水滴石穿



「一日一銭なれば、千日一千。縄鋸きて木断ち、水滴りて石穿たる」〈鶴林玉露〉




 此処は、滝壺の底。


 地上から見える水底の、さらに奥。人間の世界の滝壺と水面を隔てて、異界は存在していた。


 遙か遠く高い天を仰げば、碧色の水がたゆたい、その中天に月に似た丸みの金の塊があった。底に目を移せば地面があり、果ての無い花園があった。そこかしこで、季節を異とする花たちが共に咲き溢れているのだった。


 そして、此処には一つの建物群があった。


 金色の門と鈍く光る銀黒の塀が、その建物群をぐるりと囲んでいる。人の身の丈ほどの塀の向こうに、幾つかの豪奢な宮殿が頭を覘かせ、その中心には、宮殿の屋根に覆い被さるように枝を垂らす大樹があった。大樹の枝先では、あたかも凍り付いた露のように、無数の瑠璃の珠が輝いている。


 この瑠璃珠の大樹の洞には竜神が住んでいた。


 周囲の宮殿には竜神に仕える女官が控え、日のある時間には竜神のための宴を催し、管弦の音の止むことがない。竜神の世話を務めるのは、魚人という竜神によって特別に召し上げられた水の化生、――人間の形を真似た魚や蟹であった。かれらはこの宮殿の数々を合わせて、竜宮と呼んだ。


 あたりは、春の陽光のように朗らかであり、時折、水面が天上からの光を乱反射させて降り注ぐと、宮殿を飾り立てた金銀宝珠が輝いて万華鏡のように煌めいていた。


 塀の外には、風がそよぐ音も、小鳥の囀りも、虫の鳴き声も、何もなかった。塀の内側から漏れ出る管弦の音が聞こえてくるばかりで、塀の外で発する音というものはないのが常だ。静寂が満ちていた。


 それを、破る者がある。




 ごろごろごろり。


 がらがらがらり。




 長い塀を辿って、門の反対側まで回っていくと、花園の隙間をさらさらと流れる小川がある。川幅も深さも大したものではないが、こぢんまりとした、一人通れるだけの朱塗りの橋が掛かっている。その先は小高い丘になっていて、幾つかの大岩が花弁のように突き出ていた。花弁の真ん中には、天から糸のように細く繋がった水が垂れていて、これが小川を成していた。




 ごろごろごろり。


 がらがらがらり。




 音の主がそこにいる。


 岩の花弁へ向かって、橋を渡る女があった。


 紅梅や鴇色の色合いのかさねに身を包み、結い上げた黒髪には金銀で出来た花飾りが差してある。着物、髪飾り、どれか一つをとっても、その品は竜宮随一の上質品である。女官たちが身につけているものとは比べものにならないほどの値打ちだ。


 女の僅かに覘く肌は雪のように白い鱗模様、その瞳は宝石のような美しい琥珀色。――この女こそは、竜神の寵姫たる乙姫であった。


 きらきら輝く螺鈿細工が施された漆塗りの箱を、胸の前に大事そうに抱えていた。ごろごろがらがらという音は、この箱からするのだった。


 乙姫は橋を渡って丘を昇り、岩の花弁の中で腰を下ろした。膝の前に箱をそっと置いて、たおやかなその指先で、緩慢に、封した紐を解いた。蓋を開けると、そこには小指の先くらいの小さな白銀の珠が、箱いっぱいにぎっしりと詰まっているのだった。


 乙姫は夢でも見るような恍惚とした表情を浮かべて、天を仰いだ。いくらかそうしているうちに、塀の内側からは鼓が打たれ、笛を吹き鳴らし、琴や琵琶を爪弾く音が聞こえ始めた。宴が始まったのである。音のする方へちらりと視線を投げた乙姫は、夢から醒めてしまったことを惜しむような顔つきで、やがて、天上から水の垂れる一点へ手を伸ばした。


 花弁の中心点であるこの一点は、花弁と同じように岩石が突き出しているが、延々と注がれる水のために、岩はどんぶりのように中が抉れた形をしているのだった。そこには、乙姫の箱の中にぎっしりと詰まっているのと同じ白銀の珠が一粒沈んでいて、今も注がれ続ける水を受けながら、どんぶりの中をころころと踊るように転がっている。乙姫はそれを摘まみ上げて、着物の袖で水を拭い、大事そうに箱にしまって、再び蓋をし紐をかけた。


 箱を抱え、乙姫は立ち上がった。




 ごろごろごろり。


 がらがらがらり。




 塀の中には宴の音色が満ちていて、それは塀の外へも漏れ聞こえたが、塀の外側で音を発するものは元来存在しない。乙姫が歩く度にごろごろがらがらいう他には、音はなかった。


