エピローグ

「すると辻元さんが日本人初のチューリング賞を受賞出来たのはその約束のお陰と?」

「きっかけはそうなりますね」

「その約束を果たすため、あなたは40年間彼女を探し続けてきた。その過程で生まれたプログラム『SwiMeスイミー X』は今や医療、交通、娯楽と日常のあらゆる場面を支えています。それが今回の受賞へと繋がりました。全てそのリアナに感謝ですね」


 コンピュータ科学のノーベル賞と言われるチューリング賞。その受賞インタビューが終わり家に帰ると私は、夕食の準備をしていた使用人を帰した。一人になった豪邸で、誰もその存在を知らない地下室へ降り、スイッチを入れる。


 40年かかった、ここまで来るのに。

 大学卒業後Linxの会社に就職し、まずSwiMeの問題点を修復。SwiMeは壊れた訳ではなかった、問題はその高性能過ぎるAIが故、あの世界にのめり込むユーザーが多発した点にあった。

 それから凍結されていたリアナの世界を探し出し復元、3Dで構築することに成功した。ついにあの世界を取り戻したのだ、を守るため。

 そして今日がまさに起動の日。


 視覚プログラムが動き始めると、目の前にあの小麦畑が広がった。空にはインクのような赤い夕日が浮かぶ。

 きっとこの小麦畑の奥に彼女がいる、彼女は今の姿を見たら驚くだろうか。


 吹き抜ける風は、ちょうどあの日と同じ、優しい匂いがしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

それでもソシャゲを止めなかった男 木沢 真流 @k1sh

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