第11話 魔力制御

 

 地面に座って目を瞑って集中する。

 体内の魔力を感じ取り、自分で制御する。


 いや、制御ってどうすればいいんだ?

 そもそも、魔力ってどこにあるんだ? 全くわからない。

 俺の身体の中に本当に魔力はあるのか?


「ふっふっふ! その顔は何をどうすればいいのかわかっていない顔ですね! ここは姉弟子としてドヤ顔するところですね」


 片目を開けてみると、本当にドヤ顔をしているハンナの顔があった。

 ムカつくほど可愛いドヤ顔。うん、可愛いけどやっぱりムカつく。


「ドヤ顔してないで教えてくれよ」


「ご主人様、私がただで教えてくれると思っているんですか? 教えて欲しくば”お願い! お姉ちゃん!”と言うのです!」


「お願い! ハンナお姉ちゃん!」


「ぐっはぁ! な、何という破壊力! 癖になりそうです…」


 ハンナが胸を押さえて崩れ落ちた。どうやら心臓ハートを撃ち抜かれたようだ。

 母さんが優雅にティーカップを傾けている。


「あらあら。仲が良いわねぇ」


「そうです! 私とご主人様は仲が良いのです! なんせ私はご主人様の性処理用愛玩メイドですから!」


「ハンナお姉ちゃ~ん? 早く教えてくれ~」


「くふぅっ! い、いいでしょう。まずは、ご主人様。目を瞑ってください」


 俺はハンナの言う通り、再び目を瞑った。

 静かな声でハンナが囁いてくる。


「では、思い出してください。先ほどのアリシア様の魔力の奔流を。身体から解き放たれた魔力の波動を」


 思い出せ。母さんの荒々しい魔力を思い出せ…!


 う~ん。実を言うとあんまり覚えていないんだよなぁ。

 息ができなくて死にそうだったから、母さんの魔力を覚えていない。

 凄いとは思ったけど。


「あんまり覚えていませんか? じゃあ、私が少しずつ魔力を放出しますので、感じ取ってみてください」


 んっ? おっ? 何やら温かくて心地よい感じがする。

 これがハンナの魔力か? なんか静謐で綺麗な印象を感じる。


 放たれている力の場所が移動している。もしかして、歩き回っているのか?


「ハンナ、もしかして、俺の右斜め後ろにいる?」


「おっ? 正解です。私の魔力を感じ取れたみたいですね」


「ああ。温かくて心地いいというか、安心するというか、綺麗な力だ」


「そ、そうですか…ありがとうございます」


 んっ? ハンナはどうしたのだろう?

 もしかして、照れてる?


 母さんがクスクスと笑い、ハンナが咳払いをした。


「コホン! 続けましょう。私の魔力に似た力をご主人様の身体の中で見つけてみてください。心臓のあたりを探すと見つかると思いますよ」


 ハンナの魔力に似た力…俺の心臓のところ………おっ? これか?

 今まであったのに気付かなかった俺の魔力。

 力強い力の奔流が俺の身体を駆け巡って、心臓の付近に集まっている。

 煌々と輝く太陽のように力強い俺の魔力。


 何故今まで気づかなかったのだろう?


「見つけたみたいですねぇ。ご主人様がニヤニヤしています。じゃあ、その力を身体の全身から解き放ってみてください。魔力放出です」


「こ、こうか?」


 イメージはさっきの母さん。

 俺の身体の全身から爆風のように飛び出して行くイメージ。


 心臓の付近にあった太陽のような魔力の塊が爆発した。

 爆風が俺の身体中から放たれていく。


「っ!?」


「あらあら! 流石私の息子ねぇ」


 俺はぐったりと大の字で地面に倒れ込んだ。

 魔力を放ちすぎて魔力枯渇に陥ったのだ。

 全身を物凄い倦怠感に襲われる。


 あぁーだるい。身体が重い。動きたくなーい。


「はぅ…これほど荒々しくて凛々しい力……素敵です…!」


「ハンナちゃん、女が刺激されちゃったかしら?」


「あわわっ! しーっ! しーっです!」


「ふふふっ。ルクシア。そのままでいいからゆっくりと深呼吸をしていなさい。魔力が体中を巡って染み込むイメージで」


「わかった」


 吸って…吐いて…吸って…吐いて…ヒッヒッフゥーヒッヒッフゥー。

 あれっ? これは違った。深呼吸深呼吸っと。


「あらっ? ルクシア。あなたって集中するとき自分の中に籠っているの? それはダメよ」


「えっ? なんで?」


「魔力の回復というのは、世界に満ちる魔力を吸収しているの。魔力を使う時も世界の魔力を自分の身体に引き込んで使うと消耗が抑えられるのよ。だから、集中するときは自分じゃなくて世界と同化するイメージでしなさい」


 なるほど。世界と同化し、魔力を引き込んで自分のものとする…。

 うおっ!? なにこれ!? 物凄い量の魔力が流れ込んできたんだけど!?


「うわぁ…物凄い量の魔力がご主人様に入っていったんですけど」


「もしかすると、私よりも世界に対する魔力と相性がいいのかも」


「お、俺、もう回復しちゃったんだけど」


 身体の倦怠感がきれいさっぱり無くなった。魔力が回復した。

 ガバっと起き上がり座り込む。元気いっぱいだ。

 あり得ないほどの回復力だな。


 ハンナの顔が引きつって、母さんは感心している。


「じゃあ、ルクシア。そのまま体の中で魔力を循環させなさい。身体の外には漏らさないように」


「わかった」


 一回気づいたら体中に流れる魔力なんてよくわかる。

 心臓の付近に集まる魔力の塊。血液のように体中を循環させる。


 おっ? 身体がなんかポカポカしてきた。身体が軽い。


「一発で成功しますか。流石ご主人様です!」


「それが魔法使いの身体能力強化の基礎よ。まあ、身体能力特化の聖力程強く強化はできないけど。これに筋肉の動きや神経の伝達などの知識があったらもっと強化できるわ」


 勉強しよう。幸い俺の周りには詳しそうな人が多いから。


「今度は魔力を圧縮させてみて」


 心臓にある魔力の塊をギュッと握りしめるように圧縮っと。

 むむむっ? 難しいな。むぎゅっむぎゅっ!


 今までは水のようにサラサラと全身を流れていた魔力が、ドロドロになって流れがゆっくりになった。


「魔力圧縮は魔法の強化よ。さて問題です。魔力圧縮したまま魔力循環をさせたらどうなるでしょう?」


「身体が更に強化される?」


「ピンポーン! 身体が強化される魔力循環と圧縮を同時に行うことで魔力制御も訓練できるわ。更に魔力量の最大値も増える。一石三鳥かしら?」


 ハンナが手をあげて発言した。


「ちなみに、私がぐーたらしている間もずっとやってます」


「私もよ。寝ている間も無意識にしているわ。さっきの魔力放出は圧縮していた魔力を解き放っただけ。何もしていなかったら常時あの量の魔力を放出しているわ」


 俺を吹き飛ばした魔力が普通だと!?

 もしかして、母さんは魔帝時代よりも今のほうが強いんじゃないか?

 母さんのことだからあり得る。


「基礎中の基礎だけれど、これって便利なのよねぇ。襲われても私の肌には傷一つつかないし、地面を殴りつけたら大きなクレーターができるし、ベッドの上ではアークを倒しちゃうし」


「うん、最後のはどうでもいいけど、とてもすごいことがわかった」


「じゃあ、一週間くらい練習していてね。身体能力の確認などもしておいて。一週間後にもっといろいろと教えるわ」


「わかった」


 俺は地面から立ち上がるが、今度は魔力制御がおろそかになる。

 何かをしながら同時に魔力制御をするのはとても難しい。

 もっと練習しよう。


 立ち上がった俺の目の前に優雅に椅子に座った母さんとハンナの姿があった。

 二人はティーカップと湯飲みを持ち上げる。


「おかわり、注いでくれない?」


「ご主人様! お願いしまーす!」


「へいへい。お母様とお嬢様。しばしお待ちくださいませ」


 俺は魔力制御を行いながら、今日は一日、二人の給仕をすることになった。


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剣帝の息子、魔の道に進む ~俺は剣の才能は0だったけど、魔法の才能は限界突破していた~ ブリル・バーナード @Crohn

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