 ここでは、風も吹かず、鳥も啼かない。


 絶え間なく垂れ続ける水さえ、音を立てない。


 花たちは、一見気ままに優美に咲いているように見えて、誰が決めたのか、最も美しく見えるであろう瞬間のまま、一切の変化を出来ずにいる。この花園には時間が存在しない。これ以上は咲きもせず、枯れもしない。手折っても踏み荒らしても、すぐ傍から元の姿を取り戻す。何百年という遙か昔から、蕾は蕾のままでいる。今にも花開こうという息吹を宿したまま、これからも、永遠にそうなのだろう。


 花園に裾を引きずり、ごろごろがらがら音を立てながら、乙姫は金色の門を抜けて塀の内側へと戻った。




* *




 管弦の音を遮って、天地を揺るがすような轟音が響く。


「乙姫、乙姫や」


 厳格なる呼び声。そして、竜神が洞の中で巨躯を引きずる音がする。


「わたしは此処におります。お目覚めですか」


 大樹のすぐ南の殿舎から、乙姫は顔を覘かせる。塀の外から戻って、真っ直ぐに洞へと向かってきた。ごろごろがらがらいう真珠の箱は、足下に置いて裾で隠した。


 洞の中では、白色と金色の入り交じった鱗を持つ巨躯が蠢いている。竜神は巨大な白蛇にも似て、ぐねぐねと動きながらやがて現したその頭部も蛇に近い顔つきをしていた。その額に、金色に光る水晶のような角を持っている。


 笑った。


 ちろちろと赤い舌を出しながら、竜神は笑っている。


「どこへ行っていたのだ」


「川を見に行っていただけでございますよ」


「川で、真珠を拾ってきたのだな」


 それには、乙姫は答えなかった。ただ、微笑みを浮かべただけであった。


 乙姫の沈黙に、竜神は「そうか」と頷いた。


「そなたはちっとも変わらんな」


 竜神は洞から頭を出して、殿舎の縁に立った乙姫の身体へと頭部をすり寄せる。その巨躯たるや、目玉一つで乙姫の頭ほどの大きさがあった。口の先で右腹を掠め、背へと纏わり付き、左の肩口でちろちろと舌を動かす。生暖かい息を漏らしながら、竜神は言う。


「だからそなたは可愛いのだ。なに、好きにするがいい。いずれ堪らなくなって、時を数えるのも忘れよう」


 乙姫は、竜神の額の角へと愛おしげに接吻し、その顎のあたりへと細い指を這わせた。


「あなた様は、わたくしと出会ってから、一体どれほど時を刻んだかご存じですか?」


「そんなもの、分かるわけがなかろう。それが、此処で生きるということなのだ。永劫であるがゆえに、時は刻むことができぬ」


「真珠の数が此処に流れた月日を教えてくれますわ」


「天盤から垂れ落ちる滴を有り難がるのは、この竜宮でもそなただけだ。他の誰も、時を測ろうとは思いもせん」


 竜神はゆっくりと乙姫の身体に回した首を洞へと引っ込めていく。


「宴を楽しめ、乙姫」


「ええ、楽しんでおりますよ。共にご覧になりますか」


「わたしはもう少し眠ることにする」


「さようでございますか」


 乙姫は微笑みを浮かべ、竜神が身を丸めて洞の中に巨躯をしまい込むのを見送った。竜神が再びすっかり頭を洞の中へもぐしたのを見て、足下から黒塗りの箱を抱え上げた。また、ごろごろがらがら音が鳴った。


 水底の世界には、老いもなく、死もない。誕生も、成長もなかった。


 ここで流れている時間は、永久というひとつの塊だ。


 地上の世界とは経過した時間の長さは一致しない。過去とも未来とも繋がっている。ここは遙か昔も、今も、遙か未来も、すべて含めて永久という一つの塊なのだ。


 此処にいる者は、遙か昔から存在し、遙か彼方まで存在すべき者であり、此処にいる誰もがそれを当然のものと受け入れている。


 水底は、時の流れの停滞した場所なのだ。


 乙姫は、泰然として自分のための殿舎へと真っ直ぐ歩いた。


 西の殿舎から響く管弦の音は、乙姫の耳には少しも入らない。黒漆塗りの箱が立てるがらがらごろごろという音が、周囲の音のすべてを掻き消していた。




* *




 これは、只人の娘の物語だ。




 娘は、異界に恋をした。


 娘の瞳の色は、朝夕で色が違った。日中は黒色で、日没から日の出までは金色へと変わった。


 幼少期はここまでの変化はなかった。


 夜間に僅かに色が明るくなりはしたが、せいぜいが焦げ茶色だったので、室内の照明の具合に因るものだろうと思っていた。それが思春期にさしかかった頃、日中と夜間の色の差が急速に開き始めたのだ。あっという間に、焦げ茶色が金色へと変わり、驚いた母は娘を連れて多数の医者を訪ねた。けれども、その誰一人として、原因を突き止められなかった。


