第46話 ルディの加入

 夕食を食べ終えた後、ルディの詳細なステータスを共有し、仲間にできるか話し合う。

 海に入ると仮の種族の昼夜特性の影響があるため、仲間にできない者もいるのだ。町に入って人化しても、仮初めの間はその影響が多大にあり、夜型の俺たちは昼には眠気が襲ってくる。



「やはり犬人族じゃなくて狼人族だったのね。しかも希少種の白狼種。ヤクモ、この娘、狼よ!」


 ミーファは、白狼族は優秀な種族だから仲間にしない手はないって騒いでる。


「それほど優秀な種族の娘が、どうして生前は奴隷だったんだ? プライベートなことを話すのが嫌なら言わなくてもいいけど、良かったら聞かせてほしい」


 ちーちゃんに『そういうことを聞くなら自分たちのことをまず話すべき』と言われ、生前のことや自分たちが死んだ理由を先にルディに話して聞かせた。


 ミーファがエルフの姫だと知った時は、土下座するように頭を床にこすり付けるほど平伏したのには若干引いたが、ルディの居た世界ではそういう村だったそうだ。



「白狼族は強い種族なので、貴族や商人の専属護衛や冒険者になる者が多いのですが、うちはお父さんの希望で農家だったのです。でも、3年連続で収穫時期に大雨が重なり作物に大被害が出て、私の村ではかなりの者が税金を払えず奴隷落ちしました。奴隷と言っても奴隷にも何種類かありまして、終身奴隷>犯罪奴隷>借金奴隷>契約奴隷と4種ほどあります。私は、少し足らなかった税金分を補填する為に、ある期間を契約で前借りできる契約奴隷になりました」


「家族の為に自分の意思でなった契約奴隷なんだね……」


 契約奴隷は、今でいう期間労働者や派遣労働員のようなものだ。正式な雇用ではなく、借りた金額分、一定の期間働く契約を結ぶようだ。


 奴隷という言葉に嫌悪感を持っていたが、ハローワーク的要素があると認識を変えた方が良さそうだ。


 契約奴隷が他の奴隷と違う最大の点は、職業を自分で細かく選択できることだ。


 借金奴隷や犯罪奴隷は強制的にオークションに掛けられて、借金額や刑期年数に応じ、競売で競り勝った買い主に魔法の隷属呪文の紋章に縛られ、職業や業務内容を強制されてしまう。


 隷属呪文は神が管理していて効果は絶対で逆らえないそうだ。


 犯罪者で可愛い娘はほぼ娼館経営者に買われ、娼婦にされることが多いそうだ。

 ルディのような希少種の可愛い娘とかの犯罪奴隷は、貴族の性奴隷や娼館行きはほぼ確定みたいだね。


「ルディはどういう仕事に就いていたんだ?」

「子爵家の家政婦です。半年という契約で掃除や洗濯や雑用などをしていました」


「子爵家ね……成程」

「ミーファ? 何が成程なんだ?」


「白狼種との契約は、給金が他より凄く高いはずなのよ。普通の一般人か、獣人族が良いのでも、犬族や猫族を雇った方が安いのに、希少種の白狼種を雇うとか……見栄を張る中途半端な中級貴族が多いのよね」


 下級貴族じゃ高額な者を雇えるほど資金の余裕はない。上級貴族はそんなことしなくても、下位貴族の子家の息女たちが箔を付けるのに侍女見習いとして名乗り出るために、雇うのは家政婦ではなく、もっと下級の端た女や下女とかを契約で雇うそうだ。


「つまり、見栄っ張りな中級貴族家でルディの身に何かあったってこと?」

「おそらくそうなんじゃないかな……ルディ、違う?」


「ミーファ様のおっしゃるとおりです。旦那様は優しいお方だったのですが、奥方様の一人が、見栄やプライドの高い御方でして……。旦那様が留守の時に、その奥方様にロープで縛られて殴り殺されてしまいました」


