不倫の結末
N.仁奈子
第1話
あぁ きょうは疲れた
月末の残業は仕方ないか…
さっきから頭痛も重なって
重い足取りで
晩秋の夜道を歩いていた
あら?
見慣れた風景の中に
ポツリと点のような
灯りが見える
車両一方通行
この道のずいぶん先の左側
後ろから不意に足音が聞こえた
走って来る
振り返ろうとした時には
その男はすでに
私の脇を走り抜けていた
早過ぎる
その背中はずんずん遠くなって
先ほど見つけた灯りの辺りで
ほんの僅か止まったように見えた
ようやく 灯りに近づくと
占いのお婆さんの姿があった
今まで一度も 見かけた事はない
……横目に通り過ぎようとした時
お婆さんが急に顔を上げた
私は吸い込まれるように
古びた木の椅子に座ってしまう
「どこに行く?」
低い声で問われる
「マンションに帰るところです」
素直に答える
「あんたの行く先は違う…」
意味がわからない
「さっき 男に注意してやった
お前さんは次の角を曲がって
警察に行くか…真っ直ぐ行って
地獄に行くか…とな」
その時 車の急ブレーキと
重くて鈍い音が聞こえた
「やれやれ …
あんたの愛が勝利したな。。」
キョトンとしている私に
お婆さんはお決まりの水晶玉を
差し出した
真一が見える
愛して止まない真一の姿
私の部屋にいる
キッチンに立っている私の背中は
小刻みに震えている
泣いている
一緒には暮らせない真一と
それを承知で7年の月日が
流れていた
その間 私はひたすら 愛し続けた
別れるなんて考えられない
別れは私にとって死と同じだ
真一は興奮した様子で立ち上がり
テーブルの上のガラスの灰皿を手に取って
背後から私の頭に振り下ろした
突然、
水晶玉は元の透明な玉に戻る
と、同時に 私の頭に
強烈な痛みが走った
そうだ!
ついさっきの出来事!
床に崩れ落ちながら
この結末が 充分理解できる自分に
半ば感嘆しながら…
それでも真一を愛している
ひとりでは行かない…
ひとりでは行かない…
お婆さんが囁いた
「あんたは マンションに帰るのではない
あんたの行く先に あいつは待っている…
おのれで選んだ道じゃ…」
fin
不倫の結末 N.仁奈子 @n-ninako
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