十二 粗忽

 ◇

 翌朝、南雲は鼻歌を歌いながら、教室に入ると、途端、視線が低くなった。襟を強く引き寄せられたのである。南雲は息苦しさの中、視線だけを下に運ぶことに成功した。果たして映ったものは、泣きっ面を浮かべて、顫動する茉莉花であった。

「ねえ……予算超過ってどういうことなの」

「どうも、こうも、そのままの意味であろう……、それよりも、手を放してくれ、苦しい」

 茉莉花は突き飛ばすようにして、その手を放した。そして叫ぶように言う。

「最下位なんだって! 悔しくないの……」

「……しょうがないさ、もともと、違反をしていて、それを皆は百も承知でやっていたのだから。それ即ち、この違反が明るみに出たとしたら、それだけの罰を受けるということを併せ呑んでいたというわけだよ……」

「知らなかった! 言って欲しかった!」

「考えればわかることだよ……そんなの金さえあればどうとでもなってしまうではないか」

 南雲はぶつかった壁に傷がないことを確認してから、白衣についた埃を払って、

「……しかし、どこから漏洩したのだろうね。まあ、きっと五反田だろう。彼は口が軽過ぎる……」

 その時。――茉莉花はその場で虚脱状態に陥った。




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