第5話 思いの力

 ある日の午後もモエ、レル、チル、リアの4人の死神少女は、和室でまったりのんびりと過ごしていた。


「あー、なんか最近ブラックソウル出なくないか?どうなってんだ」


 モエがあぐらをかいた状態から上半身を後ろに倒しながら言った。


「あっ、モエちゃん!ス、スカートの中見えちゃうよ!」


 レルはスカートを押さえようとした。


「あー?」


 モエは自らゆっくりスカートの裾を直した。


「別にいいだろっ。女だけだし。暇だし。寝ても」

「ね、寝るのはいいんだけど…お、女の子として気にした方が…」

「女の子?死神なのに?神がそういうこと、気にしちゃうのか?……まあいいや。一応気にしてみるか、一応」


 リアが「平和だなぁ」と呟いた。


「いきなり、波が引いたようだな。確かにやることが無いのは致し方ないね」

「ぷっ、あはははっ。そっか、確かに、と、いたしかたをかけてるんだ!あはっ、あはは!…あー、お腹痛い!」


 チルがリアのダジャレでツボにはまっている。


「いや…全然面白くないし…なんでそんなに笑ってんだ。リアは、見た目少女なのに中身おっさんだからな…」


 モエは若干引いている。


「レルも何か言ってやれ」

「チルは、ちょっと変わってるから…しょうがないよ…」


 レルはもうあきらめているようだ。


「まともなのがいないな…」


 モエが呆れていると、ドタバタと、すごい音と共に大天使ミレーヌが襖を開けて倒れこんできた。


「おー!ちょうどいい所に大天使ミレーヌさん。暇なんだが、何かすることはないかな?」


 モエは手を上げて軽く挨拶した。


「そ…それどころ…じゃ…な、ないわよ!はぁはぁっ…と、とりあえず…飲み物ちょうだい!」


 レルはぬるめのお茶を湯呑みに入れて大天使ミレーヌに渡した。

 大天使ミレーヌはお茶を一気飲みすると、ぷはーーっと息を吐いた。


「あー美味しい!…って言ってる場合じゃなーい!大変、大変なのー!今までの比じゃないくらいのブラックソウルが出たのー!しかも、正体不明なの」


 モエは嬉しそうだ。


「やったー!やっと活動できるのかー!」

「そんなこと言ってられないわよ!今すぐ全員でブラックソウルの所に向かって!」


 大天使ミレーヌが場所を伝えると、4人の死神少女はすぐさま準備して向かって行った。



 この世界のほぼ真北には、岩で囲まれた砂漠地帯がある。

 そこに死神少女4人は向かっていた。


「今までの比じゃないって、どのぐらいなんだ?」


 モエは呟くように言った。


「普通には鎮められない、ということじゃないだろうか」


 リアが冷静に答えた。


「ちょ、ちょっと…怖いねチル」

「大丈夫だよ!レルと一緒なら!…ううん、みんなと一緒なら…ねっ!」

「そ、そうだね!みんなと一緒なら怖くないよ!」


 チルがレルを落ち着かせると、レルは顔が明るくなった。


 4人の死神少女は上空を飛んでいる。

 モエが「急ぐぞ!」と言うと4人は速度を速めた。


 徐々にブラックソウルが見えてきた。

 遠くからだが、普通の人間の大きさに見える。ということは近くに行くと巨大ということになる。


「なんだあいつは?でかくないか?」


 モエはブラックソウルの大きさに驚いている。


 遂にブラックソウルまでの距離が5メートルになった。モエが止まると他の3人も止まった。


 4人が上空で対峙するブラックソウルは身長が3メートル以上ある。しかし、姿形は人間で真っ黒い影である。

 すでに濃紺の靄が立ち込めている。


 ブラックソウルは4人が動く前に動き出した。

 まず最初に目を付けたのはモエだった。正確には目は付いてないのだが、モエの所まで一瞬で移動すると、上からつぶすように右の拳を下ろした。


 モエは地面に仰向けで食い込む形になった。


「……ッ!」


 他の3人は息をのみ戦闘準備をした。

 レルは両手の平をブラックソウルに向け、小さい水の塊を連続で飛ばした。


 ブラックソウルは簡単にかわし、レルを左手の平ではたき落とした。


「レルっ!?もう怒ったよー!」


 チルは怒って両手の指先を全部ブラックソウルに向けた。

 その指先から稲妻が放出された。


 ブラックソウルはわざと稲妻を食らった。そのままチルの所まで近づいて行くと、両手でつかみ地面に向かって投げた。

 チルは頭から地面に落ちた。


 すぐにブラックソウルはリアに向かって右の拳を出した。

 リアが手を地面に向けると地面が部分的に盛り上がり、リアの前に壁のようになった。


 しかし、ブラックソウルの拳はその壁を突き破りリアに向かう。

