第3話 シスター・ヴァンパイアハンター

「ライラ、まさか酔ってる……?」

「酔ってない酔ってな~い!むしろこっちがほんとのあたし~!」


 ニカッとまぶしい笑顔を向けられ戸惑うジゼル。確かに呂律はしっかりしているしふらふらしてもいないので、酔っているわけではないようだ。

 にしても、変わりすぎである。


「シスターって、さっきのライラみたいな静かな人だと思ってた……」

「じゃあ今日からシスター見習いのジゼルは静かな人~?」

「え?ん~……、とは言えないかも……」

「でしょ?どんな人間にもきちんと自分ってもんがいるのよ。あたしは普段それを隠してるだけ。でもお酒飲むと、かしこまってるのがばからしくなっちゃうの。それに神様と飲む時は、ほんとのあたしを見てもらいたいし?ほら神様、かんぱ~い!」


 宙へグラスを振るい、また一口ワインはライラの喉を通る。


「だからジゼルも、無理にシスターっぽく振る舞おうとしないで、ジゼルらしくいたらいいからね?現にあたしはこうだし♪」


 ふと、緊張の糸が切れた気がした。

 ライラ―静かな方の―に温かく迎えられ、教会での生活は楽しくなりそうだと安心していたが、ジゼルの中にまだ少し残っていた『シスターとしてどうしたらいいのか』への不安が、たった今解消した。


「ライラって、やっぱり良い人ね!」

「ん~?……ふふっ、でっしょ~♪」




 ********




「やめて……お姉ちゃん……」


 お姉ちゃん。おしゃれで素敵なお姉ちゃん。喧嘩すると怖いお姉ちゃん。でも仲直りすると、優しく抱き締めてくれるお姉ちゃん。


 うめき声を上げながら、理性を失った目で、私のもとへ這い寄るお姉ちゃん。


「やだ!やだ!助けてぇっ……!」




 バンッッッ!





「娘さんは、ヴァンパイアになりかけていました」


 男の人が、お母さんとお父さんにお話ししてる。男の人は、お姉ちゃんを撃った人。うるさい音と飛び散る赤。動かなくなったお姉ちゃん。男の人は、ヴァンパイアハンターだと言った。

 ヴァンパイアは、人を襲う怪物。襲われたお姉ちゃんは、ヴァンパイアにされたと男の人が言った。


 お姉ちゃんがいない悲しみは大きくて、私は何もする気が起きなかった。あの子には悪いけど、でも、悲しくて動けない。ごめんね、しばらくは遊べない。


 そうしてお姉ちゃんのいないお家で何日か過ごしていくうちに、悲しみは憎しみに変わっていった。

 許せない。お姉ちゃんを狂わせたヴァンパイア。大好きなお姉ちゃんを奪ったヴァンパイア。



 お姉ちゃんのお葬式の日、お姉ちゃんを撃ったあの男の人にお願いした。ヴァンパイアを倒したい。お姉ちゃんの仇を討ちたい。お姉ちゃんのようになってしまう人がいないように、私が守ってあげたい。


 お母さんとお父さん、男の人は驚いた。けど、私の顔を見て、許してくれた。


 明後日、改めて私を迎えに来ると男の人は言った。お母さんに身支度を手伝ってもらった。お父さんにお金とお守りをもらった。



 そうだ。あの子にも、私はもう行ってしまうと、教えないと。明日、あそこへ行こう。




 ********




「…………。」


 のそりと、体を起こす。窓から淡く差し込む光と、小鳥のさえずりが、今は朝なのだと教えてくれた。


「懐かしい夢…………」


 今までのは、私の幼い頃の記憶。私がヴァンパイアハンターを目指すきっかけとなったあの事件。


 おかげで改めて気が引き締まった。

 私はヴァンパイアハンターとして、お姉ちゃんのようにヴァンパイアにされてしまう人を、私のように悲しむ人を出さないために。


 この街をヴァンパイアの脅威から救うのだ。

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