第18話 次へと進む覚悟1

 陣との騒動があった翌日の放課後、精鋭科は緊張で包まれていた。そして一方の玲は会議室申請のため、職員室にいた。


「失礼します。月浪先生。会議室どこ空いてます? 」


「……中村。いくらこの学校はいつでもどの教室でも借りれるからって当日に言う台詞じゃないぞ」


月浪は自席に座りながら対応する。


「すみません。で、どこが空いてます? 」


「……今日はどこでも空いてる」


「だろうと思ったんで第1会議室借りました。これ申請用紙です」


「はいよ。全く、誰に似たんだそういうところ」


「さあ。取りあえず正式な手順は踏んだので個人的には誰ににても良いでしょう。これ今日の会議で使う資料教務用と予備で7部です、後で目を通しておいてください」


月浪は受け取りながら応答する。


「目を通すだけで良いのか? 」


「できれば、感想も欲しいところですが、まあ良いです。後は精鋭科で対応するので」


「……そうか。無理はするなよ」


「今更ですね。その書類……いえ、何でもないです。それでは失礼します」


玲が職員室から出ていくと月浪はため息をついた。


「ああいうところも、誰に似たんだか」


それだけ言うと、月浪は玲から渡された資料に目を通し始める。

 会議室1では精鋭科の面々が集まっていた。20人もいないが、全員が自分の役割をきっちりとこなしている。玲が入ってきたところで出席を確認していく。


「要。いるな」


「うん」


万要ヨロズ カナメ。精鋭科で統括班の1人である。因みに、もう1人は言わずもがな玲である。

そのまま、玲が点呼を進めていく。


「総合班。陣は? 」


「いるわ。緊急会議って何だよ。」


「悪いな、すぐに来てもらって」


「答えになってねえ……」


「連絡班。玲央は? 」


「見ての通り。仕事中」


「耳だけ貸せ。潜入班。友也、胡桃。」


「潜入班全員集合してるよ。南雲は相変わらずの人形出席だけど」


そういい、友也は隣においてある人形を指差す。


「代理でもいるなら良い。実働部隊は? 」


「えーと……校内にいる奴らなら全員。長期任務の欠席者はいないけど」


「後で欠席者には書類送るから大丈夫だ。」


「守備部隊は全員出席だ。」


「最後。創作班」


「全員出席。以上」


「よし。出席確認はできた。これから尚霜ナオシモ学園。精鋭科の会議を始める。挨拶は良い。俺は途中で抜けるから必要なところだけ先に言わせてもらう」


会議は始まった。その頃の零香は月浪に呼び出されていた。玲と入れ違いで職員室へと入っていく。


「失礼します。山里です。月浪先生いらっしゃいますか? 」


「おう。来てもらって悪いな。話があるんだ」


「話? 」


「ねえー。今日の晩御飯俺ハンバーグがいい」


「仕事も終わってないのにリクエストは聞かん。俺が帰ってくるまでにその仕事は終わらせとけよ碧。司馬先生。玲が会議申請終わらせたら第2個室へ来てくれと伝言お願いしていいですか? 」


「分かりました」


月浪は席をたつと、書類をもってこちらへと来る。


「待たせたな、第2個室へいこう。ちょっとここじゃ話しづらいんだ」


「? はい」


話しづらいことというのが分からず、首をかしげるも後へついていく。途中無言でも辛いため世間話程度に話をする


「月浪先生は、日栄先生と一緒に住んでるんですか?晩御飯の話をされていたので 」


「幼馴染みなんだよ。碧とは生まれた頃から一緒だ

。ここ来てから会ったやつで腐れ縁というならもっといたけどな」


「生まれた頃からなんですね。私にはそういう人は居なかったので。ちょっと羨ましいです。私には双子の兄がいただけなので」


「……山里光だな 」


月浪は断定する。


「何で知ってるんですか!? ……ああ、ここでは、来る前に個人情報が調べられたんですっけ? 」


「そういう訳じゃないけど、まあそれに近しいところはあるな。だが、これから話すのは、その山里光の事だ。いつまでも隠し通せるわけでもないし、流石に妹である山里零香が知らないのもどうかと思うしな。着いたな。入れよ」


「……はい」


着いた先は応接室のように対面した椅子と机がある小さな個室だった。


「長い話になる。座れよ」


「……はい」


「先程の話の質問に返すとなると、確かに多少じゃないレベルの個人情報は事前に調べる。しかし、こっちに流れてくるのはその中の極々一部だ。全部が来る訳じゃない。その中に家族構成は入るが、名前等が来るわけでもない。ただし、俺らは知っている。お前の兄が山里光であることはな」


