第2話 光の道を駆る聖者

日本でも絶賛展開中の動画配信サービス「Netflix(ネットフリックス)」。他所のサービスには無いオリジナルコンテンツが売りで、アニメやドラマ、バラエティ番組など様々なジャンルが並んでいます。


 筆者が特に好んで観ているのは、単発の海外ドラマ『The Saint(ザ・セイント)』(二〇一七年)。レスリー・チャータリス原作の冒険小説を元に、今風のアレンジが多く施された秀作です。元々は新作テレビシリーズを念頭に置いたパイロット版だったそうで、実現に至ってないのが惜しい。


今作では豪華ゲストとして、過去のテレビシリーズ『The Saint(セイント 天国野郎)』(一九六二~一九六九年)で主人公サイモン・テンプラーを演じたロジャー・ムーアと、続編のシリーズ『Return of the Saint(サイモン・テンプラーの華麗な冒険)』(一九七八~一九七九年)で同じくサイモン役を演じたイアン・オギルビーの両名が登場。どちらも若い頃より貫禄が付いて、憎たらしい悪役がサマになっているのが見所です。


 ただ、残念ながらリブート版『The Saint(ザ・セイント)』の評判は芳しくありません。ストーリーも演出もよく出来てると思うのですが、作品世界の根底にある陰鬱いんうつな空気と、アダム・レイナー演じる義賊セイント=サイモン・テンプラーの生真面目キャラが、現代の視聴者層に合わないのでしょう。特に日本の視聴者が観ると「退屈なルパン三世」と受け止めてしまいがち。


 かと言って過去のテレビシリーズ同様、サイモンを天然タラシのプレイボーイにしてしまうと、今度はポリティカル・コレクト(中立的表現)を意識しろと突き上げられるでしょうし、さじ加減が難しい。エンターテイメントとはかくも面倒臭いものだったかしらん。



 大昔に衛星放送「スカパー!」の海外ドラマチャンネル「スーパー!ドラマTV」で再放送していた、『The Saint(セイント 天国野郎)』の方はオールド・タイプの犯罪ドラマ。たまにネス湖の怪獣騒動など、突飛なエピソードが挟まる痛快冒険活劇です。


 不思議な事に、日本での放映エピソード全三十話の内、怪盗セイントが派手な盗みを働くシーンは殆どありません。犯行現場に天使のいたずら描きをする事もなければ、鮮やかな変装術を披露する事もなし。裕福な謎の私立探偵が、諸国漫遊をしながらワケありの善男善女を助けるといったイメージです。義賊らしい振る舞いは、ひょっとしたら日本未放映分のエピソードでしか観られないのかもしれない。



 同じく「スーパー!ドラマTV」で再放送していた『Return of the Saint(サイモン・テンプラーの華麗な冒険)』全二十四話、こちらも怪盗セイントは私立探偵みたいな立場ですが、一九七〇年代のヒーローらしく情に厚い熱血漢。その聡明さ、誠実さで数多あまたの困難を乗り越え、苦しむ人々を救っていきます。


 加えて、オープニングテーマに採用されたオリバー・オニオンズの曲『Taking it Easy』が印象深かったですね。元々はヨーロッパ放映版「セイント」のオープニング曲で、それを日本放映版でも使ったという次第です。


 ところが二カ国語放送で音声を切り替えると、アメリカ放映版のオープニング曲(作曲/ジョン・スコット)まで流れて来るからややこしい。しかもこの曲、冒頭で聞こえる笛の音は、大昔のラジオドラマ版「セイント」(一九四五~一九五一年)のオープニングをインスパイアした物です。新作シリーズを作る度にアレンジし放題、改ざんし放題と思わせておいて、実は意外と過去作に敬意を払っていたのですね。

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