第17話 禁令を司る少年4

「きついぞ? お前の普通をここでは大事にしろ。それが俺の求めることだ」


「……それだけ? 」


陣から放たれた言葉は零香を拍子抜けするのには十分だった。


「ああ。けど、お前の普通と、俺らの普通は違うのはもうわかってるだろ。その中でお前の普通を貫き通すのがどれだけ大変か、きついか、分かってないだろ。普通が違うってことは、お前の常識がここでは通じないってことだ。良くも悪くもこの空間で皆が慣れているのは、これが普通だと麻痺してんだよ。いつしかその麻痺って言うのはお前にも及んでくる。そうなったときに慣れるなと言ってるんだ。想像の数倍以上はしんどい」


陣は、零香からまっすぐと目を離さない。


「……できなかったらどうなるの? 」


「死ぬだろうな。お前みたいな弱いやつはこの世界では耐えられないだろう」


「随分バッサリだね……。」


「俺も、良くも悪くも慣れたのさ。明日隣に、友人が、親友がいないことにさ」


「……」


零香はその現状にいまいちピンとこなかった


「でも、お前は慣れてないから、まだいけるかもしれない。この糞みたいな現状を変えられるかもしれない。もう、こんな世界にはいたくない。誰もが思ってることさ。けど、誰も変えられないうちの学年はまだ玲がいるだけマシさ。死亡率は異様に少ないからまだ明日には隣に友人がいることが普通に近い。けど、他の学年や、学校は違う。明日には隣の席の奴がいない何てザラだ。誰かを庇うなんて絶対に無い。明日は我が身でいるしかないんだよ。いきようと思ったら、必死になるしかないんだ。……もう、あんな光景はごめんだね」


「……どうして、私に言うの? 何もできないなんて、沼渕君もよく知ってるでしょ? それに、中村くんと全く逆の事を言うんだね」


「……玲は何て? 」


「……普通の生活は早々に諦めるようにって」


「玲の言いそうなことだな。まあ、1意見なんかはあいつと対立すること多いし」


「……中悪い? 」


「……仲良しだと思う。まあ、そんなことは良い。そういったのは、あいつなりの優しさだろうな。この現状が普通だと認めてしまえば、簡単だから。生きていくのに疲れない。けど、仲間を盾にしてまで生き残りたいとは俺は思えない。甘いんだって分かってるんだけど、これだけは譲れないな。」


沈黙が間を支配する。陣は話続ける


「玲から聞いたよ。高瀬が変わってきてるって。あの高瀬が? あり得ないと思った反面、凄いと思った。あいつを変えてしまったやつはどんなやつだろうと思った。そしてら山里零香。あんただった。実力が強かったのかと思ったがそうじゃなかった。けど、何となく、わかった気がした。あんたなら、今の状況も何かを変えられるんじゃないかと思った。俺はあんたに期待をしている。あんたは俺の期待を裏切るやつか? それとも、期待に応えてくれるやつか? 」


陣は答えを待つ。


「……正直、明日隣の人がいない状況には想像がつかない。けど、それが普通にはなりたくない。私は、明日も明後日も、これからも隣に友達がいるのが普通が良い」


「……今はそれで良いや。その普通、忘れんなよ。もし、隣にいないのが普通なんて抜かしやがったら俺はお前に失望して、大量の敵の前に落としてやる。……精鋭科は好きにしろ。来た道は覚えてるな。そのまま右回れして帰れ。俺はまだ、ここにいるから」


「う、うん。……また、明日ね」


「明日会えるか分かんねえけどな。まあ、明日は学校にいるさ」


そうして、陣は零香に背中を向け奥へと去っていった。まもなく、友也が後ろから現れた。


「あれ? 山里、こんなところに用事? 」


「あ、友也くん。友也くんこそここに用事? 」


「……まあね、一応墓参りだけでもしようかなって。今日ここに沼渕が名前を刻みに来てたはずだから。俺も世話になったし。山里がここにいるってことは、終わったんだね。」


「……アクアマリンの子かな? なら、終わってるよ。沼渕君が終わらせてた」


「そうか。問題の沼渕は? 」


「奥に消えてったよ。」


「……そっか。俺らも帰ろうか。送っていくぜ」


「友也くんの用事は? 来たばかりだよね? 」


「また、後でで良いさ。今は沼渕1人にしてやろう。あいつも今は1人になりたいだろうしな」


「……うん。」


「あいつも今、精神的にきついだろうに、よく山里と戦闘したよな。感心するわー」


「何で知ってるの!? 」


「俺の能力なめるなよ? 玲が思ってた。」


「中村くんの思考まで読んでる……」


「読んでるんじゃなくて、勝手に入ってくんの。あ、そういえば、今から雨だけど、大丈夫か? 」


「地下だよね!? 何で雨が降るの!? 傘なんて持ってないよ……」


山里は途方にくれる


「雨具はいらねえよ。ホログラムだからな。けど、ホログラムでくらいは、泣かせてやれや。今日の夜にはやむからさ」


そういって、友也は沼渕の去っていった方を見る。


「……うん。」


「さあ、帰ろうか。明日にはもう雨は降れないんだからさ」


ホログラムだから温度は感じないはずなのに、その雨はとても冷たく、やまない気がした。



 























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