「……どうして、ですか? 」


零香はその先は聞いてはいけない気がした。けれども好奇心の方が勝っていた。それと同時に、聞かなければいけない気がした。


「兄は、4年前に行方不明となりました。それから引っ越しして回りには兄がいるということさえ言わなかったんですが……」


「4年前? ……まあいい。山里光は、ここ能力特別科に


「じゃあ、兄は今、ここにいるんですか? 。行方不明になったのは、ここに居たからなんですか!?」


「残念だが、山里光は既に殉職しているさ。4年前にね。これは在籍していた当時の個人情報だ。間違いないはずだ」


そう言い、書類を手渡される。零香は言葉を失う。


「……確かに、兄に間違いはないです。4年前……。死んでるなんて、聞かされていないんですが……」


「そこら辺の仕組みは俺もよく知らない。殉職した後、そいつの家族に伝えられるということは分からないんだ。すまないな」


「兄は……4年前からここにいたんですか? 」


「? いや、あいつは初等部からいることになっているな。実際、 光は玲の幼馴染みだし、俺も初等部のあいつに会ったことがある」


「え……私も4年前までは一緒に、暮らしていたんですけど……」


「その辺が、食い違っていないんだ。あいつの能力も、分身したり、幻覚を見せるような能力じゃない。しかし、お前とは中学2年まで過ごしたという。こっちにも中学2年まで在籍していた。逆なら分かるんだ。中学2年から帰ってきたというならば」


「……なぜ、ですか? 」


「あいつは殉職といったが、遺体は回収されていないし、死亡届も俺は受理した記憶はない。任務中に亡くなったと玲から聞いただけなんだ。まあ、報告書はもらったし、死亡届だけなら、玲が直接出せるから問題はないんだけどな。今日はそれを聞きたかったんだ。そうか……、山里の方では4年前に行方不明となっていたのか」


「……中村くんに聞いたら、全てが分かるんですか? 」


「ああ。あいつだけは全てを知ってるだろうな。ただし、今日中に捕まえられるかと言ったら、それは難しいだろうな。あいつは今精鋭科の会議に出てる。それまでは分かる範囲での質問には答えよう。お前には知る権利があるだろう」


「兄は、ここにいたなんて聞いてないんですけど……」


「それはおかしい。親、保護者にはきちんと連絡がいくはずだ。光が4年前まではそちらにいたというのもおかしな話だ」


「兄が、中村くんと幼馴染みだというのは? 私、彼ほど冷たい人間にも会ったことないんですけど……」


「ここに来る前だったのか、来てからかは俺も知らないが、光がこっちに来てからは、ほとんど一緒にいただろうな。西宮が来る前は。2人で。来てからはほとんど3人で行動していたな。校内でも3人でいるのをよく見かけた」


「……嘘、ですよね。ここにいたなんて悪い冗談止めてくださいよ。兄とは、4年前まで、一緒にいたんですよ? 小学校から受験して一緒の学校ではなかったですけど、途中まで一緒に登校して、帰ってきたら内容が別々の宿題をやって、一緒にご飯を食べて、一緒に寝て、たまに喧嘩して、仲直りして、ずっと一緒に過ごしてきたんですよ? ここにいたって、証拠もないのに? 死んだって? 縁起の悪いこと、言わないでくださいよ……嘘、ですよね? 兄は、お兄ちゃんは行方不明なだけですよね? そのうち見つかりますよね? 」


「地球上どこを探したところで、光は見つからないだろうな」


玲が間髪入れずに答えた。


「こういうときって、ノックしてから入るんじゃないの? 後会議は? 」


「ノックはしました。気づいてないだけでしょう。後、会議は俺がいなくても続けられるところまでは終わりました。月浪先生が光の書類持ってたのでそういうことかなと場所だけ職員室で聞きましたけど。こういうのって俺にも連絡が来るものじゃないんですか? 」


「悪かったな。先に言ったら来ないと思ってな」


「そこら辺の変な信頼はないみたいですね。まあ、良いですけど。そんなことより山里零香。聞いたろ? 光はここで過ごしてたよ。そんでもって殉職した。これは事実だ。俺が保証してやる」


重たい事実が、改めて突きつけられた

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