろ?」

「だから良いのではないですか! 永遠に壊れず長く続く絆とか……ちーちゃん素晴らしいですわ!」


 ルディもウンウンと激しく頷いている。

 逆らえる雰囲気ではない。また数の暴力だ……ルディが入って更に俺が不利になったような気が……。


「じゃあ、『悠久の絆』で登録お願いします。クランリーダーはミーファで」


 せめてもの逃げの手段でミーファに振ったのだが、速効で拒否られた。


「ダメよ! ヤクモ以外考えられないですわ!」

「八雲君のせいで私はこの世界に来ちゃったのよ! リーダーはあなたでしょ!」

「ご主人様が良いと思います!」



 『悠久の絆』という、厨二臭い恥ずかしい名のクランリーダーにされてしまった……。



 隣の服屋に寄り、俺たちと同じ程度の物を買い揃える。

 ルディには剣ではなく、将来的に素材の剥ぎ取りもできるように鋼のナイフを装備させる。


 元々獣人は素手でも人族よりは強いのだそうだ。


 ちーちゃんのショートソードをミーファに渡し、ちーちゃんにもどうせ使えないのだからと、皆と同じ鋼のナイフを買い与えた。


 ルディの2日分の宿代を追加で払ったらもう殆ど残金が無くなった。


「私の為にごめんなさい。このご恩は必ずお返しします」

「ルディ、契約奴隷とかじゃなく、俺たちは仲間になったんだ。気負いや遠慮はしなくて良いんだよ」


「ヤクモの言う通りよ。感謝の気持ちは受けとるけど、卑屈なのはダメよ」

「そうよ、仲間なんだから、もっと気楽にね。で、八雲君、後2日どうするの?」


「明日はギルドの初心者講習会に出ようと思うんだ。参加するデメリットも多いけど、やっぱ情報は多い方が良いからね。俺だけ出て、皆に後で教えるって手も良いんじゃないかな?」


 俺だけなら、可愛い女の娘狙いの不逞の輩は寄って来ない。


「それもありかもだけど、わたくしもその講習は聞いておきたいですわ」


 ちーちゃんもルディも参加希望だった。


「じゃあ、明日は講習会に全員参加で、講習会後のパーティー勧誘は全無視で良いのかな?」


「男子に関しては全無視でお願いします……。女子は有用なら別に加えて良いんじゃないかな?」


 ちーちゃんは男性拒否ね……。


「う~ん、わたくしは暫く4人で良いと思います。知り合ったばかりなので、わたくしたちだけだとしてもまだ何の連携もできていませんよね? 4人で上手く戦闘ができるようになるまで、追加人員は控えた方が宜しいのではないですか?」


「ミーファの言うとおりだね。暫くはこのメンバーでやっていこう」

「八雲君は女子が増えるのが嫌なだけでしょ」


 そうだけど……嫌なんじゃないよ……。女子は好きだけど、体が拒否して吐き気が襲ってくるから仕方がないんだ。


 本当に女子は好きなんだよ……。

 現に美少女3人に囲まれて嬉しくてずっとドキドキしっぱなしなんだから。

 只、トラウマで頭痛や動悸、目眩や吐き気がするだけなんだよ。



 暫くはこのメンバーだけで様子を見ようという結論になった。

 俺やちーちゃんのユニークスキルがヤバすぎるからという理由も大きい。



 話も終えたところで、久しぶりのお風呂だ!


 驚いたことに、かけ流しの温泉だった。

 色々ごたごたがあって中途半端な時間だったので、俺たちの貸切状態だ。


 隣から聞こえてくる女子たちのキャッキャと騒ぐ声に聞き耳をたててしまうのは、健全な16歳男子として大目に見てほしい。


 ミーファがちーちゃんのおっぱいを僻んで、鷲掴みにして騒いでいるみたいだ。

 『もいでやる!』と言っているのが聞こえてくる。


 ミーファが落ち着くと、今度はちーちゃんがルディの尻尾と耳に興味があったようで、『尻尾の付け根がどうなってるのか見せなさい』と騒いでいる……それは俺も見たい!


 隣から『へ~』とか『恥ずかしいです!』とか聞こえてくる……羨ましい! 俺も尻尾見たい!

 でも覗いてバレたら、きっと彼女たちは以降俺のことを信用してくれなくなるだろう。ちーちゃんの男性恐怖症があるのだから、ここは我慢するのがベストだな。ラノベやアニメなんかのノリで覗いちゃったら、きっと後悔することになる。



 皆より先に出た俺は、食堂で冷えた果実水を購入して【インベントリ】に入れて部屋に持ち帰る。

 昨夜のお姉さんは帰宅したようで、違う年配の女性が食堂に居た。


 入浴後の女子たちは、濡れ髪で超色っぽくてまたドキドキさせられてしまった。


「お風呂上りに喉が渇いただろ? これ買っておいたよ」


「ヤクモ、気が利くわね。ありがとう」

「八雲君、ありがとう。ちょうど何か飲みたかったところよ」

「ご主人様、ありがとうございます!」


 ルディの尻尾がブンブン振られている。

 ヤバい……尻尾で感情の表現をしてくるのが新鮮で超可愛い。


 元々俺は犬派だ。満面の笑顔で尻尾なんか振られたら、ドキドキが止まらない。


「ヤクモ顔が真っ赤よ。イヤらしい……」

「まぁ、これは仕方ないかも。ルディが可愛すぎるから、八雲君を責めるのは可哀想かな……」


「美味しい! 御主人様、美味しいです!」


「ルディ、御主人様呼びは止めよう。俺たち同じパーティーメンバーなんだしさ」

「嫌です! 皆に恩が返せるまでは使用人としてお仕えします!」


 ルディは御主人様、ミーファ様、チホ様と呼んで、頑として引き下がろうとしない。


「仕方ないわね。八雲君、好きにさせてあげましょう。でもルディ、呼び方はそれでも良いけど私たちは仲間なんだから、媚びたり遠慮したり、卑屈になったりは絶対しないでね?」


「はい、分かっています」


 明日の夜型冒険者の為の初心者講習会はPM10:00からだ。

 宿屋の規則で、朝食はPM6:00~9:00までに済ませる必要があるので、今から眠っても5時間は寝られることになる。


「今日は色々あったので、もう昼過ぎになっちゃってるけど、そろそろ寝ようか? 講習で寝ちゃうと怒られそうだからね」


「そうね、正直今日はもうクタクタよ。ヤクモ、皆の寝顔覗いちゃダメよ」

「ミーファは戦闘もこなした上に、皆を乗せてかなりの距離を泳いでくれたものね。ご苦労様」


「ミーファ、今日はありがとう。故意に覗かないって約束しただろ」


 俺とちーちゃんはミーファにお礼の言葉を伝える。


 俺の横のベッドにはルディが寝ている。こっちを見ているので、顔がはっきり判る。

 ルディと目が合ってお互いに照れる。ウッ、目眩が……オェッ!


「ホント困った人ね……八雲君、言っておきますが、皆が寝てる間に置いて逃げないでね」


 照れながらえずいた俺を見て、ちーちゃんが忠告してくる。


「ちーちゃん、マジその件は謝るからもう許して……」


 ちーちゃんにはとことん疑われてしまっているようだ。以降は気を付けないとね。3度目をやらかすともう信用してくれなくなりそうだな。

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