 どの医者も結論は同じ。――眼球には異常が見られない。色が変わるということ以外は。


 原因の分からない病。あるいは、特異体質。原因が何であるにせよ、この変化は娘にとっては忌むべき物でしかなかった。娘は、この目によって周囲から排除されるのを恐れていた。


 こんなのは、まるで――。


 だから、人に見られてはいけないと自分に戒めた。


 娘は、用心深く夜に人に合う用事を避けた。


 楽しみにしていた修学旅行も。友だち同士の間で行われたお泊まり会も。祭や花火大会に誘われても断ったし、友だちが訪ねてきても部屋で息を潜めた。


 いつの間にか、仲の良かった友だちとも距離を置くようになり、娘の楽しみはもっぱら、部屋でひとり本を読むこととなった。好んで読んだのは物語だ。物語ならばなんでも、いつの時代の、どこの国の話かも頓着せず、図書館に通っては片っ端から借りた。


 高校を卒業して、大学は文学部へと進んだ。そこで、御伽草子に触れた。没入した。


 異界。物の怪。神様。


 人ではない世界。人ならぬもの。


 特異な目を持つからこそ、娘はその物語の世界に惚れ込んだ。娘は、生まれた町を出たことがほとんど無かったが、胸中に芽生えた焦がれるような好奇心は、きっと、郷愁じみたものだったのだろう。


 娘は、世界と己の間に不調和を感じていた。それがはじめて許容される場所を見つけた。


 毎夜、毎夜、自分の瞳の色に怯えていた。これではまるで、と思ったのだ。まるで、まるで。その先は、未だ形を持たぬ靄のような不安感だった。未だ何と名付けていいかも分からない何かに、自分がなりつつあるのが、酷く恐ろしかったのだ。


 だが、御伽草子は、鬼や物の怪や神は、娘を覆い尽くさんとする黒雲のような靄を晴らした。靄は御伽草子から名と形を拾い、鬼となり、物の怪となり、ときに神となった。一つの世界を娘に与えた。


 それは、救いだった。


 娘は、ゆえに、恋い焦がれたのだ。


 異界というのは、こんな瞳をした自分をさえ受け入れてくれる場所なのかもしれない、と夢想した。たとえそれが実在していなくても、それでも、よかった。


「お母さん、わたし、少しの間、旅行に行くね」


「何処へ行くの?」


「金沢に行きたいの。一度、兼六園が見てみたくて」


 母に、嘘をついた。


 ちょっとした、好奇心だった。


 見たかったのは、異界だ。


 かつて人間が、異界を信じたかもしれない景色を見に行きたかった。それは深山幽谷の景色であり、あるいは人気のない沢の水底だったろう。それを見て、ただ、思いを馳せたいためだけに、おそらく初めての、母への嘘をついた。


 母は、娘の目について、時折負い目を感じているような素振りを見せた。きっと、生んだ、というただそれだけの理由でだ。


 きっと何も知らない人は、異界に恋い焦がれるなんて夢見がちにも程があると笑うだろう。しかし、母はそれを笑えないのだろうと娘は思った。母の哀しそうな顔が容易に想像できた。


 だから、嘘をついた。


 母は少しも疑うような表情は見せなかった。


 母は、目のことで不遇の中高生時代を過ごした娘の、長じてからの一人旅には寛容だった。少しくらい遠くても、長期に及んでも、反対された例はない。


「いつ行くの?」


「来週にしようかなって」


「いいんじゃない? お土産、よろしくね」


「ええ」


 そうして、翌週の早朝、母には始発に乗ると言って家を出た。


 一週間の旅程をすべて嘘にするつもりはなかった。


 古くから異界や異類の出没地と言われているような場所を何カ所か巡りながら、三日かけて金沢へ行く。それからは母が思い描いているような観光をして、七日目に帰る。


 荷物は小ぶりのトランク一つ分と、ハンドバッグだけ。


 母には少ないのではと言われたが、移動する距離を考えればこれでも多いと思えたほどだ。


 最寄り駅からバスに乗って、山奥の自然公園へ向かった。山一つが自然公園となっていて、アスレチック広場や歩きやすいよう舗装のされたハイキングコースがあった。景観がいいのと、交通の便がいいこと、歩きやすいことで、ガイドブックでも気軽に行ける山として紹介されているが、幸いその日は他に歩いている人はなかった。平日だったことが幸いしたかもしれない。子どもはアスレチックなどに集中していた。


 娘は、ハイキングコースをしばらく歩いてしばらく、木陰に荷物を立てかけて、山中を流れる川辺へと降りた。上流に三メートル程度の滝があり、これを見上げると崖の上では滝を跨ぐように根を張った大木の桜があった。まるで木の洞から竜が這い出して見えることから、桜には竜神桜の通称がある。


