紫華を好きだった少年

naka-motoo

少年は少女の遺志を継ぎていじめに死を賭して抗う

 僕は紫華シハナが好きだった。

 だって、とてもかわいい。可憐だし、なによりも本当に本気で僕らを助けようとしてた。

 冗談じゃなかったんだ。


 紫華が死んだ次の日、僕は教室に朝一番で登校した。

 いつもならできるだけいたぶられる時間を削るために始業ギリギリ、できれば担任の先生が教室に入ってくるのとほぼ同じタイミングで入るようにしていた。


 でも、もういいんだ。

 僕はそんなことどうでもいいんだ。


 だって、紫華が死んだんだ。


 僕をいつもいたぶるひとたちはとっくの昔に男女同権を実現してる。僕のいたぶりの時間は女子も男子も協力し合って一番効率的な方法で僕をなぶる。


 でも、それは昨日までの話。


 僕は、今日から、シャウトするんだ。


「キモ。朝イチで来んなよ」

「空気が淀む。ていうか汚染される」

「死ねよ」


 僕は、肺活量測定器の計測時に呼気を最大で吸い込む時のように息を吸った。


 そして、吐いた。


「うおうおうおうおうおうおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」


「な、なんだ、こいつ」

「あああああぁああああああーーーーっ!」

「け、蹴れ! 蹴れ!」


 囲まれて、靴のソールで上から踏みつけられるようにして蹴られる。


 知るか! クソどもが!


「どりゃあああああぁぁぁぁぁああああああーーーーーーーーっ、ヘイ!」

「ぷ、ははははははは! こいつ、バンドでもやってるつもりだよ!」

「ロックンロォオオール! かあ? キメえよ」


 死ね! クソが!


「イヤハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ! とうっ!」


 担任が入ってきた。


「な、なにしてるんだ!」

「あ、センセ、こいつ狂ったみたい」


 そうさ!

 狂ってるのさ!

 お前ら全員がよ!


「クゥォオオオオオオーっ!」


 ピシャアッ!


「あ?」

「首謀者は・・・あなたたちね」


 教室の引き戸の磨りガラスが割れるぐらいの力で開けられて、ハイヒールを履いた女の人が入って来て、一番大笑いしてる男子をそのまま拳で殴った。


「ああっ!」

「うるさい!」


 次に、女子を2人まとめて蹴った。


「痛っ!」

「や、やめてっ!」

「黙れ!」


 その次に男の担任の所にカカカカ、とヒールを鳴らして走り寄る。


 胸ぐらを掴んで頭を前後にブンブンと揺さぶってる。


「な・に・し・てん・の・よぉっ!」


 女の人は担任を揺さぶる勢いが強すぎて喋る言葉が途切れ途切れになってる。そのまま担任を放り捨てるようにして黒板にぶつけた。メガネがズレる担任、なんか言いたそう。


「け、警察呼びますよ!」

「やかましい! 警察が来る前にこの子が殺されてたら、アンタ責任取れたの!」


 女の人は、肩幅に足を広げて教室全体を睨め回した。


 そして、こう言ったんだ。


「全員、わたしが、根こそぎ、救う!」

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