第144話 不穏。
「ただジキムート。クラインとヴィエッタ嬢が手を結んでいると言う話は、ただの僕たちの妄想だよ。だがそうとしか考えられないんだ、この事態は。おかしい事だらけだろうに。クラインには今の所損しかない」
「だったら神様の顔がチラ見したから、クラインがあげさん……もとい神様をかっさらいに来たとか? それ以外方法とかはどうでも良かった」
「そんな凶悪な馬鹿が、国王をやっておれるかっ! 世界に4柱しかない聖地だぞっ。それをそこらにある、ゴミ集落か何かと勘違いしておるな、傭兵っ! ココは聖地であってただの一つの町ではない。なんなら首都より尊く、国王より神聖なる王が住まう場所なのだぞっ!」
そんな場所で他国の全てを容認し続ける事は、国益を損ねる行為だ。
主導権と言うより『空気』を掌握されかねない。
人心とでも言うべきか。はたまた国際社会からの圧力などとも言える。
なので自分に都合が悪い部分だけにはきちんと、悪意を差し込むのが大人の礼儀である。
(……その通りだギリンガム。)
だが神をゴミかクソだと思っている異世界人。
そんなジキムートの心を読み取られ、焦りをにじませる彼。
「それに、だったらより一層クラインはヴィエッタ様と手を組んだ方が良い。理想により早く近づけるハズだが? ヴィエッタ様は話し合いはできるお方だ。クラインの参加も拒まないだろう」
その言葉にジキムートが一瞬止まる。
(……いや、その言葉には語弊があるぞローラ。あくまでも最終的な意見が一致してないと手は組めねえ。今クラインはどんな結果を待ってんだ? ヴィエッタとは相いれない神の使い方……。)
恐らくはこの卓上で一人だけ神を、〝物″のように扱うジキムート。
その彼には色々と、『用途』が浮かび始める。
「だがジキムート程乱雑な話でなくとも、『利用』という話もあるだろう。ヴィエッタ嬢はクラインの思惑通りに動かされて結果、ノーティス擁するクライン陣営にもてあそばれ、最後に捨てられた。という可能性が出てしまうね。クラインの動きの奇妙さを考えると、ノーティスは徹頭徹尾から裏切ってたのだろうし。ダブルスパイだ……。なかなかやってくれるじゃないかノーティス」
レキが笑う。
その笑いにローラの眉根が少し、吊り上がったように見えた。
「いや、ノーティスはきちんと身辺を調べてある。クラインとの交流は特に……な。だがあの糞女はクラインとの接点は無い。そして別人である可能性も無いっ!」
少しいら立つローラ。
当然だろう。
今ヴィエッタの作戦倒れを指摘されているのだから。
「だが普通に考えて、そうととしか考えられないよ。ヴィンも言ってたよ。あの女には何かおかしな節があるって。アイツが恐れていた。何かを見過ごしているよきっと」
「ふん、またヴィン・マイコンか。もう居ないというのに。それに傭兵。その前に1つだけ簡単に、絶対的な間違いがあるぞ」
「……なんだい?」
レキが問うと、ローラが立ち上がるっ!
「利用されて捨てられた? 私達はまだ負けてないんだよっ。アイツを……あの糞女から〝エイクリアス・ソリダリティー(水の誓約旗)″を奪えばまだ可能性はあるという話だっ!」
その言葉にギリンガムが蒼白になったっ!
「そっ、それはもう諦めろローラっ。我ら軍ですらキリキリ舞いだっ! 聖堂から出てくるあの馬のモンスターの物量には、止まる様子がないのだぞっ。これから更に攻勢に打って出るなどと……そんなっ!?」
実際もうすでに、駆除できる範囲を超え始めたあの馬のモンスター達。
この聖地は水の民でも観光客でもなく、悪鬼が闊歩する地になりつつあった。
「それでもやるんだよっ! 今すぐ進まねば今までの成果も投資も苦労もっ。その全部がチャラのタダ働きなんだぞっ! 私達にチャンスはコレしかないんだっ! お前たち軍にも撤退の意向は無い筈だぞギリンガムっ!」
「そっ、それは……」
そう……これでも軍は引く様子は無い。
何度かの通信があったようだがギリンガムの顔から察するに、撤退は程遠い感触なのだろう。
「今すぐだってっ!? ローラ落ち着くんだっ。戦力はどうするつもりだいっ! 外はモンスターだらけ。闘うには限界があるよっ。傭兵の残りも少ないっ! その……何より……。ヴィンの奴がフラッと出て行って、帰って来ないんだっ! あのマッデンと戦った時とは事情が違うんだよっ」
「ヴィン・マイコンだとっ!? いい加減諦めろレキっ! ヴィン・マイコン、アイツは死んだっ。そしてレキ、今はお前が隊長になったっ! お前がトップになってそしてもう一度戦う準備を整え直すんだよっ!これはヴィエッタ様からの命令だ、傭兵っ!」
「……。その言葉は少し、僕には承服しかねるよ」
そのローラの言葉を聞き、明らかにレキの雰囲気が変わるっ!