 春は荘厳だろうな、などと考えながら、しばらくそのあたりを散策した。


 こういったところから、異界は生まれたのだろう。


 かつて理解できない現象は妖怪になり、偉大なものは神になった。現代に生きる娘にも、それは無理からぬことだと思えるほどに、自然は雄大で厳かだった。


 そんな時代ならば、自分ももう少しだけ生きやすかったろうか――、否、結局のところ、妖怪も神も、人間にとっては一線を引いた向こう側の相手に他ならない。領域を侵さないための線引きだ。自分もまた、線を引かれるだけの存在だったろう。


 本当に、異界があればいいのに。


 そこがきっと、自分の生きる世界だったのだ。


 夢想した。願ってしまった。恋してしまった。


 その時、娘は、滝壺の底に夢幻の宮殿を見たのだ。


 銀の築地、金の門。そこら中に瑠璃の珠で飾り立てた幾つもの宮殿が建ち並んでいる。その底どころか、屋根までの距離も測れぬほど遠い。水面の先は人の世ではない場所に繋がっていると思われた。


 図書館にある本は片っ端から読んだ。


 古典の絵巻物や、御伽草子は好んで読んだ。水面が異界の入り口とされる文献も見たことがあった。しかし、覗き見られるからと言って、安易に飛び込んでもこの先へ行けるのか、行けたところで、高さや、水の問題によって無事でいられるのかは定かではない。滝壺自体の深さも、相当に深いようであった。


 娘は思い悩んだが、あまりに身を乗り出しすぎた。


 娘は水面の向こう側へ、ぐらりと傾き、落ちてしまったのだ。


 水面の向こうにも、水が満ちていた。


 金銀や瑠璃で飾った宮殿群まで、水面から見たよりずっと距離があった。水面に戻ろうにも、その水面が何処にもない。遙か彼方に、陽光らしいぼんやりとした光が差していた。とても届く場所にない。


 娘はもがいて、もがいて、沈んだ。


 自分が吐いた空気の泡で、視界が真っ白になった。




 気がつくと、娘は魚人に取り囲まれていた。


 魚人は、青白い鱗肌だが人に近い形をしており、えらがあり、手は五指ではなくひれだった。平安絵巻に見る麗しい女房姿であり、どの魚人の着物も煌びやかな金銀で飾っている。


「どうしましたか。迷われましたか」


 鈴を転がすような声とはまさにこんな声なのだろう、澄んだ美声を響かせて、魚人の一人が言った。


「ご安心めされませ。ここは竜宮にございます。遠方からいらっしゃった稀人に、危害を加えるような真似はいたしませぬ」


「竜宮? 竜宮城は海にあるのでしょう?」


「此処は竜神がお住まいの宮、紛れもない、竜宮にございます」


 魚人の女は、袂で口を覆って、ふふ、と笑った。


 どうやら警戒されているわけではないとみて、娘は滝壺を覗き込んで落ちてしまったとここへ来た経緯を述べた。


「まあ。それは大変でございましたね。さ、こちらへどうぞ。稀人がおいでの時には、竜神御自ら宴を開かれるのです。まずは宴の間へおいで下さいませ。支度は出来ております。さ、ささ」


 魚人の女に手を引かれて、娘は竜神の宴が開かれているという座敷へ連れて行かれた。その間、地上の庭の景色を望めるという二つの廊下を歩き、一つの左右は春と夏、もう一つの左右は秋と冬の庭園の景色を備えていた。


 四方四季の庭ならば、異界でそこを眺める度に、地上では季節を巡るに相当する時間を経ると言われるが、結局のところ渡りきるまで、見てはならないという警句が告げられることはなかった。


 渡りきって宴の屋敷に通されると、上座には髪も肌も真っ白な痩身の男が座っていた。瞳だけ赤く、白蛇のようだと思った。その周りに、五人の若い娘の魚人がもたれ掛かっている。侍らせている、といったほうが正しいだろう。


 白い男は、穏やかな声で言った。


「よくぞ参られた稀人よ。私はこの宮殿の主、竜神である。望みはあるか。言うがいい」


「しばらくの間、この世界を見て回ってもいいですか」


 誤って落ちたとはいえ、この世界を望んだのは娘自身だ。せっかくの機会を、ほとんど何も見ずに帰ってしまうのは惜しいと思った。


 竜神は娘の申し出を快諾した。竜神自ら竜宮を案内し、歩き疲れれば宴の間へと誘われた。宴の間では、真夜中以外は常に楽人が控えていて、朝早くから夜遅くまで、主が宴の前に居ないときでも竜宮中に管弦の音を響かせていた。


 六日をそこで過ごした後、娘は竜神に、もう帰らなくてはならないと告げた。しかし、竜神は娘をなかなか地上へ返そうとはせず、娘は朝な夕な宴の間で過ごさなければならなかった。行ける場所ならば何処へ行くのも制限されなかったので、一人で竜宮を歩き回って帰る方法を探したが、いくら歩いても、地上に帰る道筋は見えなかった。


 やがて、竜神は娘に言ったのだ。


「私の妻になるがいい」


 竜宮に落ちてから二週間が経とうとしていた。


「今は正妻の座が空いている。これをお前にくれてやろう。悪い話ではあるまい」


 竜神は娘がたとえ否と言っても受け入れないだろう、それくらいのことを既に理解していた。


 娘は、返答した。


「わかりました。ですが、地上でやり残したことがあるので、一度地上に戻りたいのです」


「可愛いことを言う。そう言って私を謀った者が、これまで何人いたことだろう」


 声音は笑っていたが、娘の顔を見据えたその目の奥は笑っていなかった。その目が、逃がさないと言葉を発するようだった。


「その願いを受け入れよう。だが、お前をみすみす逃がすのは惜しい。私はお前に一つの条件を出そう。それが満たせなくなったのならば、お前は此処へ戻らねばならない」


「条件とは」


 にやにやと、竜神は笑った。


「条件とは――」




* *




 夜着の襟を合わせ、乙姫は縁台から天上を見上げた。


 水底にも、夜は訪れる。水底の夜は、地上の夜と似ている。水面は暗緑色に染まる。そして、天の一番高いところには、水底における月、天盤が存在する。水面の色が明るい日中には気づきにくいが、常に金色の光を纏い、夜の暗い水面には映えた。


 夜の間は、管弦の音も絶えた。


 皆、寝静まっている。殿舎と殿舎を繋ぐ廊下には、話し声どころか、足音も、衣擦れの音もない。


「昔のことを夢に見た」


 と、闇の中で男が呟いた。


 室内には一組の夜具が敷いてあるが、そこへは天からの天盤の光も差し込まない真っ暗闇があるばかりだった。


「そなたがまだ人であった頃だ」


「ええ」


 光の届かない閨の中で、黒い影が蠢く。


「そなたは此処へ訪れ、帰りたいと願い出て、わたしと約束をした。覚えているか」


「忘れようはずがございません」


 乙姫は立ち上がる。


 天盤から縁台へと注ぐ白い光を背負っている。その身体に生えた鱗の一つ一つに影を生み、浮き彫りになる。


「地上で他者に人ならざる者と思われたのならば、その時こそ異形の身となってあなたの妻になる、でしたね。そしてわたしは、あなたの妻になった」


「わたしが憎いか」


「いいえ」


「では、人のことは」


「憎みませぬ」


「何故憎まぬ」


 男の問いかけは冷め切っていた。


 憎んでいいはずだ。憎んでいると認めてしまえばいい。――時折、男は乙姫にそう言った。長い年月を思えば、何度でも言われたことだ。男は乙姫が人を恨むことを望んでいた。そして、男にただ縋るだけの女になることを望んだ。


「だって、許しましたもの」


 乙姫の返事は、慈愛に満ちていた。


 許し、愛した。それは、二人にとって思い出すことも困難なほど、遙か古の記憶に過ぎない。


 それを男は、ただ一言、「つまらんな」と言った。


「そう仰らないで。愛して下さるのでしょう、わたしのことを。何もかも忘れるほど、溺れさせて下さるのでしょう」


「溺れてみたいか」


「ええ、とても。お出来になるのなら」


 ふ、と、乙姫は笑い、夜着の前を解いて立つ。細く頼りなげな肩から、するすると着物が滑り落ちていった。その肢体は可憐な少女のような肉の隆起でありながら、笑顔はあまりに妖艶で、挑発的でさえあった。雄だというなら神さえ逃さぬような女王の風格を備えている。


 男は夜具から這い出した。


 畳の上を、ずず、ずず、と長い身体を這わせて、やがて、人の上体に大蛇の身体をくっつけたような化け物が縁台の上まで這い出してきた。そして、乙姫に接吻し、その長い身体を乙姫の身体へと巻きつけ、乙姫が苦悶の声を漏らすほどに締め上げながら、一塊になってそこに倒れ込んだ。




