鋼鉄!魔法戦記!マジカル☆アイアン

低迷アクション

第1話

鋼鉄☆魔法戦記!マジカル☆アイアン


“キイ”はあらゆる世界の“介入支援員”である。“多元世界”全ての恒久的平和を願う

彼等の種族は、時代や次元といった垣根を超え、その世界に住む住人達に力を与え、

時には協力し、その世界の存在を覆そうとする勢力と戦い、平和を維持する事を務めとする。


これらの活動を人間世界、つまり地球、さらに分類すると極東の島国、日本的な事例で

言えば“変身ヒロイン、魔法少女”の“マスコット的立ち位置”がキイに該当した。


今回、彼の任務は(キイの所属する世界にも、性別や社会があり、

これまた日本風に例えると、妻子持ちの中年男性営業職の部類といった所だ。)


人間世界、地球の日本地域で起こりつつある脅威への

対応として、現地人をスカウトし、即戦的防衛手段の人材として確保する事だ。


(該当する対象は、防衛が長引く場合に備え、長期的防衛戦力としての人材育成を図るため、若干の年齢層を対象とする。具体的には10代くらいの男女が望ましい。)


上司から勅命を受けた瞬間には、自身の体が宙に浮かび、夕闇が迫るオレンジ色の空に、

光る球体となって、漂っていた。


キイが地球を訪れるのは三度目。新鮮味はないが、穏やかな景色には心が和む。

静かな余韻に浸りたい彼の頭は、感じ取った“脅威”に素早く行動を開始する。

地上近くまで高度を下げ、ビル群と住宅、そして緑に川が立ち並ぶ中規模都市群に降り立つ。


「目標はあれか?」


キイの見る先には市街に流れる大き目の河川。そこに、黒い霧状の邪悪な瘴気を纏った

“何か”が実体を形成し始めていた。このまま放っておけば、間違いなく現地住人達にとっての脅威となる。


早急に人材の確保を急がねば…さ迷わす視線が河川沿いの土手をまっすぐ目標に向かって走る少女を捉える。偶然ではない。彼女の足は、迷う素振りも見せず、常人には見える筈の

ない、何か…今や“黒い四足の獣”に姿を変え始めている存在に近づいていく。


稀にだが、異能のモノに対し、特異や耐性を持つ個体が人間界に存在する。こう言った

能力要素を持つ者ほど、キイ達の提案する防衛要素(要するに魔力や

魔法を用いた変身コスチューム)が適合しやすい。年齢も見た感じは女学生。

対象年齢も該当しそうだ。


そして、何より明らか危険と感じとれるモノに対し“退避”ではなく“対峙”を選ぶ姿勢が

非情に好ましい。



自身の直感を確信に変え、一気に彼女との距離を詰める。迷いない視線を目標に向ける彼女に声をかける。


「もしもし、そこのお嬢さん。驚かないで。私の名前はキイ。貴方は今、目の前の黒い、

この世界で言うと、犬っぽい存在が見えていて、それを悪いモノと感じ、戦う…

いや、何とかしようと思っていますね?」


少女の視線がこちらに向く。真っ直ぐかつ、強い意思を伺わせる、とても良い目だ。

キイも体を操作し、自身の丸い球体をより光らせ、善のイメージを強くアピールしていく。


恐らく音色の良い返事が、柔らかそうな唇から流れてくるだろうと期待するが、

彼女の耳に付けられたイヤリングが瞬き、機械音声を発した事に、とても期待が

裏切られた。


「ピピッ(電子音)確認、確認!前方ノ目標ト、同室ノ反応!サレド、空気中ニ

散布サレタ、プラズマニ近イエネルギー構成ハ地球環境ニトッテ、良イモノト

出テイマス。」


その声を聞き、頷く少女がこちらに言葉を返した。とても期待通りの良い声で!


「ありがとう“コール”‥‥そして光りの球体さん!その通りだ。吾輩達はあれを

何とかしようとしているのだ。」


「吾輩?」等のちょっと古風なキャラ付けは少し「?」だが、スタイル抜群、容姿も端麗、

オマケにちょっと不思議ちゃん?な彼女は防衛的人材として…いや、変身ヒロインとして

非常にGOOD!!