「だがこのまま止まってはいられないっ。動け傭兵っ! 報酬に命を懸けるのがお前達……いや、我々の仕事だろうっ! ヴィン・マイコンは役目を果たしたっ。大口叩いておいて勝てなかったがなっ!」
「あいつは負けてなどいないっ! ただ帰ってこないだけだっ。少し待とう、そうすれば……そうすればきっと、傭兵王とまで言われたヴィンも加わるんだよっ!」
「ふんっ、何を馬鹿な事をっ! この状態で帰ってこないんだぞ!? 畜生のモンスターがウロウロ這いずり回って、外はクラインとバスティオンに挟まれてっ。それでどんな夢見てるんだよっ!」
「うっ……」
絶望的と言うべきだろう。
だがそのローラの言葉を聞いてもまだ……レキの眼はまだ、諦めようとしない。
「それに一度この街は泥に沈んだっ! 住民は漏れなく全員が敵っ! レキ、お前は一体どれぐらいの本気で奴は生きていて、一体何をしながら奴はほっつき歩いていると思っているんだよっ!?」
「だっ……だが君はもしヴィエッタが居なくなっても、それでもその言葉を言えるのかっ! もし今クラインがヴィエッタを消すために動いていたとすればっ!?」
「……っ!? クッこのアマ……口に気をつけろよっ」
レキの言葉の瞬間、あからさまにローラの目つきが変わったっ!
「だがこの状況ならば可能性は無いわけではないぞローラっ。ノーティスの内偵をしくじった癖にっ! さっさと帰った方が良いんじゃないのかっ! お前のせいでご主人様がピンチかもしれないんだよっ! それともクラインがあのお嬢様を狙わない理由がハッキリしているとでもっ!?」
「ぐ……っ!? だがそれでも我らはここで戦わざるを得ないっ! 臆病風と言うんだぞそれがっ! それともお前は男の後ろに隠れて居なければ、臆病風に吹かれて何もできないお嬢ちゃんだとでも言うのかっ! 勇者勇者と青臭い小娘がっ!」
ダンっ!
「臆病だってっ!? やるっていうのかいっ!? 悪いが僕は、ヴィン程君を〝毛嫌い″をしてないんだ。力勝負なら受けて立とうじゃないかっ!」
獲物を抜き放つレキとローラの2人っ!
「おいおいおぃ……」
顔面蒼白にしながら、ジキムートが2人の喧嘩を見守っている。
しかし横で……冷静にさ湯をすするギリンガム。
「なんだ傭兵、女の喧嘩は苦手か? ふーふーっ。我ら騎士団では日常茶飯事だよ、この程度。女性隊員が多いんでね」
「おっさんそれ……マジで?」
傭兵と騎士団では、女性比率が段違いの月とスッポンだ。
有名騎士団への受験者の性別割合は、商業高校並みだと言っていい。
それに対する傭兵はほぼ完全な男子校。
そんな騎士団と傭兵では当然、喧嘩の種類も性質も、そして性別対性別。そう言った内訳もガラリと変わってくる。
ギリンガムはそれを上手くやりくりしていたせいで全く、この手の女同士の戦いにも心を動じさせる事がないに等しかった。
「あぁ……。それと、私はおっさんではない。私はまだ27だ傭兵」
「……ぅぇっ!? 俺と2つしか違わないだ……とっ!?」
一番のショックを受けるジキムートっ!
とりあえず30超えてるどころか、30後半だと思っていた事は黙っておこうと心に決める傭兵。
……その時っ!
プオォッパォオッ!
ヒュンッ!
「……。シっ!」
「……チッ! なんだオッサンっ!?」
「……なんだいギリンガムっ!?」
ギリンガムが2人の女性の間に割って入るっ!
その目には譲れない闘志とそして……それを代わりに表す、抜き身の剣。
その太く大きな剣が、女性2人を分かつように携えられていたっ!
傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か K @nekopunchkoubou
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