第6話 緩やかな気持ち
激しい恋だとか、愛とかそれはそれで経験してみたかったなぁと本屋で平置きされた新刊を見下ろした。最近はもっぱらデジタル派でタブレットかスマホ読みが多いのだが、たまに文庫の柔く薄い紙とインクの匂いを感じたくなる。ここは奮起して官能小説か!? と思うかもしれないが、残念ながら趣味ではない。ただ徒然読める日常系か、ミステリー、最近はライトノベルも捨てたもんじゃないと思っている。意味不明な啓発本に時間を費やすくらいならウェブ小説の方でもいい。
のんびり平置きと縦置きを眺めて文庫本へ。そして何故この位置にボーイズラブ系を配置してしまったのか。昨今、同人誌やオタク、アニメや漫画も広く穏やかに受け入れられて入るが、配置的にここはどうなんだ……と瞼が落ちる。綺麗なイラストで肌色が多い表紙を見下ろし溜息をつく。読まないわけではない。この手のものは自宅においてあるタブレットでこっそり拝読している。結構いい話が多くて泣けるのだ。
こんなところを会社の人間に見られたくはないと足早に他のコーナーに移動し、物色。特にこれといって興味をそそるものがなく、柴犬専門誌を買って帰宅。いつかは小さくていいから柴犬と平屋でのんびりミニマム生活を送りたい。どうせ伴侶など居ないし。
買ってきた雑誌をお茶を淹れて早速捲る。可愛らしい柴犬がニヘラとわらってページを飾る。かわいいなぁと思いつつ、槙島もいっそモデルとかなら雑誌などに乗ってて合法的に画像が手に入るのに、と危ない思考が過る。いや、今は柴犬で現実を忘れたいと思わず頭を振って雑誌に戻った。
読み終わった本を脇に起き、温くなったお茶を飲み込んだ。途中途中柴犬と戯れる槙島とかいいなぁなどと横道にそれつつ堪能した。槙島紫水、たしかに俺は彼が好きだが、不感症になる前から特に彼とどうこうなりたいとは思わなかった。昔からそうだ。友人だったり同僚だったりしたからかもしれない。築き上げた関係をその一つで瓦礫としたくないし、同性ならなおその関係は粉砕され砂塵となるだろう。そうなるくらいなら、時々の妄想と、罪悪感はあるが夜のオカズにさせてもらうくらいでいい。
槙島の色々を思い出す。入社したての頃や慣れ始めた頃にやらかしたミスもあった。今では顧客の多い遣り手社員、結婚したいナンバーワン。そういえば、彼はそれこそ適齢期とも言える年齢だ。
『意中の人』
彼が夢中になる相手とはどんな女性だろう、と冷え切った最後のお茶を飲み干した。
私、40手前なんですがね。 あきゃ衛門 @sen-emon
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