第4話 海斗と陽子

 去年の休暇中にとある田舎を訪れた。

 戦場でのストレスを解消する為、自分たちには定期的な保養が必要とされているからだ。


 そこで出会った少女の事が胸の中を独占した。


 こんな状況で戦えるのか。

 そもそも、戦闘用人造人間に恋心など芽生えるのか。


 そんな疑問が頭の中をよぎる。

 しかし、解答など得られるわけがない。


 その疑問を胸に抱いたまま戦場へと戻った。

 そこで自分の機体は撃破され有機コンピューターのパートナーを失った。


 僕は地球へ戻されて再調整された。

 そして今年もここへ訪れた。


 陽子に会えるかもしれないと淡い期待を抱きながら。


 三日間滞在した。

 あの岩場へ向かいウニやサザエを捕まえた。

 そして秘密の場所で海に飛び込んでみた。


 水中から見た海面の煌めきは美しく、その様は陽子が笑っているように見えた。


 しかし、彼女には会えなかった。


 そして僕は再び戦場へと戻る。


 ここは太陽系外縁部。

 オールトの雲が広がっている宙域だ。


「エニグマ機動部隊展開中。早急に対応されたし」

人型機動兵器グリフォン部隊は順次発艦。敵を引き付けよ。支援型機動兵器イフリートは発艦急げ!」


 着任早々実戦とはついていない。

 先の戦闘で失った有機コンピューターの補充を受けていたのだが、今日が最初の顔合わせだった。もちろん、有機コンピューターはAIユニットとして機体に組み込まれるのでお互い顔を見る事は無い。


「僕は海斗。君とは初コンビだね。よろしく」

「私は陽子。よろしくお願いします」


 陽子?

 

 陽子だって?


「陽子って。あの陽子ちゃん?」

「……はい。陽子です。あの海斗さんなんですね」

「ああ、そうだよ。海斗だ」

「もう会えないと思ってた」

「僕もだ。でも君と一緒なら生き残れる気がするよ」

「私もです」


 こんな偶然があって良いのか。あの夏の日に出会った少女と一緒に戦場にいる。

 

人型機動兵器グリフォン025発艦します!」


 僕の機体は電磁カタパルトによって宇宙空間に放り投げられた。


 程なく敵と接触した。こちらが態勢を整える前で数的には圧倒的に不利だ。


「敵は10機です。海斗どうしますか?」

「大砲を使う」

「了解」


 一発しか撃てない重力子砲。

 しかし、効果範囲が広く敵の出鼻をくじくには最適な兵器だ。


「発射!」


 雷をまとった光弾が敵の中へと吸い込まれ、そして炸裂する。


 眩い閃光と煌めく粒子が広がっていく。

 それは、あの時見た海面の煌めきにも似た美しい光景だった。


「陽子……綺麗だ」

「そうですね。海斗」


 俺たちはしばしその光芒に魅入っていた。

 

 しかし、別の敵が接近してきた。


「これからが正念場だ」

「はい」


 僕たちは戦い続ける。

 地球を守る為に。



 人類がクローンを戦場に送り始めて数百年が経過した時代。その時は既に多種多様な機能を持つ人造人間が生産されていた。陽子と海斗もその人造人間の一人だった。


 現在、彼らは太陽系外縁部にて謎の知的生命体と交戦中である。

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海が太陽のきらり☆【SF編】 暗黒星雲 @darknebula

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