絵画の鑑賞者の心象を描くのは高度な文章力を求められると感じます。
色合い、構成、描かれた肖像の表情、風景の細かな部分等々。
その絵の歴史的背景や解釈を知らなければ、人前で語る時、小説のテーマに用いる時、とても不安なものです。けれども絵の逸話や解釈に、感性の主軸を置くと、鑑賞者として絵の前に立った時に溢れる純粋な心情が置いてけぼりになってしまいます。
近年は音声ガイド付の展示会が多くあり、コロナ禍以前に開かれたそれらでは、絵について勉強したくガイドを利用しました。しかしながらなんの音楽も説明もなしに、無言無音で絵や美術品と向かい合いたい瞬間というのは多々訪れます。それら芸術品にまつわる逸話や他者の説明・解釈なしに、今目の前にある美しいものを言葉で語ろうとする時、自身の語彙力がパレットの上に整列した絵の具のようにたくさん用意されているにもかかわらず、目の前の真っ白な紙に言葉一つ色を落とすことさえ恐れを感じます。この絵にそぐわない言葉ではないか。他にまだ相応しい言葉があるのではないか。目の前にある完璧な作品を前に、相応しい色の言葉を吟味する行為は杞憂にも感じました。
ですがこの作品、六葉さんの「お清め日和」の「Lovers only番外編」では、絵の美しさはそのままに、美術館の空気も静謐なままに、読者を鑑賞者に誘う描写が巧みに行われています。作者様は、絵の逸話・解釈・歴史的背景を理解した上で「真っ新な気持ちで鑑賞する姿勢」失わずに描写しています。なので読者は、今まさに絵の目の前に立っているような不思議な感覚で物語に没頭できます。これは「読む美術館」です。作者の感性が非常に羨ましい。高尚な作家さんだなと思います。この物語は、ロンドンの美術館への扉です。より多くの方に言葉で絵を堪能していただきたいです。
最新話、第3話まで読了時点のレビューとなります。
「電話」を中心とした奇怪な物語で(第3話まで)、残酷描写はないのに背筋がぞぞぞとなり、後味として切なさも残ります。
こうしてみると、ホラーにもいろいろなタイプがあるなぁと感心する作品集です。
状況の描写も丁寧で家庭のシーンがすっと頭に浮かびますし、心情描写も詳細に記されているので感情の移入もしやすいです。
特に第3話の困惑ぶりは、家族3人分の気持ちがぐっと迫ってくる感じがしました。
日常的に起こりうる場面に、少し違和感の残る要素を巧みに取り入れて読者にあれこれ想像させてくれるので、体験する怖さも読者によって感じ方は様々なのかもしれません。
そこがまた上手いと思います。