「どうしてそのようなことを!? 何か殺されるほどのミスでもやったの?」


 ミーファは憤っているが、ルディから聞かされたのは、あまりにもくだらなすぎる理不尽な理由だった。


「旦那様の日頃の優しさが仇になったようです……。私との浮気を疑われたのです」


 可愛いルディに優しくする旦那の浮気を疑って、主人がいない間にルディを拷問して吐かせようとしたようだ。

 見栄を張りたがってルディを雇ったのはその奥さんだったのに、いざ雇ったは良いものの、ルディに優しくする旦那に苛立ち嫉妬したようなのだ。


 殴って拷問している間にどんどんエスカレートし、最後には鉄棒で頭を殴打されてルディはそこからは覚えていないそうだ。


 おそらくはそれが致命傷になってその時死んだのだろう。


「可哀想に、痛くて辛かったでしょう」

「八雲君、まさかここまで話を聞いて追い出したりしないわよね?」


「分かったよ。じゃあ今からギルドに行って、ルディの冒険者登録と『魔石』の換金をして服を買いに行こうか?」


「「賛成!」」

「皆さん、ありがとうございます!」



 早い方が良いと、直ぐに宿屋を出て冒険者ギルドに向かった。


「レスカさん、この娘を冒険者登録しに来ました」

「その娘……ある程度の情報は入ってるわ。色々大変だったようね。でも、あなた冤罪が晴れて良かったわね。状況を聞いた限りでは、かなり不利な感じだったようだけど……」


「はい。危うく娼婦にされてしまうところでした。皆さまには本当に感謝しています」


「彼女はいろいろ運も良かったのでしょう。魔石を少し持ってるようですので、その換金をお願いします」



「皆と違ってカードはブロンズ、冒険者の階級は最下位のGランクからスタートだけど、こればっかりは仕方ないわね。後、パーティーが4人になったのなら、クラン登録もできるけど、どうする? クランの説明は要る?」


「あ、お願いします」


 クランの意味はゲームと同じなら大体分かるのだが、この世界でどういうメリットがあるのかまでは知らないので説明を聞くことにした。


「ギルドにはパーティー登録とクラン登録ができるの。パーティー登録は7人までだけど、登録料は無料よ。クランは基本、登録人数に上限はないわ。大手クランとかだと100人を超えるクランも幾つかあるわね。クランの最大の利点は、ギルドにある亜空間倉庫を利用できるようになる事ね」


 俺には【インベントリ】が有るのであまり意味はないかな?


「この亜空間倉庫はクラン名で管理され、クラン員ならどの町からでも出し入れできるようになるの」


 ん? どの町からでも? それだと話が違ってくるな……それ、かなり有用だね。



「その共有資産の中にはお金も含まれるのですか?」

「ええ、お金も道具も亜空間内で繋がっているので、どの町からでも共有できるわ。詳しく説明しなくても利点を理解できたようね?」


「はい。この町で大手クランに加入できた場合。普通なら大した資金も無いでしょうが、大手クランの庇護を受けたのなら、高レベル地帯で活躍しているメンバーの資金がこの町でも使えるってことですよね? 武器なんかのお下がりを貰えたりするなら、かなり利点は多いかと思います」


「ふふふ、理解があって凄いわ。そのとおりよ。でも、倉庫の詳細設定ができるので、全て引き出せるとは限らないわ。普通お金は役職者しか出せない制限を掛けているわね。もしくは月に幾らまでなら引き出し可能とか、出し入れ自由の枠と制限のかかった枠を分けてるクランもあるわ」


「枠を分ける?」

「クランを立ち上げるには、年契約でクラン登録が必要なのだけど、亜空間倉庫がオプションで1枠(50個・重量制限なし)付いてくるの。2枠目が要るなら追加のオプションでお金が要るわ。大手は何枠か借りて、その枠毎に引き出し制限が掛けられているって訳ね」


 入ったばかりの新人に無制限で権限を与えたら、全て引き出して持ち逃げする可能性があるって事だな。

 俺がやってたMMOのゲームでも、そういうトラブルを良く聞いた。

 『借りパクされた!』とか騒いでも、運営は対処してくれない。ちゃんと制限が掛けられるのに、掛けてない方が悪いからだ。


 信用して裏切られても、それは自己責任というわけだ。


「クランのデメリットとかありますか?」

「特にないわね……登録料と毎年更新料が要るってことくらいかしら」


「登録料と更新料は幾らなんですか?」

「4人からクラン登録可能で、5万ジェニー必要ね。更新料も同じ額よ」


 今、5万は痛い!

 メリットは大きいが、4人しかいない今はあまり必要性がない。


「あ、それとね……クランにもランクがあって、クランランクが高いと受けられるクエストに冒険者ランク制限があっても、許可される場合もあるの。クランのランクは、クランメンバーの討伐数やクエスト数なんかが関係するから、早めに登録することをお勧めするわ」


 俺のまだ要らないかなという考えを汲み取ったのか、そうアドバイスをレスカさんはしてくれた。


 討伐数が関係するなら、早くから登録した方が良いよな……でも5万ジェニーはきつい。



 レスカさんに待ってもらい、少し皆と相談することにしたのだった。

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