今日のジュリ。

舞島由宇二

ジュリは四女っぽいが次女だ。

 僕と同じ習字教室に通っているジュリは教室に来る度に毎回大便をするのが慣例となっているらしく、用をたすと必ず僕に今日の便の報告をしてくる。


「そこまでが慣例だからね」とジュリ。


 今日のウンチさんには刻まれた人参が、今日のウンチさんには白滝が一本だけそのままに、今日のウンチさんにはシャキシャキの玉ねぎがシャキシャキのままに、色は黄土色で、黄金色で、今日は黒みがかっていて、などとジュリは嬉しそうに言う。


 そんなジュリの’’今日のウンチさん’’の時間を僕としても何処か心待ちにしていて、習字教室のない日にもふっと気が付けばジュリのクラスの教室の前まで足を運んでしまう僕がいたりもした。

 ジュリと学校で会うこともあるのだが、ジュリは決して学校では大便をしないらしいので、報告を聞くことは出来ない。


「そろそろ聞きたいんでしょ?欲しいんでしょ?そんな顔してるよ。でもダメだよ、明後日まで待ってね。」


 ジュリは意地悪く微笑むとクルリと背を向けして廊下を足早に去っていく。

 そんなにも僕は物欲しそうな顔をしていたのだろうか?

 少しだけ自分が怖くなった。

 

 ジュリは、まるで甘美でとろける絶品スイーツのごとき夢物語を語るように、

’’今日のウンチさん’’を語った。トロンっとした目つきで左斜め上辺りに視線をやり、身振り手振りを交え、今日のウンチさんは硬めでね人参のオレンジがアクセントでソーキュートだったんだよね、などと語った。

 僕もまるでジュリのウンチさんを目の前にしてるような気分になる。


 ある日、それはジュリのウンチさんがナッツぎっしりの日だった。

 ぎっしりナッツの1つがジュリに声をかけてきたのだと、ジュリはソワソワしながら僕に報告してきた。


「ウンチさんの中のナッツ君が私に言うんだよ、青と赤好きな方を選べって、だから私はじゃあ赤って…」


――それで?


「偶然だな、俺も赤の方が好きだぜってナッツは言うわけ、それでナッツは続けたの、お前も俺もまだ青を選ぶ時期ではないってことだな。まだ早いんだ。どうせいずれ青に飲み込まれちまうんだ、青を認めなきゃいけない時がやってくるんだ、それまでは溶鉱炉の中のような真っ赤な夢を見ていれば良いんだって、そうナッツは言ったの、誇らしげにね。」


――それで?

「もちろんバイバイしたよ、プルンって流れていったの。」


 ジュリはいまだ興奮さめやらぬ、と言った感じだった。

 僕は何と言ったらいいのかわからなかったので、ジュリはチョコ好き?と聞いてみた。


「うん、私チョコ好きだよ、多分今日のうんちのナッツもマカダミアナッツチョコのナッツだしね。」

そう言うジュリにポケットに入っていたチョコを1つあげた。

 

 今朝、寝坊した母が朝ご飯のかわりに僕に持たせてくれたチョコレートで少しお高い良質なチョコらしいのでジュリもきっと気に入ってくれるだろう。

 チョコを渡すなり、わあ、チョコ!嬉しいありがとう!今度お返しに私もチョコあげるからね、とジュリは大変に喜んでくれて、その顔を見ながら、ああなるほど僕はジュリの喜ぶ顔が好きなのだと得心する。ジュリの喜ぶ顔のきっかけが例えウンチであろうがチョコであろうが大した差はなく、最悪ジュリがウンチとチョコを間違えて僕に渡してきても喜んで食すことが出来るのかもしれない、などと思った。


 すぐにそれは勘違いかもしれない、とも思った。

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今日のジュリ。 舞島由宇二 @yu-maijima

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