第41話面倒な予感?




「く、なんだこいつっ! もの凄い力だぞっ! ぐぅ」


 自分の腰くらいのまでの幼女に、胸ぐらを掴まれてジタバタと暴れる男。


「ねえっ! なんで殺しちゃったのっ! あんなに可愛いのにっ!」


 苦し気に顔を歪める男を無視して、更に強く締め上げる。


「ぐ、ぐ、あ、あれは魔物だっ!」


「魔物っ!?」


 ギュッ


「むぐっ! そ、そうだっ! お、俺は、逃げ出した―――― ガク」


「逃げ出した? あのカエルが? あれ? なんで黙っちゃうのっ!」 

「フーナ姉ちゃん、その人間気絶してるぞ? がう」

「え? あっ!」


 アドに言われてハッと気付く。

 頭に血が昇り過ぎて、あまり手加減が出来ていなかった事に。

 


「あっ! ヤバっ、もしかして――――」

「がう、生きているぞ? もうギリギリっぽいけど」

「マジっ!?」


 慌てて男から手を放し、ゆっくりと地面に降ろす。


「ううう」


 アドの言う通り、微かに息があるのでまだ大丈夫っぽい。

 白目を剥いて、口から泡を吹いているのが、無事に当て嵌まるかどうかは些か疑問だけど……


 たけどこのまま処置をしなかったら、ご臨終なのは確実だ。

 そして私は晴れてお尋ね者だ。


 

「そ、そうだっ! アドは回復するアイテム持ってるっ?」

「がう? 持ってないぞ?」


 焦りまくる私とは打って変わり、キョトンとした顔で答える。

 あまりこの男、と言うか、やはり人間自体に関心がないみたいだ。



「わ、わたしも持ってないよ~っ! ああ、どうしよう~っ! このままだと捕まって、冷たいご飯を死ぬまで食べなきゃだよ~っ! もうシーラちゃんの暖かいご飯食べれないよ~っ! うわ~ん」


 ブンブンと腕を振りながら泣きじゃくる。


 するとその様子を、


(何で泣いてんだ? あの子供の親が貧血で倒れたのか?)

(さぁ? でもその割に、もう一人はなんか平気そうだぞ?)

(随分若いのに、あんな子供が二人もいるのね?)


『うっ!?』


 街の人たちがヒソヒソと話しながら、こっちを見ている。

 しかも親子だと勘違いしているみたい。


 なので、


「う、うわ~んっ! お、お父さんがまた病気になっちゃった―っ! 早くいつものお医者さんのところに連れて行かないと~っ!」


「がう?」


 ヒョイ


「「「いいいっ!?」」」


「急ぐよアドっ!」

「がうっ!」


 シュタタタタタタタ――――


 気絶している男を片手で担ぎ上げて、アドの手を引き、急いでこの場を離れる。

 これで親子だと思ってくれただろうから、大事にはならないだろう。



 だけどそんな私たちを見て、みんなが目を丸くしていたのきっと見間違いだよね?



――――



「ほわ~、危うく捕まるところだったよ~」

「がう? なんかいい匂いがするぞっ?」


 人気のない路地裏の建屋の壁に男を下ろして、ホッと一息吐く。


 どうやらここは、数々のお食事処が並ぶ、その裏側みたいで、香ばしい臭いが漂って来る。

 私の隣でアドが、ちっちゃな鼻をスンスンと鳴らしている。



「フーナ姉ちゃん、それでこの人間どうするんだ? 食べるのか?」

「いきなりなんでっ!?」


 唐突に怖い事を言い放つ青い幼女。


「だってこの辺りは、人間が食べ物を仕込むところだろ? フーナ姉ちゃんが仕留めたんだから、その人間を使って美味いものを作ってもらうんだろ? がう」


「何それこわっ! わたしは人間なんか食べないよっ! しかもまだ生きてるしっ!」


「がう、なら俺が止めを刺せば、シーラみたいに美味く作ってくれるなっ! ジュル」


「え? あ、ちょっと――――」


 壁に寄りかかったまま、気を失っている男に近寄るアド。 

 その口端からは、光るものが覗いていた。



「これでとどめだぞ、がうっ!」


 ブンッ!


 小さい拳を握り締めて、男に振り下ろすアド。


「あっ!」


 そんなもの喰らったら、とどめどころか、粉々になるって。

 見た目はやんちゃな幼女でも、中身はドラゴンなんだから。



「ヤバいっ!」


 ガシィッ!


「がうっ!?」


 咄嗟にアドと男の間に滑り込み、寸でのところで拳を受け止める。


「痛てて」

「フーナ姉ちゃん?」


 かなり手が痛かったけど、なんとか間に合って良かった。

 そんなアドは不思議そうに、私を見ている。


 って、それよりも、キチンとアドに教えなくちゃ。



「あ、あのねアド、人間は食べ物じゃないからねっ! 調理したって絶対に美味しくないからねっ! だから無闇に攻撃しちゃダメだよっ! もしかしたら戦争になっちゃうかもだからねっ!」


「がう? 美味しくないから殺さないって事か?」


「違う違うっ! 違わないけど根本的に違うっ! 大勢の人間とわたしたちが争う可能性があるって事だよっ! メドだって人間とは上手に付き合ってるんだよっ!」


 そう。

 メドは人間の姿で、私と会う前から何度も街に買い物に行っている。

 人間を見下している訳ではなく、上手く共存している。 



「う、あ、あれ? どうして俺は―― ん? なんだ? 夜か?」


「あ」

「がう?」


 そうこうしているうちに、男が目を覚ましてしまった。

 今の話はどうやら聞かれてないようだ。

 夜とかわけわかんない事言ってるし。



「あ、確か俺は逃げ出したキュートードたちを追ってたんだっ! 残りも早く回収しないと親父にどやされちまうっ! ってなんだこの布はっ!?」


 バサッ!


