転生者


「マジでこっちなのかよ……!?」


 エクトルを入れた男の人三人組を先導していると、黒髪の小柄な人が信じられないとでもいうように呟いた。


「エクトルの無駄に自信満々な意見に助けられたよなぁ!? マクロ! 頭おかしいって言ってたくせによ!」

「それはリニも言ってただろ」

「失礼すぎるぞ、リニ、マクロ」


 こんな状況なのに大声で笑いながら軽口を叩き合う三人に目を白黒させてしまう。でも、彼らがあの魔物の群れをなんとかしてくれるだろうことは感覚でわかった。


 だって、全身の毛が逆立ってしまうほど、彼らからは「力」を感じるんだもん。


「銀色狐ちゃんよ、お前、意外と使えるヤツだな?」

「ふえっ!?」

「おい、リニ。言い方が悪役のそれだぞ? ごめんねミクゥちゃん。リニの馬鹿は、ミクゥちゃんがそれなりに戦う力を持ってるねって言いたいんだよ」

「あ? そうだったか?」


 赤い髪をツンツンさせた大柄の男の人は、言葉が荒くれっぽくて思わずビクビクしてしまう。エクトルがやんわりと言い直してくれたおかげで悪い人ではないんだなってわかったけど……声も背も大きいからやっぱりちょっと怖い!


「な、なんでそれが、わかるの……?」


 でも質問には答える。声が震えちゃった。うぅっ!


「めちゃくちゃ怯えてるじゃん。リニ、野蛮人」

「うるせぇ根暗マクロ!」

「ほら、怒鳴るしか脳がないし、選ぶ言葉に知性がない」

「てんめぇ……!」


 小柄な黒髪さんが挑発してるし、赤髪さんはすぐ怒るしやっぱり怖いよー! 今は、それどころじゃないのにっ!


「二人とも、いい加減にして。ほら、もう魔物の群れも目視出来るまでに……っ!?」

「クレア!」


 二人の喧嘩をエクトルが窘めた時、前方から大きな爆発が起きた。私たちは同時にその方向に目を向ける。すると、空に向かってクレアが吹き飛んでいくのが目に映った。

 身体が勝手に動いた。爆発自体はきっと、クレアが起こしたものだ。自分もろとも吹き飛ばないと、どうしようもないところまで追い詰められてたんだってすぐに理解出来たから。クレアが地面に落下する前に受け止めなきゃ! 普段なら決してなることのない獣型に変化する。この方が身体も大きくなるし、身体能力が上がるから間に合うはず。完全な狐型になった私はそのまま翼を出し、空を駆けた。


「うっわ……キレー」

「ボーッとしてる暇なんかないぞ、馬鹿リニ」

「うっせー、ちゃんと動いてんだろ!」


 背後からそんな声が聞こえた気がした。そういえば、私の獣姿はすごく貴重だから、絶対に人前で見せるなってクレアに言われてたっけ。良からぬことを考える人たちが、私を売り飛ばしちゃうよって。あぁ、約束破っちゃったな。でも、クレアを助けるのが一番大事なの。クレアがいなくなるなんて、絶対に嫌だ!


『クレアーーーーっ!!』


 空中で、傷だらけのクレアの服を口で咥えてキャッチする。そのまま宙で方向転換をして、魔物の群れから離れたところにそっと着地した。


「ミ、クゥ……?」

『クレア、クレア、しっかりして……! 今、治すからね!』


 泣いてる場合なんかじゃないのに、次から次へと涙が溢れてきてしまう。でもそんなこと、気にしてられない。クレアを守るように抱えて丸くなり、私は光の魔法を発動させた。


「あぁ、あったかい……ミクゥ、ありがと」

『うっ、クレアから離れてごめんね……でもね、助けが来てくれたからもう大丈夫だよ』

「助け……?」


 少しずつ、クレアの傷が癒えていくのを確認しながら、私は今の状況をクレアに伝えた。村に行こうとした途中で、エクトルたちに会ったこと。彼らが……とんでもなく強そうだって本能で感じたから、任せてもきっと大丈夫だってこと。


「は? え? あのイケメントリオが……? どういうこと?」

『あ、まだ動いちゃダメだよ!』


 私の話を聞いてガバッと上半身を起こしたクレアに注意を促す。でも、クレアはそれどころじゃないみたいだった。目を驚愕に見開いて、彼らの様子を凝視している。


「なん、で……だって、北の森に行ったはずじゃ……それに! あ、痛たた」

『クレア! ちょっと落ち着いて!』


 立ち上がってそのまま、また戦いにでも行きそうな勢いのクレアをどうにか抑え込む。でも、クレアは落ち着いてなんかいられないよ! と焦った様子でこう言ったんだ。


「だって、シナリオと違う!」


 シナリオ。そうだ、クレアの話だと違ったよね。彼らは北の森に仕事に向かって、村に帰ってきた時にはもう村は壊滅状態で、魔物の群れも通り過ぎた後だったって話。それを阻止するために私たちはこれまで頑張ってきたし、クレアが今こうして傷だらけになっているんだもん。

 でも私からすると、たまたま彼らがこっちに来たんじゃないの? くらいにしか思ってなかった。けどクレアはそうは思わなかったみたい。


「私たちがシナリオと違う行動をしたのは、私がこの未来を知ってたからよ。だって、言わなきゃミクゥ、訓練もしなかったし、今も村にいたでしょ?」

『それは、そうだけど……』


 そう考えると、ゾッとする。今更かもしれないけど……何も知らずに今ものほほんと、村でお祭りの準備をしていたはずなんだ。誕生日だって、浮かれてたはず。


「偶然ってことも、そりゃあるかもしれないけど……でも、そうじゃない可能性の方が高いと思う」

『そうじゃない、可能性……?』


 そうよ、と言いながら、クレアはゆっくり立ち上がった。動く気配はなかったし、傷もだいぶ癒えたみたいだから、私もその場に立ち上がってクレアの横に並ぶ。獣型の私の頭よりほんの少しだけ上の位置にあるクレアの横顔を見ると、その紅い瞳は、魔物の群れと戦う彼らを食い入るように見つめていた。


「あの中に、私と同じ転生者がいるんじゃないかって思うの。このゲームとシナリオを知ってるんだわ!」


 それが誰なのか、見極めないと! そう言ってクレアは視線を逸らすことなく意気込んだ。え、え? そうなの?

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