エピローグ

「それじゃ、また後で」


 改札の向こうへ消えていく栗色の髪に軽く手を挙げ見送って、俺も帰途へつく。

 気まぐれに、少し違う道を歩いてみようと思った。


「あ、この公園いい感じ」


 小さな公園に、古いけど手入れがされた遊具がいくつかある。

 日常になじんだささやかなアトラクションに“良さ”を感じ、手にしたスマホで何枚か写真を撮る。


 撮影した画像は、すぐにPCと同期させている通話アプリに送った。

 いま皆で作ろうとしている“秘密基地たまりばワールド”のアイデアとして共有するのだ。


 アプリを開くと、俺個人宛に新しいメッセージが来ていた。


 mekusako:あらためて、今日はありがとうございました! また今度ゆっくり遊びましょう!

 lumina:こちらこそ、ありがとう。さっきも言ってたけどさ、いつか夫人たちにも会いたいよね。

 mekusako:はいっ! じゃあパスポート用意しなくちゃですね!



「気が早ェよ」


 今は電車の中なのであろう、即レスポンスしてくるメッくんに苦笑する。


 mekusako:さっきイベントカレンダー見てたんですけど、今日は20時から面白そうな集会やるみたいですよ。伝承・歌舞伎役者アバター集会ってやつです!

 lumina:何その得体の知れない集まり。

 mekusako:アバターは現地で借りれて飛び入りOK! ありがたいですね!

 lumina:お、おう……


 スマホの画面から顔を上げ、メッくんとのやりとりを反芻する。


「さっきまで一緒に蕎麦屋へ行った相手と、夜にはワケわかんない場所で遊ぶ約束をする、か――」


 ああ、これが俺たちの日常当たり前になってるんだ、と改めて思う。


 駅で電車に乗れば隣町へ行けるのと同じように、HMDゴーグルをかぶれば仮想現実の世界ワールドへ行ける。


 そこが公園でも、蕎麦屋でも、パーティクル飛び交うサイバー・ホールでも――どこへ行ったとしても、そこには誰かが居て、何かがある。


 俺たちが経験するのはいつだって、まぎれもない本物リアルなんだ。



 仮想現実バーチャルのが身近になったことで、世界はちょっとだけ広くなった。

 みんなより少し早くこの場所に来れた俺たちは、これからもこの世界で当たり前にいく。


 もしかしたらこれからもっと広くなっていくかもしれないこの世界バーチャルで、色んな本物リアルに触れながら。



「飛び入り参加で集会、か。夜まで楽しみにしとくかな!」



 独りちてから、少し胸を張って歩調を早める。


 手に提げた新型VRコントローラの袋が、高揚する俺の気持ちに合わせて揺れていた。














 To be continuedおしまい...

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Just V! ~このたび、可愛さ全振りの俺が攻撃力全振りのおばあちゃんと年の差コンビを組むことになりました~ 拾捨 ふぐり金玉太郎 @jusha

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