「うわっ!」

「フーナ姉ちゃん?」


 目を覚ました男が立ち上がり、何かを手で払いのける。

 すると、ピンク色の布が勢いよく私の頭に乗り、視界を塞ぐ。



「なんだぁ? 夜じゃなくて、布切れを被ってただけか?」


 視界を遮ったものが無くなり、意識がはっきりしたのだろう。

 男は周囲を見渡し、現状を把握したようだが、その後が問題だった。



「ん? なんでこんなとこで、尻を丸出しにしている子供がいるんだ?」  


 暗闇から解放されて、陽の光が差す中、目に入ったのがそれだった。


 もちろん、こんなところで下半身を露出している子供がいるのは変だ。

 日中、それも人通りの少ない路地裏とはいえ、街の中でお尻を出すわけがない。


 なので、何かしらのトラブルが起こった。そう予測できる。

 

 その出来事とは――――



「うわわ、前が見えない、なんで~っ!」


 突如視界を塞がれて慌てる私。

 バタバタと暴れるが、なかなか抜けない。


「がう? フーナ姉ちゃん、どうしたんだ?」

「どうって、何がわたしの頭に乗ってるのっ!?」

「がう、服だぞ」

「へ? 服? 誰の?」

「フーナ姉ちゃんの服だぞ、がう」

「なんでっ!?」


 なんで突然?


 私はアドと男の間に入っただけだよね? 

 ギリギリのところでアドのパンチを受け止めて、男を守ったんだよね?


「がう、後ろの男が立った時に、手で払ったんだぞ」

「なんで?」

「がう? フーナ姉ちゃんの服の中に人間がいたからだぞ」

「なんでっ!」


 なんで私のローブの中にっ!?


「フーナ姉ちゃんが人間をかばった時だぞ。がう」

「あ」


 そういう事か。


 助けようと割って入った時に、ローブが男に被っちゃったんだ。

 ぶかぶか過ぎるサイズなのと、割って入った距離が近すぎたせいで。



「………………はっ!」


 って事はなに?


 アドに人間の話をしてた時も、ずっとローブの中にいたって事?

 乙女のお尻を目の前に、ずっと息を潜んでお尻を眺めてたって事?


 しかも助けてあげたのに、今は私のお尻を丸出しにした張本人に?


  

「むっき~っ! このハレンチ野郎っ!」


 ゴガンッ!


「うおっ! 危ねえっ!?」


 恥ずかしさと、恩を仇で返された怒りで、後ろにいる男に馬キックを放つが、目測を誤って建屋の壁をぶち抜いてしまった。



「がう、フーナ姉ちゃん。人間には攻撃しないんじゃなかったのか?」

「ち、違うっ! いや、違くない? もうどっちでもいいから、わたしの服を取ってよぉ~っ!」


「な、なんだお前っ! 子供のくせに一撃で壁に穴をっ!?」 


 ファサ


「あ、ありがとうアドっ!」

「がう」

「そ、それじゃ、もっと人がいるところで情報を集めようか?」


 ローブを取ってくれたアドにお礼をして、そそくさと踵を返す。


 ところが……



「おいっ! ちょっと待て、どこ行くんだっ!」


 すぐさま男に呼び止められる。


「な、なに? わたしはただの可愛い幼女だよ?」


 長すぎる袖をプラプラさせながら、愛想笑いを浮かべる。


「嘘つくなっ! ただの子供が俺を持ち上げたり、壁を破壊できるわけねぇだろうっ!」

「あ、あれはたまたまだよ?」

「たまたま?」

「う、うん、たまたま風が吹いて、お兄さんが軽くなったんだよ? あの壁は元々古かったから、そこに当たっちゃっただけだよ?」


 どうにか解放してもらおうと、それっぽい言い訳をしてみる。


「あん時、俺が持ち上がるほどの風なんか吹いてなかったぞ? それとその建物はまだ建てたばかりだ」


 胸の前で腕を組みながら、薄目で睨まれ、一つ一つ説明される。


「か、風はほんの一瞬だったんだよっ! ビュッ! って吹いて、パッ! て、消えちゃったんだよっ! あとその建物が、なんで建てたばかりってわかるのっ!」


 男の説明に負けじと、理論正論で反撃する。

 あり得そうでなさそうな、それっぽい事言って煙に巻こうと。



「まぁ、風の件はいいとして、その建物は俺ん家の店なんだよ」

「え?」

「だからわかるんだよ。それよりも――――」

「へ?」


 ここまで言って、前屈みになり、私と視線の高さを合わせる。

 その目はさっきまでの怪しんだ眼ではなく、真剣身を帯びていた。


 

「それよりも、お前の強さを見込んで、頼みたい事があるんだっ! 詳しい話は中でするからよっ!」


「うへっ!?」

「がう?」


 こうしてこの男は有無を言わせずに、私たちを店の中に連れて行った。


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魔法少女を願ったら、異世界最強の魔法使い幼女になっちゃった?~女神の願いとドラゴンの幼女[達]~ べるの @19740413

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