* *




 天上に、穴が穿たれた。


 勢いよく水が降り注ぐ。


 轟音を聞き、乙姫は歓喜に打ち震えた。


 黒漆塗りの真珠の箱を手に、殿舎を出ると、脇目も振らずに駆けだした。寝起きの悪い竜神が外の轟音を聞きつけて大樹の洞から飛び出してくるまでには、未だ猶予がある。




 ごろごろごろり。


 がらがらがらり。




 音が、いつもより急いている。


 おっとりとした魚人たちが、血相を変えて走る乙姫を止める事はない。顔を綻ばせて、過ぎ去った乙姫の背に「どちらへ」と投げかけた。


 乙姫は足を止めずに、その声の届かぬ先へ走っていく。


 重たい着物を一枚一枚脱ぎ捨てて、しまいには小袖に長袴だけの姿になって、門の外へと出て行った。


 門の外には絶え間なく注ぎ続ける水が柱状に天と地を繋ぎ、地面には新たな大河を形成している。その川の流れの中に、武者姿の若者が一人、横たわっていた。


「そこのあなた。起きて下さい」


 若武者はうんうん唸って目を開けて、ぎょっとした顔つきで乙姫を見た。


「あやかしめ、なにを……」


「お待ち下さい。わたしは、今はこのような姿をしておりますが、本当は地上の人間なのです。竜神を名乗る大蛇によって此処に閉じ込められておりました」


「ふむ、此処はいったい」


「此処は竜宮にございます。時にあなた様、此処へ落ちたときに、金色に輝く石臼をご覧になりませんでしたか」


「それは、あれのことか」


 若武者が指さしたところには、とても大きな金色の石臼が転がっている。


「まあ、これが」


 恍惚として乙姫はそれを眺めた。


 乙姫の苦難を終わらせる、唯一の神器。これこそは毎夜眺めた天盤の真の姿であった。乙姫の目的は、天盤を用いて黒漆塗りの箱のなかの真珠をすべて砕くことにあった。


 臼の高さは乙姫の胸の高さくらいまであって、直径は乙姫が横たわってもまだ余りあるほどだ。とにかく大きかった。これを回すには、全身で柄を押しながら外周を歩き回らねばならない。なかなか大仕事ではあったが、それを無理だと投げ出すことはできなかった。


 溜めに溜めた真珠の数は、五八三二個。気の狂うような膨大な数を、集めに集め、暇さえあればその数を数えて過ごしてきたのだ。


 これからこの臼を回す苦労と差し引いても、心は喜びに染まりきっていた。歓喜のあまり、震えなど通り越して、溶けて無くなってしまいそうだとさえ乙姫は感じた。


 天盤の上部の窪みに、一つとして落とすことのないよう少しずつ慎重に、真珠を移していく。


「何をするつもりなのか」


「この真珠を砕くのでございますよ」


「何と、もったいない」


「美しいことがこの真珠の真価ではないのです。この真珠の数だけ、わたしはこの水底にとらわれていたのです。これをすべて砕きってはじめて、わたしが此処にいた時間を打ち消すことが出来るのです」


「俺はどのようにして戻ればいいのか。主の命運をかけた戦、遅参も逃亡も家名に傷を付けることになる。ましてや」


 そこで若武者は言葉を切った。恥じるように、顔を真っ赤にして、やや声を小さくして言った。


「戦前に水を汲もうとして落ちてがために死んだと思われるのも真っ平ごめんだ。死ぬならせめて戦場で……」


「ご安心めされませ。あの水柱が逆流すれば、流れに乗って元いたところへ戻れましょう。地上ではきっと、お仲間があなたを心配して水面を覗き込んでいるかもしれません」


 ようやくすべての真珠を天盤の窪みへ移した。五八三二の珠を入れてもまだ溢れぬほどの、大きさである。窪みの中の珠を手の平で掻き、臼の穴へと珠をいくつか落とし込む。


 息を整え、乙姫は臼の柄を握った。


 軽く押したくらいではびくともしない。


「水柱はどうすれば逆流する」


「臼が回れば、自ずと」


「然様か」


 乙姫と共に、若武者も柄を握った。そして、二人で臼を押した。呻きながら全体重を柄にかけていく乙姫と、押し黙ったままこめかみに血管を浮き上がらせ、汗を滲ませる若武者。やがて僅かに動き、また僅かに動き、しばらく回して、臼の中で甲高いぱきぱきという音が鳴った。


 その時、水柱が途切れた。天盤の抜け落ちた穴から注いでいた水が絶え、天にはぽっかりと穴が空いているのが見えた。


 ア、と、乙姫は天を見上げた。


 水ではない、青い空が見えた。


 乙姫は臼を回すことを忘れ、そして、涙を流していた。


 その乙姫の様子を見た若武者も――もしかすると彼一人で微々たる乙姫の力に頼らずとも臼は回せたかもしれないが――、動きを止めて、空を見上げた。


 そのとき、水底全体が地響きを立てた。二人の手を離れた臼の柄が独りでに回り始める。水底中に新しくできた小川――天の穴から流れ落ちた水が、一斉に元の一点に戻ろうと逆流を始めたらしかった。


 ぱき。ぱきぱき。


 一つ、また一つ、音を立てて真珠は砕けていく。臼が何周も独りでに回って、いつしか逆流した水が天盤の穴を塞いでいた。空はもう、見えなかった。しかし、その逆流した水柱は、地上に繋がっているのだった。