 リアは腕で防いだが吹き飛ばされて地面に落ちた。


 死神少女4人が動けない間にブラックソウルはどこかに行ってしまった。


「くっ…くそっ…!あいつ、まさか人間たちの所に…!」


 モエは上半身をゆっくり起こした。


「かもしれない…。早い所行かなければ…!」


 リアはゆっくりと立ち上がった。

 リアは地面に落ちる寸前で地面をへこませて衝撃を減らしていた。そのため体を軽く打っただけで済んだ。


「わたしたちも…大丈夫、だよ。早く…行こう!」

「うん!」


 レルとチルはお互いに体を支えながらモエたちの所に歩いてきた。


「みんな聞いてくれ!うちらは1人1人だと小さい力だが、みんなの力を合わせれば大きな力になる。レル!チル!リア!力を貸してくれ!」


 リアは「ふっ」と笑った。


「当たり前じゃないか。貸す、じゃなく合わせる、だろう?」

「うん!わたしも合わせるよ、モエちゃん!」

「うんうん!あたしもあたしも!」


 3人はモエの周りに集まった。


「ありがとう、みんな!」


 モエが立ち上がったそのとき、4人は光り輝いた。


「なんだこの光は?力が沸いてくるぞ!」

「み、みんなの気持ちが一つになったんだよ!」

「なんか温かくてほっかほかだねー!」

「これなら、鎮められるんじゃないだろうか!」


 4人は笑顔でそれぞれの顔を見合った。


「みんな行こう!!」


 死神少女4人は光り輝いたままブラックソウルが向かった街に飛んで行った。


 街の上空では正体不明のブラックソウルが人間の魂を食べてブラックソウルに変えていた。

 食べると言っても、人間に濃紺の靄を飛ばして魂を抜き取ってブラックソウルにしてしまう。


 そうして沢山の人間をブラックソウルに変えている所だった。


 死神少女4人が追いついた時、ブラックソウルは他のブラックソウルとくっつき始めた。

 見る見るうちに巨大化していく。姿も変わっていった。


 トゲのようなものが全体的に生え、もう人の姿ではない。禍々(まがまが)しいほどの靄が漂い、殺気立っている。


 しかし、モエたちも負けないくらいの光を放つ。


 今度はモエたちが先に動いた。

 モエは両手の平を上に向けて火を出現させ、その火をバズーカのように形作った。

 火のバズーカを両手で持ちトリガーをひいて溜めると、ブラックソウルに向けて放った。


 ブラックソウルは巨大な手で防いだ、ように見えたが、モエの火のバズーカから放たれた炎は巨大な手を貫いて燃やした。

 すぐにブラックソウルは再生しようとしていた。


 すかさずチルが両手の指先を向かい合わせると、ちょうど手の間の一点に稲妻を集め始めた。10本の指先から稲妻を流し、その一点で大きくしてブラックソウルに向けて一気に放出した。


「えーい!」


 ブラックソウルも負けじと禍々しい靄を放出した。

 稲妻と靄はぶつかりあって押し合う。


 勝ったのはチルの稲妻だった。

 そのままブラックソウルに当たると、ブラックソウルはよろめいた。


 ブラックソウルが再生している間に、レルは手を上に向けて巨大な水の塊を作っていた。

 その巨大な水の塊にチルが稲妻を放出して電気を帯びた水の塊にした。


 続けて今度はリアが、電気を帯びた水の塊の周りを岩で固めた。巨大な岩の球が完成した。

 最後にモエが炎をまとわせて、死神少女4人の思いが入った巨大な岩の球を一球入魂で投げた。


「とぅおーりゃー!!これが、うちら4人の思いの力だー!!」

「いっけーー!!」


 他の3人もモエに声を合わせる。


 ブラックソウルも禍々しい靄を放ち対抗するが、4人の思いの力の方が強かった。

 ブラックソウルは炎をまとった巨大な岩の球をくらうと、グ、ゴーという音を立てて小さくなっていき消滅した。


 その後、空が晴れ渡りブラックソウルに魂を食べられた人は元の人間に戻った。


 しばらくして人間たちの声が聞こえてきた。


「あの子たちが倒してくれたんだ!!」

「かわいくて、つえーー!!」

「神様仏様ー!!」

「何者なんだー!?」


 間を空けてモエが叫んだ。


「うちらは死神少女、グリムリーパーガールズだ!!!」


 モエ、レル、チル、リアは人々の歓声の中、笑顔で手を振り、空を飛んで去って行った。


 その後も人々の間で死神のヒーローとして語り継がれたとか継がれなかったとか…。

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グリムリーパーガールズ ざわふみ @ozahumi

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