書評の本懐

 書評集なのだが、読んだことのある本、なまえを知っている作家がまったく出て来なかった。
 それなりに本を読んできたつもりだが、いやはや、本の世界はだだっ広い。

 と最初は思っていたが、書評を読み進めるうちに、ひとつの疑念が生じた。
 いや、もしかしたら、ここで紹介されている本や作家は存在せず、評者の妄念から生み出されたものなのではないか?


 その疑念を確実なものにするべく、私は数年ぶりに図書館へ行き、紹介されていた「どんぐり かいぎ」という、ありもしない絵本を探しに出かけたところ……。
 とうぜん、私の妄想は外れ、「どんぐり かいぎ」は書棚に置かれていた。

 絵本を手に取り、その場で読んでみると、話としておもしろいし、自然の摂理を知るために、子供に読ませたい一冊であった。


 よい書評とはどういうものか。いろいろ答えはあるだろう。
 しかし、「読んだ者に紹介した本を手に取らせる」が、いちばんの成功であるのはまちがいない。
 紹介した本の作者の役に立てたのだから。
 であるから、この書評集は良い出来だと言えるだろう。


 カクヨムで、私も書評を六十冊分書いているが、「読みました」なんて言われたことがない。
 残念。