半魔型


 正直な話、私にはクレアの言うことがあまりよくわかってない。あ、もうクレアの言い続けていたシナリオとか前世の記憶とか、そういう話を疑ってはないよ? 元々、信じようと決めていたし、実際にこうして魔物の群れが来たわけだし。……そ、そりゃあちょっとは疑ってたけど! 今はもう全部信じてるよっ!

 でも、そんなクレアと同じような境遇の人が、あの三人の中にいるってことでしょ? う、うーん、そうなのかな? あ、でも、変なこと言ってたっけ。


『エクトルが、ここに来ることを決めたみたいだった……』

「エクトルが?」


 私の呟きに、クレアが反応してこちらを見た。そして目を丸くして突然怒り出した。えっ。


「ちょ、ちょっとミクゥ!? 今気付いたけど、獣型になってるじゃない! 戻って! 今すぐ戻りなさーいっ!!」

『えぇっ!? 今気付いたの!?』


 まぁ怪我をしてたし、すごく驚いたりもしてたし、仕方ないのかな? とは思うけど……でも、彼らにはすでに見られちゃったんだよね。クレアの怒りはそこにあると思う。だから私は素直に半魔はんま型に戻った。


「本当は、彼らに会う前にどうにか完全な人型になれるようにしときたかったんだけど……こればっかりはね。鍛錬あるのみだから仕方ないわ」

「魔力を抑え込むの、難しいもんね」


 私たち亜人は、三つの形態に変化することが出来る。生活のしやすさから、獣の特徴を残しつつも人の形をとったこの半魔型が一般的ではあるんだけどね。生まれた時もこのままの姿で生まれるし、それが私たちにとって最も自然体の姿なんじゃないかって言われてる。

 で、感情が昂ぶることで完全な獣型にも比較的簡単に変化することが出来る。怒ったり泣いたり嬉しかったり。そういったことですぐ変わっちゃうんだけど、それは子どもの証拠って言われてるんだ。成長すれば、自在に変化は出来るようになる。今の私たちはこの段階にいるの。


 それから最後の三つ目は、完全な人型。今魔物と戦ってるあの三人みたいに、完全に人間と同じ姿になることが出来る。でもあれは、自分の魔力コントロールがしっかり出来てないと難しい、上級者の変化なんだ。メリットとしては、人型をとれる亜人として実力があると認められ、より良い仕事が任されたり変な人に絡まれたりしなくなることと、より精密な魔法を扱えるようになることかな。

 魔大陸と人間の大陸はとても離れていてあまり関わりはないんだけど、毛皮とかツノとか爪とか、人間にはない部位は人間の大陸で高く売れることから狙う人は一定数いるんだ。逆に人間の子どもはこの魔大陸で労働力として売られることもあるみたい……。


 半魔型は実力がまだ伴ってない証拠。特に希少種族は悪いことを考える人にとっていいカモになっちゃうんだって。その点、完全な人型であればたとえ希少だとわかったとしても、相当な実力者だってすぐにわかる。普通に考えて襲いかかる人はまずいないのだ。


「あの三人が亜人で、そういうことをしない人たちだってわかってはいるけど……転生者がいるなら話は別! 良からぬことを考えてないなんて言い切れないわ!」


 クレアは警戒心マックスだ。でも、完全な人型で戦闘までこなしている時点で、あの人たちには敵わないと思う。


「すっごく強いね、エクトルたち……」

「そ、それとこれとは別よ!」


 まるで、魔物の群れの大掃除を楽しんでるみたいにどんどん倒していく様子は、正直ちょっと怖いくらい。もちろん、助けてもらってるのはこっちなんだけど!


「それより、エクトルが怪しいって?」

「あ、うん。えっとね、後の二人はここに魔物の群れがいるなんて信じてないみたいだったから。頭がおかしいと思ってたとかなんとか……」

「そ、それ、間違いないじゃない! 転生者はエクトルなのね……」


 それで、どうするの? と恐る恐る尋ねた私に、クレアは暫し腕を組んで悩み、それから口を開く。


「何もしないわ。これでこのまま村が無事なら、シナリオ通りにはならなくなって、あの人たちが私たちを連れて行く理由もなくなる。ここでさよならになって終わるもの」


 ガシッと両肩を掴まれたから驚いて目を見開いた。クレアの目は真剣そのものだ。


「ミクゥのことは、私が守るからね! でも、もしもってことがあるわ。いい? エクトルがミクゥに迫ってきたとしたら、それが罠って可能性も出てきたの。惑わされちゃダメよ? それは、恋では、ありません! 復唱!」

「それは、恋では、ありません……!」

「よろしい!」


 なんだかややこしい話になってきたみたいだけど、クレアのブレなさ具合につい笑ってしまった。緊張が解れたかも!


「向こうも、終わったみたいね……」

「え? う、うそ……あれだけの魔物の群れをたった三人で、こんなに早く!?」

「あの三人のスペックなら不思議じゃないわ。あ、ほら。来たわよ」


 クレア、なんでそんなこと知ってるの!? と思わず聞き返してしまったけど、設定集に書いてあったからね! と返されてしまった。な、なるほど? あんまりよくはわからないけど……クレアが私を守るって言ってくれたその気持ちは本当だと思うから。だから私もクレアのことを信じて進もうと覚悟を決めた。

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