第40話幼女の訳とカエルと




 二人で着いたノトリと言う街は、小さいながらも人が多く、活気のある街だった。


 建物は不規則な形の木造のものが多く、歩く通りも地面が剝き出しで緑も少なく、お世辞にも景観は良いとは言えなかった。


 けれど、門をくぐってしばらく歩くと、拓けた広場があり、色とりどりの布で覆った屋台や露店が立ち並び、そこにはたくさんの人たちが列をなしていた。


 観光として来るのには向いていないが、立ち並ぶどこのお店も繁盛していて、それが活気ある街に見えていた理由だった。


 そして、立ち並ぶどのお店にも、カエルを模した、絵や旗らしきものが目立つのは、ここの特産品か何かだろう。食用のカエルか何かが流行っているんだと思う。



 そんな中、脇目も振らず、私はプンプンと頬を膨らませ、アドと一緒に歩いている。


「もう、本当に悪魔の所業だよねっ! いたいけな幼女を大人にするなんてさっ!」


 一人愚痴りながら、アドと手を繋ぎズンズンと宛てもなく歩く。

 と言っても、私はホバーの魔法でちょっとだけ浮いてるんだけど。



「そんなに怒る事か、フーナ姉ちゃん?」


 隣のアドが不思議そうに私の顔を覗き込む。


「当り前だよ? だって未来ある幼女が大人にされちゃったんだもん」

「でも大人になれていいだろ? がう」

「ちっちっち、わかってないなぁ」

「がう?」


 人差し指を振りながら、理解していないアドのために一度立ち止まる。

 因みに萌え袖のせいで、ちっちっちした指は見えない。



「さっきも門兵さんに熱く語ったけど、大人になるって事は成長しちゃうって事なんだよ? だからもったいないじゃん」


「もったいないか? 俺はもっと大人の姿になりたいぞっ!」


 背伸びして、僅かでも身長を大きく見せようとするアド。

 その際、アドの子供ではないがプルンと大きく弾む。



「じゅるっ…… って、アドは大人の人間に変身できないの?」


 視線を胸から全身に移しながら聞いてみる。

 あんまりジロジロ見ちゃうとバレちゃうから。



「出来ないぞっ! 出来る奴もいるけど、それは最初に決まるんだっ!」

「え? 最初って何? 生まれた時から決まってるって事?」


 だからメドもエンドもずっと子供のままなんだ。

 年齢的には何百歳の筈なのに。

 私的には中身がどうあれ、可愛ければいいんだけど。



「がう、違うぞ。最初に姿を変える時に見た人間だぞ」

「え? それって?」

「俺はフーナ姉ちゃんを見本にしたんだぞ。だからだぞ」

「はあ~」


 その割には全然似てないよね?

 髪の色も長さも、そして胸も。


 なんて、ジロジロとアドを見ていると更に話が続く。


「俺たちには人間の区別がつきづらい。だからフーナ姉ちゃんを真似て子供になったんだ」

「あ、真似るってそう言う事なんだ」


 アドの説明を聞いて、ポフと萌え袖の上から手を叩き納得する。


 要は、容姿の話ではなくて、子供の姿を真似て変身したって事なんだ。

 だから元のアドの特徴が出てたんだ。


 メドは白を基調とした白銀の髪と肌の色。

 エンドは黒を主とした黒髪と肌の色。

 アドは青いドラゴンなので、青い髪色に。


 因みに胸の大きさの基準はわからない。

 強さの序列的には、エンド>メド>アドなんだけど。

 もしかして下位ほど大きくなるとか?



「へぇ~、なら一回でも子供になると他にはできないんだ」

「う~ん、どうだろうな。練習すれば出来ると思うぞ? ただ――――」

「ただ?」

「フーナ姉ちゃんくらい、強い人間がいればだなっ!」

「?」

「俺はフーナ姉ちゃんに負けて、それが強く頭に残っちゃったんだぞ」 

「あ、ちょっと待って、その理屈だと、エンドもそうなの?」


 エンドもアドも私と戦って負けた。

 だから二人とも子供の姿なんだろうって。

 

 この辺の理屈は、強者に従うドラゴンっぽい。



「がう、そうだぞっ! だからだぞっ!」

「お、当たったっ! やっぱりそうなんだ」

「がう、さすがフーナ姉ちゃんだなっ! すぐわかった」

「まぁねっ!」


 感心しているアドにグッと親指を突きだす。

 もちろん袖がプラプラと揺れただけだけど。



『あれ? そうなると、ちょっと疑問が残るんだけど?』


 メドも私と戦って幼女の姿になった。

 けど、メドは元々人間の姿で、街に買い物に行っていたと話していた。


 だからメドが負けた最初の相手は、私ではない事になってしまう。

 断定はできないけど、もしかしたらメドは、私以外の幼女に、過去に負け……



「どうしたんだっ? フーナ姉ちゃん」


 物思いに耽る私の顔を、手を引き覗き込むアド。


「あ、ごめんね? ちょっとメドの事考えてたんだ」

「がう? メド姉ちゃんの事?」

「うん、だって今の話だと、メドは私と会う前から人間の姿になってるって聞いたから、もしかしたら昔に…… って、何? この大きいカエル?」


『ケロ?』


 立ち止まって話をしている私とメドの目の前に、どこから来たのかわからないけど、桃色のカエルがピョンと現れた。

 大きさは50センチくらいもある大きいカエルだ。



「ねぇ、アド。このカエルって何て名前のカエルなの?」

「がう? カエルはカエルだぞっ!」


 二人でしゃがみ込んでそのカエルを眺める。


「いやまぁ、大まかに言ったらそうなんだけど、そういう一括りじゃなくてさ、アマガエルとか、トノサマガエルとか、そう言った種類とかないのかな?」


「う~ん、俺は虫の事はよく知らないぞ?」

「いや、虫じゃないからねっ!」


 信じられない事を言うアドに突っ込む。

 相変わらずと言うか、ドラゴンは大雑把すぎる。


 いや、この場合はアドだけっぽい気もするけど。



「まぁ、いいか。でもこのカエル。わたしと同じ色してるんだね」

「そうだなっ! フーナ姉ちゃんと同じ色だなっ!」

『ケロ?』


 正直、大きさは気持ち悪いぐらいに大きい。

 でも、つぶらな瞳と頭の上に咲いているピンクの花が可愛い。

 指は吸盤ではなく、何故かホワホワとした綿毛みたいなのが生えている。



「ど、どうしよう、この子迷子なら連れて行っても良いかな? なんか可愛いし」


 周りを見渡し、それらしい持ち主がいない事を確認する。



「がう? そんな弱そうな虫いらないぞ?」

「いや、虫じゃなくて、これは両生類って言って――――」


 なんて、アドにこのカエルの魅力と種類を伝えようとしていると、



「こんなところまで逃げ出したのかっ! うらぁっ!」


「うん?」

「がう?」


 ズバンッ!


『ケロッ!』


 剣を持った男が屋根の上から現れ、目の前の桃色のカエルを一刀両断した。



「あ、あああああ――――っ! このやろ~っ!」


 パキンッ


 私は男の剣を手刀で真っ二つにして、胸倉を掴みグッと持ち上げる。

 因みに私だけはホバーで浮いている。



「ぐわっ! な、なんだお前はっ! く、離せっ!」

「なんだじゃないよっ! なんであの可愛いカエルを半分にしちゃったのっ!」


 ジタバタと足をばたつかせる男に怒りのままに詰め寄る。

 あんなに可愛いのに、何の躊躇もなく殺しちゃうなんて許せないからね。


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