 呆けてそれを眺めていた若武者に、袖で涙を拭いながら乙姫は言った。


「どうされました。これで、地上へお戻りになれますのに」


「ああ。そうだな。……お前はどうする。お前も帰るのだろう?」


「真珠がすべて砕けるまでは帰れませぬ。真珠がすべて砕けて、この水の流れに乗って天盤――この臼がが彼処へ戻るとき、それがわたしの帰る時なのです」


「そうか」


 若武者は少し思案顔になって、「いずこの姫君か」と問うた。


「戦に勝って命があったら、無事に帰ったか確かめたい」


「それは叶わないでしょう。此処は、竜宮。永久の時がある場所。過去とも未来とも繋がっているのですよ。わたしはきっとあなたより、未来の地上に生きておりました」


「それは、一年だとか二年だとか、そんな程度ではないということか」


「ええ。こんな立派な武者姿は、絵巻やお祭りの中のものになってしまいますよ。何百年と違う時代を生きました。そう、そうなのです。もう朧気だけれども、わたし、御伽草子や軍記物の絵巻が好きでよく開いていたのですよ。ああ、懐かしや。たった二十年ぽっちの人生でしたが、ここで過ごした数千年よりずっと……」


 乙姫は瞳を伏せた。唇が震え、それ以上は言葉にならなかった。


「泣くな、帰るのだろう」


 若武者は、強く言い聞かすように、しかし優しく言った。


「ええ。ええ。あなたが此処に来られなかったら、あの天盤が落ちることもなく、帰ることも出来ませんでした。異邦からの来訪者を、わたし、ずっと待っておりましたの。これは、せめてものお礼です。お持ち下さい」


 乙姫は髪に挿した金銀の花飾りをとって、若武者に与えると、「さあ、お行きになって」と逆巻く水柱を差した。




「――乙姫」




 男の声が、呼んだ。


 乙姫は振り返る。あまりに早い到着だったが、驚きはしなかった。


 白い大蛇が鎌首をもたげてそこに居る。竜神である。


「来たのですか」


「乙姫。何をする。何処へ行く。そなた此処から消え去ろうとでもいうつもりか」


「そうでございますよ」


「そんなこと、わたしが許すと思うか」


「わたしの真珠集めはただの趣味だと思ったのですか。それとも、集めはすれど、実行はしないだろうと高を括っていらっしゃったのですか」


「愛し合った仲だろう」


「本気ですか」


 乙姫は笑顔を歪めた。


「本気で、わたしがあなた様を愛したとお思いでしたか。わたしはあなたを愛さなかった。あなたもそれを分かっておいでのはず。愛されていると、わたしの愛があなたのものだと、そうでなければならないと思っただけでしょう」


「乙姫。そうだ、そなたはわたしのものでなければならない。わたしを愛せなかったのなら、愛すまで此処にいよ。此処にいることに苦痛を感じなくなるまで、わたしを愛すことを躊躇わなくなるまで」


「それは一体、どれだけの長さの時ですか」


 吐き捨てるように、乙姫は言った。


 五八三二個の珠を砕いている。この真珠は、天盤から滴り落ちる時の滴の結晶だ。この一粒を得るのに、水底における日数で三六五日かかる。一年かかってやっと一粒得られるものを、乙姫は、五八三二個集めて、砕いている。


 ここに来るまで、幾度となく、気が狂いそうになった。


 地上の音も、空気も、匂いも忘れ、自分が生きた記憶さえ忘れ、それでも地上に帰る日だけを夢見た。いつしか時は流れ、真珠は五八三二個にのぼった。


 老いることのない肉体。無味乾燥とした喜びのない日々。変化のない、刻むのが無意味なほどの時間の流れ。人である身には、此処で生きて意思を喪失しないということは、困難で、これこそが苦痛だった。


 何千の珠でも集めてみせると誓いを立てたが、珠を集める内に気が狂わないとも、意思を喪失してしまわないとも限らなかった。帰る気さえなければ、ここで呆然と流れる時間に身を任せればよくなる。意思のない、従順な女になる。愛せと言われるがまま、竜神を愛せただろう。


 乙姫は、それをよしとしなかった。


 ゆえに、珠を集め、珠を砕く。


「あなたは、どれだけ時を刻んだか覚えていないと仰いましたね。なら、教えて差し上げましょう。わたしが此処へ来て、五八三二年が経ちました。人が生きていられる何十倍もの長さを、わたしはあの水面の向こうへ帰ることだけを夢見て生きてきました。それがわたしにとって、生きているということだった。それを放棄しろとあなたは仰る。それは、わたしにとって、人としての生を諦めることです。死ぬことと同義です。死さえないこの水底で、生きても死んでもいない生き物に成り下がるなど、わたしには屈辱でしかなかった」


