災難
僕は早足で小学校から出る。外に出ると陽はすでに傾き始めていて、世界は暗い橙色の光に照らされていた。
(ほんとに災難だった。追っかけられて何か言われそうだからはやめに帰ろう)
なにも悪いことをしていないのに下を向いて周りの人間を見ないようにして歩く。
「うぉっと」
ブゥンという音と共に目の前を車が通り過ぎた。下を向いて歩いていたから信号に気づかなかった。今は赤だ。気持ちを切り替えて前を向く。
横断歩道の先に何やら見覚えのある人間が立っている。目を凝らしてよく見る。
(っっ!同じクラスのコリルさんだっ!)
(やばいやばいコミュ障だからどんな反応したらいいかわかんないよ。下を向いて気づかないフリする?それとも会釈する?やばいやばい)
そんなことを考えている間に信号が青になった。
追い詰められた僕がとっさに選んだ選択肢は、下を向いて気づかないフリをすることだった。
(知らない人。知らない人。知らない人。)
心の中で唱えながらすれ違うのを待つ。そんな僕の気持ちはつゆ知らず、明るい声が飛んでくる。
「あ!フューリオ君だ!こんなところで何してるの?」
気づかれてしまった。あたかも今気づいたかのように上を見る。
「ん!あっ!コリルさん!えっと、怪我してる女の子を学校に連れて行ったところで....」
「え!わたし、今小学校から電話が来て迎えに来てくださいって言われて妹を迎えに行くところなのよ!」
「わたしの妹を助けてくれたの?」
「妹さんだったんだね。膝をすりむいたぐらいだったからそこまでひどい怪我じゃなかったよ」
「良かった〜。ほんとうにありがとう。フューリオ君」
「じ、じゃ!僕は用事があって急いでるから!」
「う、うん!ありがとね!」
僕はその場から逃げるように歩き出した。まさか同じクラスのコリルさんの妹だったとは。なんかめんどくさいことに首を突っ込んだ気がする。翌日の学校での挙動をシミュレーションしながら家へと急ぐ。
家へ近づくに連れて消防車の音が大きくなってくる。
(家の近くだろうけど、さすがに僕の家ではないはず)
自分の家が燃えるなんてとんでも無く低い確率だ。
家に近づくに連れて音の発生源が自分の家の方向からズレると思っていたが、一向に変わらない。
(さすがに、さすがに僕の家ではないだろ......?)
気になって駆け足になる。家々の隙間から炎が見える。角を曲がれば自分の家が見えるはず。
駆け足はいつのまにか全力ダッシュに変わっていた。
角を曲がると炎の正体がわかった。
燃えているのは僕の家だ。
絶滅したはずの独裁者の末裔が僕らしい @HirotoAkagi
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