第19話 次へと進む覚悟2

「殉職って……家族にも知らされないんですか? 」


「そこら辺の仕組みは知らんが、伝えられないのであれば、そう言うことだろ。とにかく、俺から伝えられるのは光は殉職した。それだけだ」


「それだけって、他に無いんですか。兄の個人情報とか」


「精鋭科に在籍している、または在籍していたものの個人情報はいかなる理由があろうと本人の承諾がない限り精鋭科以外の閲覧許可は降りていない。諦めろ。お前が知りたい情報と言うのは、光のプロフィール等の戸籍関連の情報だろう? 精鋭科以外には能力者戸籍すら開示されないだろうよ」


それだけ言うと、玲は部屋を後にしようとするが、すかさず月浪は制止する。


「おい、玲。それは流石にあんまりじゃないか。山里零香は光の実の妹だろ? 多少の事は越権行為にもならないはずだ」


「先生。先生も元精鋭科なのでご存じのはずです。それとも、家族の間にはプライバシーの観点というものも存在せず個人情報をホイホイ渡せると? 高橋先生たちにも、同じことが言えますか? 」


「それとこれとは違うだろ。俺はお前にお前が知っている光のことを話せって言ってるだけだろ。そこには多少の事ならプライバシーも個人情報もない筈だ。そんなこと言ってたら友人同士で話す会話の殆どがプライバシーや個人情報なんて言って話せなくなるぞ」


「俺が知ってる山里光は山里零香が知っている山里光るとそう違いはないでしょう。失礼します」


「待ってください! お願いします! 兄のことを教えてください! 」


「精鋭科の人間の事を他の人間に話すことは禁じられている。たとえ、身内だろうとな。話はそれだけでしょう。帰ります」


「どうしたら、教えてくれますか? 」


「しつこいな。精鋭科以外の人間には教えないといってるだろう」


「精鋭科以外の人間なら……じゃあ、精鋭科に入れたら、教えてくれますか? 」


「は? 」


場の空気が凍る。すかさず月浪が止めに入ろうとする。


「おい、山里! その言葉は軽々しく言える言葉じゃないぞ! 止めとけ! 光の事なら俺が後日また教えてやるから! 」


「嫌です。兄の事は誰も知らないんですよね。中村くん以外は」


「まあ、そうだろうな。」


予想外の言葉が返ってきて月浪はうろたえる。


「じゃあ、私は中村くんから聞くしか方法はないんですよね? じゃあ、中村くんが言う方法で、教えてもらいます。兄のことを」


玲は零香の目を見る。玲はこの目をよく知っている。


「……本当、お前らのそういうところは嫌いだよ。光も、時おり同じ目をしたからな。その無謀なことでも一度決めたら引かない目。……だから死ぬんだよ。止めときゃ良いのに」


玲は大きくため息をつく。


「現実とファンタジーを一緒にするなよ。人生希望だけじゃ、綺麗事だけじゃ出来ないことだってある。そんな甘くないんだよ。精鋭科に入ると言う戯言は、ここだけの話にしといてやる。今のお前じゃ無理だ」


 玲は零香の目をまっすぐ見据える。今回の事には、零香も引けなかった。


「嫌です。引きません。……私には、父は幼い頃亡くなり、母も中学の頃、亡くなりました。兄は、私の家族に残った最後の繋がりなんです。兄の事だけは、引けないんです。精鋭科に入れば、兄のことを知れるんですよね? それは、嘘じゃないですよね? 」


間髪を入れずに玲は答える。


「嘘じゃない。だが、お前の言っていることは只の無謀にすぎない。光もそうだったが、お前等に精鋭科は向いていない。あいつはそれさえも補うものがあった。だから精鋭科にいた。だが、お前には何もないだろ。大人しく諦めとけ」


「嫌です。諦めません。どうしたら精鋭科に入れますか? 」


「山里! 流石に、考えてから発言しろ? 精鋭科はそんなホイホイは入れるところじゃないぞ。 玲も、ここまで頼んでるだろ? 教えてやれ! 」


これ以上はと流石に月浪も止めようとする。だが、2人にその言葉はもはや聞こえていなかった。


「山里零香」


「……はい」


「精鋭科は甘いところじゃないからな。普通、精鋭科の人間はお前みたいな理由で入る奴なんかいない。そんな理由で入ることを遠くない内に必ず後悔するぞ。」


「しません。自分の起こした行動には責任を持ちます」


「……お前には何を言っても無駄なんだろうな。光もそうだったし。俺はお前に構ってやるほど暇じゃないんだ。後で、お前が大好きな友也を寄越すから後は友也に聞けば? 入る方法くらいは教えてくれるだろうな。とりあえず、俺はお前を精鋭科には認めない。それは変わらねーよ。あいつが入ってきたのも強引だったし」


「じゃあ、後で聞いてみます。」


「明日以降にしてやれ。今日は会議で疲れてるだろうからな。後、その気持ち悪い敬語は止めろ。お前に敬語使われるとか鳥肌が立つわ」


皮肉だけ言って部屋を出ていく。


「……玲が折れるなんて、光以来じゃないか? 」


「え? 今のは認めてくれたんですか? 」


「認めてはないだろうが…… 、まあ、折れはしたよな。認めてないと言いつつ。……とにかく玲もああ言ってるし、今日は帰れ。悪いが、これ以上は俺も分からん。本当に精鋭科に入るしかないだろうな。付き合ってもらって悪かったな」


「い、いえ! こちらこそありがとうございます! 」


「元気なところは兄妹そっくりなんだな。最後に、精鋭科は本当にきついところだぞ。やるなら覚悟して、もう戻れないと思え」


「……はい!」


月浪はその目を知っていた。その目なら大丈夫だろうと思い一息つく。


「良い返事だ。……まあ、複雑だが頑張れよとは言っとく。生徒の選んだ道を応援するのが教師ってものだろうしな」


「……はい!」






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沈黙のメテオライト @kaoru_0

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