終章 夢

 夢は醒めり。

 

 夢の中にいなければ、私は私の咆哮を、書き連ねることはできない。…それは、当作に対する最大の侮辱である。

 今や我がペンの切っ先は、古びた鈍刀と化した。脳は夜明けとも夕暮れとも知れぬ日に、気怠くも目を覚まそうとしている。

 当作に「終章」と題す時、それは私が死ぬ時だと考えていた。否、私はもう死んだのかも知れない。………

 イカロスは地に堕ち、蜘蛛の糸は今や解け、薄氷は運河へと変わった。

 

 既に、私がここで語るべき片言はない。

 

 我が咆哮よ。幕を下ろせ。

 舞台は、終わった。

 悲劇が喜劇か、その末路さえ辿らぬまま。

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存在の咆哮 鹽夜亮 @yuu1201

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