「ならば、どうでしょう?私はあれを倒す術を知っています。そして、貴方は戦う素質、

勇気を兼ね備えている。私と契約して、正義の味方!やってみませんか?」


単刀直入だが、これで「ハイ!やります!!」と言う子はまずいない。

どんなに適正があり、触れる事の出来る存在とて、突然の非日常には、誰だって戸惑うモノだ。


「ちょっと病院に行ってきます。変な幻覚が聞こえるんで。」


という真っ向否定型が大半だし、中には


「お母さんと相談してみなきゃ!」


なんて、あたふた!非常に可愛いお返事もある。


だが、目の前の彼女は…


「うむ。吾輩もコールも、それは全然構わないのだが…」


としごく冷静に了承し、目の前の、会話に夢中で、ほとんど気にしていなかった目標に

手を翳す。


「対象、ロック“波動光球”スタンバイ!カウント3、2、1、FIRE!!」


“コール”と呼ばれた電子音声が発射シークエンスを促し、彼女の手が銀の光沢を帯びた機械の腕に変形し、そこから巨大な光球が勢いよく目標に向かって発射される。


巨大な爆発と共に目標が吹き飛び、その爆炎で、

顔に暗い影を落とす彼女がこちらに振り向く。


「吾輩、“人造人間”だけど、それでも平気か?」


とりあえず、キイは頭の中のマニュアルを開き、上手く行けば

恐らく“最強”になるであろう目の前の対象の、

該当項目についての“確認”を始めた…



 「えーっと、お名前は天津 マリ(あまつ まり)さんですね。市内中学に通う1年生。

あ~っ、なるほどお父さんは有名な学者さん。それであなたが…」


「うむ、その通りだキイ殿。5歳の時に交通事故で死にかけた吾輩を、父上は治してくれた。

母上は助からなかった。そして治してくれた父上も死に、今は父が遺してくれた

サポートメカのコールと二人で、この家に暮らしている。」


「あ~っ、家、なるほどねぇ。てか、家っていうより、館じゃないですか?

大きいですもんねぇ~ここ!」


キイは洋館に匹敵しそうな、広く豪奢な室内を飛び回ってみる。河川での後処理を終え、

契約等を含め、とりあえず、お家にお邪魔した訳だ。


「先程の話の続きだが、つまり“邪魔(ジャマ)”というモノが人に悪影響を与えるために

姿を現し始めたという訳か?コールがいつもと違うエネルギー反応を感じるというので、

向かったのだが…」


「つまり、以前からそう言った町を守る活動を?お若いのに、たいしたモンですねぇ!

それは…とても好評価ですよ。ハイッ!」


「いや、それほどの事は。行方不明の高齢者の捜索や

万引き泥棒ぐらいしか、捕まえた事ないし…」


キイの言葉に、少しマリの頬が赤くなる。言葉遣いは大人びているが、

こーゆう仕草は年相応を感じさせてくれて、非常に安心だ。


彼女の武装に関しても、基本スペックを聞き、先程の戦闘を見た上で確信を持てた。

魔の勢力に物理的にではあるが、撃退を可能とする能力を有している。


もしかしたら、マリの父は、そう言った分野に対する研究も進めていたのかもしれない。

しかし問題なのは…


「それで、キイ殿が言っていた“正義の味方”の話だが?…」


小首を傾げる彼女の仕草に微笑みたくなる衝動を抑え、言葉を選んで上手に説明していく。


「ええっ、その点ですが、マリさんでしたら、充分、素質があります。ですが、

こちらの出来るサービスと、マリさんの体に含まれる機械的部分が合わさった際の反応が、

わかりません。適合するのか?それとも膨大な拒否反応を起こすのか?


我々の能力、仮に“魔法”と定義します。それと、マリさんの

機械技術の未知な部分。つまり、未知と未知ですね。お互いが上手に混ざり合って

くれればいいのですが。こちらとしても、あまり無理はしたくないです。まぁ、それに…」


「?」


「今のマリさんのジャマ勢力に対する耐性、戦闘能力は現段階で97%です。この数値は

私達が想定している敵レベル全てを上回る数値です。


正直、こちらの提供サービス“変身”ですね。しなくても、全然余裕で町を守れます。

何で、お誘いしておいて、なんですが…こちらの支援は必要ないかと正直思ってます。」


「そうなのか…」


「?」


今度はキイの方が疑問を返す番だった。現時点で最強に加え、以前から町を守るなどの経験も足りている。サポートメカもしっかり付いているし、不安な点はないと思うのだが…?


続くマリの少しモジモジ仕草を経て、飛び出してきた言葉に、キイは即答で返事を返す事になった。


「そのぅ…あれだ。吾輩、少し、ほんの少しだが“魔法で変身みたいな事”して

みたいのだ…」


「あっ!?…わかりました!!よし!全力で支援します!一緒に頑張りましょう!!」


その一言にマリの顔がパッと輝き、とてもナイスな、はしゃぎようで言葉を連発してくる。


「ホントにっ!?あの、日曜朝からやってる感じのアニメみたいに出来るの?

