6000文字くらいの短編です。野々ちえさんにしては珍しい長さではないでしょうか。この半分くらいか、長編かという印象です。5000文字くらいの短編がお手頃でもっと書いてほしいなって思います。小説は企画ものであらすじが決まっているのだとか。でも、うん、この男の子なんて野々ちえさんが書く小説にいかにも出てきそう。しっかり野々ちえ作品になっています。
夏の終わりに触れる夏の物語は、なんと美しく温かいのでしょうか。私は長いこと海に行っていませんが、海の青さや潮の匂いを感じ取れるような……素晴らしい短編でした。
野々ちえ様の『海が太陽のきらり』完成作品――でいいのかな? 物語を紡ぐには、どこに視点を置くかが重要になってくる。その選別に寄って、同じ物語でも読者の感じ方が大きく変わってくるからだ。 そこを、交錯する同時視点で表現することによって、この物語はひとつの完成形を成したと言えるだろう。 同じ時を生きる、陽子の想いと、海斗の想い。 読者は余す事なく堪能するといい。 陽子と海斗……お互いですら知り得なかった、二人だけの物語を。
素敵な短編でした。美しい、と思う瞬間は、何をきっかけに美しいと思えるのでしょうね。毎日幸せで、何も苦しみがなくて、そんな日々を送ることができたらきっといいのだけれど。でもそうではないからこそ、優しく美しく見えるものがあるのだと思うのです。陽子と海斗の関係も、静かに、それでもじんわりきゅんとする。爽やかさを感じながら、暖かさを手に包み込むようなお話でした。