第4話 昼の街と小さな出会い達

 あくびを溢しつつベッドから降りて洗面所へ向かう。すると、


「あら、起こしに行こうと思っていたのだけれど。おはようジゼル。早起きが出来て偉いわね」


 昨日のテンションはすっかり落ち着いたらしい、優雅に清楚に頬笑むライラと廊下で鉢合わせた。


「おはようライラ!早起きは慣れているの」

「とても良いことだわ。そうだ、起こしに行くついでにこれを渡すつもりだったの」


 そう言って、ライラは手に持っていた黒い布をそっとジゼルに渡した。綺麗に折り畳まれたそれを広げてみると、ライラが着ているものと同じデザインの修道服だった。


「私のね!」

「ええ。サイズはおそらくそれで合っていると思うわ。朝のお祈りはそれに着替えてからしましょう」




 顔をよく洗い、先ほどもらった修道服を着るために一度自室へと戻ってきたジゼル。

 新しい洋服というのは女の心をいつでもときめかせる。するすると着替えを済ませ、ジゼルは自分の格好をしっかりとチェックする。

 それから意味もなくくるりと一回転し、ふんわりと広がる裾を見ると、ますますジゼルの気分は高まる。


「ふふっ♪」




 *******




「こっちよ、ジゼル」


 朝食と、朝のお祈りを済ませた二人は、ライラが仕事をしながらジゼルに街を案内するためにと教会を出ていた。


 ライラは午前中は街のボランティア活動を、午後は教会でワイン作りをしていると聞いた。どんな人に出会えるだろう、どんなことをするのだろうと、ライラの後についていくように歩きながら、新しい街を隅々まで見渡す。もちろん、ヴァンパイアについての噂話も逃さぬように。


「あ!ライラさんだ!」

「ライラさーん!」


 途中、子供達がライラのもとへ駆け寄ってきた。


「あれぇ、この人だぁれ?」

「もしかして、新しいシスターさん?」

「ええ。シスター・ジゼルよ。ジゼル、この子達は毎週日曜日に教会で開く勉強会で面倒を見ている子達なの」

「へぇ~!こんにちは、ジゼルです!」

「よろしくね、ジゼルさん!」

「わからないことがあったら、僕達にも聞いてね!」

「あらあら、もう懐かれたのね。ふふふっ」


 お話しようお話しようと右に左に腕を引っ張られる。痛くはないし、むしろ可愛らしい子供達に囲まれて幸せだ。

 そこでふと、ジゼルはこの子達の背格好から一人の男の子を思い出した。夢にも少し出てきたあの子。今頃元気にしているかしら。



 子供達と分かれ、再び街を進む。

 今度は市場にやって来た。人も多くてずいぶん賑わっている。色とりどりに並ぶお店をわくわくしながら見渡して歩いていた。


 ライラの買い物のお手伝いとして、果物や野菜の入った袋を持ちながら。おそらくそれがいけなかった。

 急に足がぐんと止められたかと思えば、ジゼル体が前へと倒れていく。あ、小さな段差に躓いたんだな、なんてきちんと考える頃には、ジゼルの顔を地面すれすれにまで近づき、持っていた物達は辺りにぶちまけられていた。


「ジゼル!」

「いたた~……転んじゃったや。はははっ……」

「本当に、あなたったら。気を付けてちょうだい?」


 ライラに起きるのを手伝ってもらい、誰かに踏まれたり蹴られたりする前に急いで買った物達を袋の中に入れ戻す。ジゼルは近くに転がっているのを、ライラは少し遠くまで転がってしまったものをそれぞれ手分けして集めた。ジゼルがせっせと拾っていると、後ろから明らかにこちらに近づくような足音が聞こえた。足音がすぐ側まで来ると、


「手伝いましょうか?」


 スッと、自然にジゼルの前に屈み、落としたリンゴをひとつ手渡してくれる青年が現れた。青年は頭から大きな布をフードにして被っていて表情は見辛いが、声音はとても優しいものだった。


「ありがとうございます!」

「君は見ない顔だね?新しいシスターかな?」

「はい!これからこの街でお世話になります!」

「そうなんですか。俺もこの街に住んでいるですよぉ」

「でしたら、またどこかで会うかもしれませんね!これからよろしくお願いします!」


 青年が手伝ってくれたこともあり、早くも袋を元の状態に戻すことができた。


「それじゃあ、お元気で。頑張ってくださいねぇ」

「本当にありがとうございました!」


 ぺこりと頭を下げて笑顔で彼を見送った。ちょうど青年と入れ違うようにして、ライラが戻ってきた。すれ違う時にお互い会釈をしていたようにも見えた。知り合いなのだろうか?今度街の人についていろいろ聞いてみよう、そうジゼルは思ったのだった。


「ジゼル。あなたって本当にうっかりさんなのね」

「あはは……私、昔からこうなのよね」

「これなら、毎日あなたのうっかりで笑っていられそうね。うふふ」

「も~!まあ、ライラが笑ってくれるのはいいけど。でも恥ずかしい失敗とかをずーっといじったりはしないでね!」





 一方、ジゼルと別れた青年は、被っている布の下で小さく笑んでいた。


「なるほどなるほどぉ?あの子ならどんくさしうだし、あいつでもできそうだねぇ。マークしとこ~っと。ククッ」

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Vow of Vampire 歩小 律音(ポコ リット) @poco_rit

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