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「つーか、シルバーの奴が来たってことは雫の方はどうなったんだよ…」
「大将が勝てるわけないし、もしかしてソフィアちゃんもろとも……」
「こ、殺されちゃった!?」
男3人が心配(?)する言葉を呟く。
「随分と馬鹿にしてるじゃないか……」
すると近くの茂みの中からそれに応えるように声が聴こえた。
「あっ、皆さん! 無事だったんですね!」
茂みからひょっこりと顔を覗かせたのはソフィアだった。カービー達を確認すると茂みから飛び出してくる。
「ソフィアさん、そんな不用心に……」
それに続くかたちで先ほどの声の主、雫がノッソリと姿を現せた。
「おっと大将。意外と無事───ではなかったみたいね」
足を引きずることも、腕を抑える事もなく歩いている雫を見て、ケインが無事を確認した。
だがよく見ると着ている戦闘服はボロボロとなっており、さらに鳩尾あたりには大きな穴が空いていた。
「ハッ。お前らはオレが負けると思ってただろうが、この通り大勝だったぜ。なあソフィアさん」
「え、えっと。そうですね……」
ソフィアは言葉に詰まってるように見える。
「雫くん、自分で勝てないって言ってたじゃない……。ほら、ヴェジネさんも困ってるし」
勝平は少し呆れたように言う。
「……? あれ、そういえば……」
ケインが何かに気づいて、辺りをキョロキョロと見渡す。
「……目標の神機は?」
「「「「……あっ」」」」
◇
「……で? 神機の回収は出来たわけ?」
「「「「出来ませんでした……」」」」
雫、勝平、ケイン、ソフィアの4人はユノからの高圧的な問いかけに、消え入りそうな声で答える。カービーは一人、そっぽを向いている。
「……はぁー。まったく……」
ユノは呆れたようにため息をつくと、紅茶を一口飲んだ。
ーーーー此処はもはやお決まりになりつつあるユノの庶務室。『何故か』迎えに来たネスに連れられ、クロックナンバーとの激闘の後に雫達は連れてこられた。
「……呆れてるとこ悪いけど、こっちも言いたいことあるんだけど」
雫が仏頂面でユノに話しかける。
「なに? もしかして予想外な事が起きたから任務失敗したのはしょうがないっていいたいの?」
「予想外もクソもないよ。シルバーの奴に……クロックナンバーに襲われたんだけど?」
「ああ、彼女たちにも同じ回収任務をお願いしたからね。そりゃあ現場で鉢合わせることもあるでしょうよ」
「……もう、クロックナンバーには襲われることはないんじゃないのかよ」
「そうね。そのつもりだったけど。彼女が独断で動いたのかしら? ま、注意しとくわ」
ユノは悪びれる様子もなく、ひょうひょうと流した。
(未だにこの女が何考えてんのかわからん……)
雫は頭を抱えた。目の前にいる人物に従うしかないとわかっているが、それにしてもこの状況はよくない。今後の流れどころか、現状自分達が置かれている状況すらまったくと言っていいほど理解出来ていない。そんな状態で大人しく従うことがはたして正解なのだろうか。
(……しかし、かといっても何が出来るっていうんだ)
最初に神霊世界に連れてこられたときに痛いほど実感していた。自衛のために戦ってきたとはいえ、本職の軍人相手に自分達はまるで無力だった。逆らえるというレベルの話ではない。
(せめてマーベルから少しでも神霊世界の情報を聞いとくべきだったな)
そう雫が考えていた時。
「まっ、今日はもう帰っていいわ。お疲れ様」
ユノがそう言った。
「……なんだよ。任務失敗の罰も無いのかよ」
「……え、なに? 罰して欲しいの? ドMなの?」
雫の問いかけにユノが本気で引いたように返した。
「そうじゃなくて! 賃金貰ってる仕事を失敗したのにそんな軽く済ませるのが意味わからん!」
雫は思わず立ち上がり叫ぶようにそう言った。
それに対して落ち着いた様子でユノが答える。
「……クロックナンバーと鉢合わせしたのは私の伝達ミスだし、今回はこちらの落ち度が大きいからね。成功報酬は無いけど、前払い報酬はそのまま受け取っておきなさい」
「いや、まあーーー」
何か言いかけたところで雫は口を噤んだ。前払い報酬はそのままでいいと言われたのだ。使い込んでしまっているメンバーが多い中、ヘタに反論して返せと言われる方が困る。
「ーーーまた近いうちに任務で呼ばれるのか?」
雫は誤魔化すようにそう続けた。
「んー。まだ未定ね。さすがに今週はもう呼び出す事は無いと思うわ」
「……今週ってあと2日しかないじゃん」
雫はくたびれたようにソファに倒れかかった。
◇
「そういやよぉ」
雫家のいつものリビングに帰ってきた5人。各々の定位置と化している場所に落ち着いてすぐにカービーが口を開いた。
「あの大統領サマ、最後にクロックナンバーの件は伝達ミスって自白してたな」
その世界不可思議につき~異世界精霊戦闘奇譚~ 銀銅鉄金 @ginndoutekkin
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