 静かに、しかし激しく、拳を握りしめながら乙姫は言った。


「憎いのか、わたしが」


「憎いです。とても、とても憎いです」


「そうか、ならば、力尽くでここに留め置く」


 竜神は身体を左右に揺らし、勢いを持たせて乙姫に向かって飛び上がった。


 一瞬、乙姫は逃げようと身体をずらしたが、すぐに無理だと悟った。憎んでいる。出来ることなら、殺してやる。そう思い睨み、次の瞬間自分を襲うであろう衝撃に備えて、身を縮めて、目をつぶった。


 横を、ざっ、と、足音が抜けた。


 次に聞こえたのは、竜神の悲鳴だった。


「おのれ、なぜ人が割って入る」


 目を開くと、眼前に武者姿の背中があった。


 刀を振るって、血潮を飛ばす。


 竜神の白い腹に一文字の刀傷が刻まれ、血をまき散らしながら野っ原でのたうち回っている。その傷は深かったが、今この瞬間にも傷が塞がりつつある。


「人だから、人に力を貸したのだ」


 若武者はそう言い、頭を足で押さえて刀を掲げた。


「おねがい、わたしにやらせて」


 乙姫が頼むと、若武者は刀を下ろして黙って柄を差し出した。持ってみると、若武者が軽々と振り回すのが不思議なぐらいに重いものだった。


 刀を握りしめて、竜神を見下ろす。


「やめよ、乙姫。わたしの愛しい妻、どうか助けておくれ。地上に戻りたいというのなら、帰してあげよう。約束しよう」


「あなたは自分に都合のいいようにしか約束しない。帰ったそばからわたしをまた水底に引きずり込むわ」


「そのようなことはない、乙姫、助けよ、乙姫ッ」


 乙姫は、首に向かって力一杯刀を振り下ろした。


 竜神は、叫声をあげた。


 刀は首の肉を僅かに切っただけで、止まっている。血は溢れるが、竜神は生きている。びくびくと、身体をくねらせている。頭を押さえる若武者が足に力を込めた。


「もう良いだろう。俺がやる。貸せ」


 乙姫は呆然と、竜神の頭を見下ろしていた。手から無理矢理、若武者が刀を剥ぎ取って、「下がっていろ」と言ったので、後ずさると足が縺れて尻餅をついた。


 竜神は息を荒げながら、若武者の一太刀が振り下ろされるその寸前、乙姫の本当の名を呼んだ。愛を囁くときにしか呼ばなかったその名で呼んだ。


 命乞いのつもりだったのか、分からない。


 力を失った首が、ごとりと地に落ちた。


 竜宮の主が死んだのに、塀の内側から誰一人出てくる様子はない。きっとまた、聞く者のない宴を開いているのだろう。


 物言わぬ首を眺めていると、無性に寂しさが込み上げてきた。


 膨大な時間を耐えながら生きた原因はこの男だったが、耐えられた要因の一つであったのかもしれないという気持ちが込み上げてくる。愛さず、憎んだ。しかし、毛ほども気持ちがなかったわけではないのだろうと、今になって思う。


「助けていただいて、ありがとうございました。どうぞ、お行きになって下さい。わたしはもう、大丈夫ですから」


 何か言いかけた若武者であったが、刀の血を懐紙で拭うと、「達者でな」と背を向けた。その背に、乙姫も、「ご武運を」と声をかけた。


 若武者は、水の柱に呑まれると、あっという間に天まで流されて姿が見えなくなった。


 乙姫は竜神の首の傍らで、真珠が砕ける音を聞いた。


 真珠が残り少なくなって、そのうち、天盤がカタカタと震え始め、その大きな図体が少しずつ、水柱に向かってずれ始めた。天盤もまた、蓋の役目に戻ろうとしているのだった。


 乙姫の表皮の鱗がはげ落ち始めた。


「さよなら、あなた。わたし、人間に戻るわ」


 竜神に別れを告げて、乙姫は水柱へと歩いた。


 水柱には、自分の姿が映っている。鱗ではなく、柔らかな表皮を持つ人間の娘が映っている。再会した自分自身を抱くようにして、乙姫だった娘は水柱へと踏み込んだ。




* *




 蝉の鳴き声を聞いた。


 気がつくと、娘は、滝壺を覗き込んでいた。


 滝を見上げると、桜の木に、茜がかかっていた。夏の強い陽の輝きが川面に差して、てらてらと光っている。刃のようだと思った。


 滝壺を、もう一度見下ろす。


 勢いよく注いだ滝が、細かな泡をつくりながら滝壺をかき回す。白く飛沫を上げている。


 そこには既に、夢幻の宮殿はなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

乙姫 御餅田あんこ @ankoooomochida

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