これは恋ではありません!
「ほ、本当に来たぁ……」
「あ、信じてなかったなー?」
夜に行われる収穫祭の準備で慌ただしいお昼前、そのイケメンたちは村にやって来た。思わずそう呟いちゃうのは仕方なかったと思うの! だから、そんなジト目で見ないで、クレア! ごめんってばー!
「……あんまり見ちゃダメよ。まぁ、どのみち話しかけられちゃうんだけどね、はぁ。いい? 本当にイケメンだとは思うわ。でも一目惚れだけはしないで! 見惚れるのはいい。でもそれは恋ではありません! はい、復唱!」
「こ、恋ではありません……」
「よろしい!」
このやり取りも何回めだろうか。でも、クレアが満足そうに腕を組むから嫌な気はしない。私のためを思って言ってくれてるの、わかるから。
「ミクゥはちょっとおっとりさんだから、お姉ちゃんは心配なの」
「……どーせトロくてボケッとしてますよー」
「そこが可愛いからいーってことよ!」
「否定はしないんだ……!?」
自分がどこか抜けてるヤツだってことは知ってるんだ。でもそんなにハッキリ言わなくても! 私だって、ここまでクレアに言い聞かせられてるんだから、そう簡単に騙されないもん!
「ふふっ、なーに? 喧嘩でもしているの? お嬢さんたちっ」
「えっ」
突然、聞いたことのない男の人の声で話しかけられたからパッと振り向く。クレアのあっ! という声が聞こえた気がしたけど、時すでに遅し。私はその声の主の顔を至近距離で見てしまった。
長い睫毛、筋の通った高い鼻。きめ細やかな白い肌に、吸い込まれそうな緑の瞳。こ、こんなに綺麗な人、初めて見た……!
「ひゃ、あぁっ!」
「わわっ、ご、ごめん!」
思いのほか近過ぎたため、変な声を上げて後ずさる。声の主も同じように驚いたのか、慌てて数歩後ろに下がった。
「まさか突然振り返るとは思わなくて……びっくりさせちゃったね。ごめん、近寄り過ぎたよ」
「い、いえ……だ、大丈夫、れす」
動揺し過ぎて噛んでしまった。は、恥ずかしい! 自分の顔が赤くなってるのがわかる。だって、すごく熱い!
「ごめん、仲間が呼んでるみたいだ。あ、僕はエクトル。君は?」
「み、ミクゥ……」
「ミクゥか。可愛い名前だね。またお詫びさせてよ。じゃね!」
そう言って、エクトルと名乗った金髪の少年はこの場を走り去っていった。思わずぼんやりとその後ろ姿を眺めてしまう。
「……ミクゥ?」
「ひゃいっ!」
すると、背後から私の名を呼ぶ冷たーい声が! び、びっくりした! でも言いたいことはわかるよ。それに、大丈夫。
「これは恋ではありません!」
「うむ、よろしいっ!」
ビシッと敬礼しながらそういうと、クレアも腕を組んでそう答える。そして数瞬の間を置いて、私たちは吹き出し、笑い合う。
「でも本当に? うっとりしてなかったぁ?」
「う、そりゃあ綺麗な顔をしていたもの。見惚れちゃったのは認めるよ? でも……」
「ふふっ、素直でよろしい。大丈夫。態度を見れば、恋に落ちたんじゃないってこと、わかるもん。あー良かったぁ! 途中まであらすじ通りで私も驚いたんだよ? 二人に見惚れちゃったもん」
クレアはチロっと舌を出していたずらっ子のように笑った。なぁんだ、クレアも見惚れたのか。ま、あれは反則だよね。すごく綺麗な人だったもん。
「さて、と。……問題はここからだよ?」
「ん。わかってる」
クレアはスッと表情を引き締めて拳をギュッと握る。そう、大事なのはここからだよね。
「……気付いた?」
「うん。クレアに修行してもらってなかったら気付かなかったかも」
南の森の方から、嫌な気配がビンビンと漂っている。魔物の群れ、本当に来るんだ……!
「さ、行こう。村に来る前に、片付けなくっちゃ」
「……うん!」
そう言って拳に炎を纏わせて走り出したクレアの後を追うように、私も背中に翼を出して村から飛び出した。大丈夫、何度も訓練したじゃない、と自分を奮い立たせながら。
クレアが炎を纏わせた拳を振りかぶり、魔物たちのいる方向に向かって思いっきり突き出した。尻尾が大きく膨らんで、魔力をたくさん集めているのがわかる。
「えぇぇぇいっ!!」
掛け声とともに拳から炎だけが魔物の群れへと向かっていく。その炎は回転しながら範囲を広げ、最前列にいた魔物たちを一気に飲み込んだ。いつみてもすごいぃ! あっという間に魔物は火に包まれて悶え苦しんでいる。うっ、この姿を見るのはいつだって心が痛んで耳も垂れちゃうんだけど……そんなことは言ってられない。だって、躊躇していたら、こうなるのは私たちの方なんだから。修行の最中、散々クレアに言って聞かされたし、危ない目にもあって身に染みたんだ。
「ミクゥ!」
「う、うん!」
そうだ、私も眺めてばかりもいられない。クレアが攻撃しやすいように、私も頑張らなくちゃ! 私は魔物の群れの上空まで飛び、両手を組んで祈るように魔力を練った。
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