読む連続テレビ小説の味わい

本作を一言で言えば、まさにタイトル通りの『愛すべき不思議な家族』の物語です。
序盤は作品紹介にある通り、女児の葉月と春道との邂逅から始まる物語はいくつかの出来事を経て、ぎこちないながらも疑似家族から家族へと昇華していく様が描かれます。過酷な葉月の生い立ちと人生を娘の葉月にかけた和葉との母娘関係確認プロセスが序盤の読みどころになるでしょう。
多くの作品ではここまでで「めでたしめでたし」と物語を終えてしまうのですが、この作品は本当の家族へと一段上の状態に高められた「葉月の小学校編」以降、物語の様相を変え、この家族とその周辺の人々が織りなす素敵な青春ドラマであり、ホームドラマとなります。
序盤の出来事を乗り切った家族は一層深くつながることとなり、その周囲には引き寄せられるように数々の個性的で楽しい人たちが集まります。このため、物語の視点はスポットの当たる登場人物視点であったり、いわゆる神の目線であったりしますが、話のつながりは自然なため、違和感なく読み進められます。
そうして、作中では季節が繰り返しめぐり、時はどんどん過ぎていきます。出会いも別れもあります。変化していくもの、変わらないもの、継がれていくものが描かれますが、本作品はこうしたストーリー展開だけでなく、登場人物間の濃密な結びつきが読み手をとらえる一つの魅力になっています。
この登場人物たちの結びつきは自然発生的でも、以心伝心でもありません。時には言葉で、時には態度で互いの気持ちを伝え確認しあう努力の上で時間をかけて醸成された信頼なのです。言葉の選択を誤ったり、必要な言葉をかけられなかったり、また感情の赴くまま行動して失敗することもあります。
夫婦であっても、親子であっても姉妹であっても、そして友人であっても、この物語に登場するキャラクターは言葉と行動で意思を伝えあい、そしてそれを受け止めて相手を理解して結びつきを強めていきます。この関係性は「少々出来過ぎ」かもしれませんが、読んでいて心地よいものと感じられるのは、現実世界でもそうあって欲しいと思う一読者の願望からでしょうか。
年齢を重ね、互いを理解しあっている夫婦家族であるからこそ、円滑な関係には「言葉」が大切であることを改めて認識させられます。
また、夫婦の関係という点でこの作品は和葉のツンデレ変遷も読みどころかもしれません。当初はツン成分しか存在しませんでしたが、時の流れを経てデレ成分が濃厚になるラブコメ的要素を楽しめるのも読者の特権です。和葉を挑発する祐子の会話や実希子と周囲の会話は作品中お約束の様式美となり、読み手に笑いと安心感を与えてくれます。
この物語には自身の身勝手さ故に取り返しのつかない事態を招いた人物は登場しますが、根っからの極悪人は登場しません。そういった点から「連続テレビ小説」的な作品といえます。

物語は完結に向けて折り返し点を過ぎたかもしれませんが、いつまでも見ていたい家族です。読書に上質な「連続テレビ小説」を見ているような感覚を求める方はこの「愛すべき不思議な家族」を一読してみてはいかがでしょうか。お勧めいたします。

蛇足になりますが、読み進めると、序盤の30話前後で釈然としないモヤモヤを感じるかもしれません。しかしそれは、後々作中の68話前後できちんと回収されるシーケンスとなっており、まずは安心して(?)読み進められます。さすがに超ロングパス(69話→303話)は驚きですが…

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