第2話
その日は、アイ子先生が来る日なので、前回の採点結果が楽しみだった。
ところが、その日もまたメールだった。
→美恵ぴょん、ごめん。もう一つの仕事が忙しくなっちゃって、当分会えそうもないの。後でメールで出題するから頑張って。前回の結果発表! なななんと、100点! おめでとう♪さすが、一押しの我が教え子d(^-^)志望校合格間違いなし(^-^)v
[前回の答え]
【1】池【2】皿【3】四六時中【4】機【5】子【6】狸、狐、猫【7】竜【8】起承転結【9】おみなえし、あせび/あしび、おもと【10】桑港(サンフランシスコ)
「ヤッター!」
アイ子先生に会えないのは寂しいけど、テストが満点だったことや、“一押しの我が教え子”って書いてくれたことが私は嬉しかった。
そして、次の出題を楽しみに待った。
ところが、いつまで経ってもアイ子先生からメールが来なかった。
何があったのだろうと不安になり、私はメールをしてみた。
←アイ子先生、何かあったんですか? メールが来ないので心配しています(..)
しかし、夜になってもアイ子先生からの返信はなかった。
不安が募り、結局、電話をした。だが、留守電になっていた。
「美恵です。……先生、どうしたんですか? 何かあったんですか? 心配してます。絶対、返事をください」
何か大変なことが起きたに違いない。
「……アイ子先生」
私は先生の名を呟きながら、何事もないことを祈った。
しかし、翌日も、その次の日も、アイ子先生からの連絡はなかった。
笑顔が消えていくのを自分でも感じていた。
アイ子先生から手紙が届いたのは、それから数日後だった。ただ事ではないことを直感すると、開封する指が震えた。
〈美恵ちゃん、連絡できなくてごめんね。ずっと、美恵ちゃんの先生を続けたかったけど、できなくなっちゃった。
でも、美恵ちゃんなら大丈夫。漢検二級合格、間違いない。私が保証します。
私は今、病院のベッドでこれを書いています。この手紙が美恵ちゃんに届く頃には、私はこの世にいません〉
私はあまりの衝撃に、呼吸が止まった。
〈告知されたのは三年前。でも、三年も生きられたお陰で、美恵ちゃんに会うことができた。神様に感謝しています。
美恵ちゃんは、唯一の可愛い私の教え子。だって、チラシのメアドにメールくれたの美恵ちゃんだけだもの。
だから、美恵ちゃんは私だけの大切な教え子。最高にチャーミングで、最高の優等生。
美恵ちゃん、ご両親を大切にね。お父さんとお母さんがいたから、美恵ちゃんがこの世に存在したの。つまり、私が美恵ちゃんに会えたのは、ご両親のお陰なの。
最後に美恵ちゃんにお願いがあります。漢字が苦手な子供たちに漢字の面白味を教えてあげてください。
美恵ちゃんがお手本です。苦手な漢字を得意に変えた模範生ですから。
私の大好きな美恵ぴょんへ 上田愛子より〉
私は号泣した。涙は止めどなく溢れた。
アイ子先生は痩せていたけど、まさか、病気だなんて考えもしなかった。いつも明るくて、ダジャレで笑わせてくれたりして、優しい人だった。
もう二度とアイ子先生に会えない、もう二度と出題メールは来ない。……そんなの嘘だ!
私は現実を受け入れることができなかった。
でも、アイ子先生の気持ちを無にしてはいけない。私は心を強くすると、検定試験に向けて猛勉強した。
六月。私は漢検二級に挑んだ。
そして、ひと月後、私の元に合格通知が届いた。それはまた、国語の先生になろうと決めた瞬間でもあった。――
漢字クラブ 紫 李鳥 @shiritori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
カクヨム☆ダイアリー/紫 李鳥
★15 エッセイ・ノンフィクション 連載中 14話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます