番外編 私たちの年越し

 神は祈られなければ消えていく。1人でも祈る者がいれば貧相なりに存続していく。


 今日は大晦日。


「あかり。今回で最後かもしれない。ごめんね」

「いいんだよ。ママ。ママ、頑張ってたもん。ずっと一緒にいたいのはもちろんだけど。でも去年も同じこと言ってた」


 母の問いに泣きそうになりつつも笑いながら答える私に母はそうね、と笑った。


「今年も、最後のお参りをしに行こう」


 介護ヘルパーのお姉さんが押してくれる車椅子に乗る母と手を繋いでゆっくりゆっくりと家から1番近い神社に向かう。階段下で車椅子から降り、体をささえられつつゆっくりと階段を昇る母。手水を行い、拝殿に向かう。


「神様、私はいつ最後が来るかわかりません。あかりには…娘には…きっと…きっと寂しい思いをさせてしまいます。どうか少しでも寂しくないよう、神様のお力を貸してください」

「神様、あかりはママのことが大好きです。ママの大事なものはあかりにとっても大事なものです。だけど一番大事なのはママです。だからどうかママと、もうちょっと長く一緒にいさせてください」


 母も私もうっすらと涙を流しつつ祈る。


「あかり、ここの神様が1番私たちをよく知ってくれているはずよ。だから私がいなくなってもきっと、ここにお参りに来てね」


 2人で境内をゆっくりと回る。私も母もこうして2人で来れるのは最後かもしれない、母は歩けるのが最後かもしれない、そう思い噛み締めながらゆっくりゆっくりと歩いていく。


 年末だと言うのに人がほとんどいないこの神社。お参りに来る時に人を見かけたのは年に1度か2度くらいしかない。近くに大社があるからだろうか、あまり立寄る人がいないようだ。


「この人が少ないのが私にとってはありがたいんだけど…神様にとっては寂しいだろうね」


 少し寂しそうに話す母に私は「絶対に来る、1人になっても来る」そう誓った。ここは母との思い出が沢山沢山詰まった場所である。私と母の最初のお散歩…とは言っても私はだっこされていたが…それはここだったし、ことある事に来る神社は近くの大社ではなくここだった。


 境内には正面の拝殿と別にもうひとつ拝殿があり、そこでも今年最後のお参りをする。


「今年も、ありがとうございました」


 1年のお礼を述べた。


「また明日、お守りを持って初詣に来ようね」


 車椅子に戻った母としっかりと手を繋ぎ、帰路につく。


「ありがとう」


 どこからがそんな声が聞こえた気がした。



 拝殿の屋根の上に、誰にも気づかれず彼女たちを見守る影があった。九尾と耳を持つ人型とぴん、と座る猫だった。

 彼女たちが神社を出ると姿を消した。



 除夜の鐘が鳴り響く。

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神様と猫 動かされている点P @pointP

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