改造手術受けて、昆虫人造人間とかになっている奴じゃない方だよ?」


「大丈夫です!あの、魔法のステッキとか素手で可憐に戦う方です。」


「そう…良かった。嬉しいな…」


言葉遣いまで代わり、自身の変身姿を想像しているのか?目を閉じ、喜ぶマリを見て、

キイはひとまずの安心を得た。

これでいい。こちらの、しょっぱな手順、色々番狂わせの彼女だが、根は年相応の女の子。可愛い夢と純粋な願いを持つ存在は、この戦いに適任だ。


何より、最初からほぼ最強の彼女。防衛時の危険もない。後は上にも相談して、ゆっくり

彼女の望んでいるプランに沿うよう支援していけばいい。そう思い、楽しそうなマリに

今後の動きを丁寧に説明していく。


「話がまとまって、こちらも嬉しいです。そして、この後の相談ですが、

マリさんとコールさんは今までの索敵能力で敵を発見する事は出来ますが、周りに被害が及ばない対処、封鎖戦闘領域の確保、いわゆる“結界”ですね?


その形成は難しいかと思います。そういった魔力面でのサポートを行いつつ“ジャマ”を

倒していき、準備を整えて、ゆくゆくは変身!この流れで行きたいと思います。

どうでしょう?」


「了解なのだ!キイ殿!!」


「では、私は必要に応じて、姿を現します。今日はもう遅いので、この辺で。」


「キイ殿…」


「はい?」


段取りは決まっている筈だが?との疑問に、マリがまたもや、少しのモジモジ仕草で何かを躊躇っている。しばらくその状態が続き、ごくごく控え目な感じで彼女は言葉を発した。


「もし、良かったらだが、しばらくウチに住まないか?わ、吾輩の家、広いし。普段は

コールと二人だけだから。吾輩、あまり友達もいなくて…そ、それに!!近くに居た方が、

“ジャマ”とやらと戦う時に何かと便利だと思う!」


最初はゆっくり、中盤と後半は、恥ずかしさを隠すためかのマシンガントーク。随分と微笑ましい展開に、キイは心地よいむず痒さを堪能した。だが、こちらが堪能しているばかりではいけない。サービスを受ける相手からサービスしてもらったのでは、支援員の名が廃れるというもの。


自身も相手の喜びそうな事をお返しせねば…少し考えた後、自らの能力を発動させ、球体

から、この時代で言う所の中年男性(家庭持ち印象爽やかを重視した容姿)に姿を変えた。


「キイ…殿?」


驚くマリに爽やかな笑顔を返してみせる。


「どうです?マリさん!今は、本来の姿に最も近い形をとっていますが、

お望みとあれば、マリさんと同年代の女の子にも、可愛いペットにもなれますよ。」


「……父上…」


「はい?」


「チョットタイム、タイムデスヨ!キーサン!」


陶然とした感じのマリの耳元のリングが光り、今までの会話に全く入ってこなかった

コールが喋り出す。


「マリ、予備ノ、イヤリングヲ、キーサンニ!」


「あ、ああ。了解なのだ。コール。」


ハッと気がついたようになるマリが、ポケットからイヤリングを出して、

キイの手に乗せた。それを耳に付けると、程なくしてコールの声が直接、

頭の中に響いてくる。


「コレデ、直接会話ガデキマスネ、キーサン!」


「あ、ああ!よろしく。」


「私ハ、マリノサポート、進ムミチヲキメルノハ彼女自身デス!ナノデ、特ニ異論ハアリマセン。デスガ…」


一呼吸置くような機械音がキイの耳元で流れ、続けて聞こえてきた言葉に、彼は文字通り

耳を疑った。


「マリはアタシのもんだからよ。あんま調子に乗んなよ?球体野郎!とりあえず、その姿はなしだ!すぐに変えてこい!!」


「・・・・・・」


「コール、どうしたのだ?」


「イエイエ、ヨロシクデス!!ネッ?キーサン!」


「はい・・・」


キョトン顔のマリとコールを見比べ、しばらく考えた後、キイは同年代の“女学生”に姿を変え、それはそれでマリを喜ばせ、続けてコールを更に苛つかせ、その数秒後に

反省会となった…



 唐突、かなりの唐突だが“軍曹(ぐんそう)”は“最強”の兵士である。

数多の戦場であらゆる武装や人知を超えた敵と戦い、その全てに勝利してきた。独自編制の傭兵部隊を率いた、彼の次の任務地は極東の島国。そこに住む、これまた“最強”の敵を倒せとのしごく簡単なモノだ。


指定された町に部隊を移動させた彼は部下を使い、情報を集めさせた。

そうして具体的になってきた情報を整理すると…


何でも、この町では最近、明らか人間ではない“異形のモノ”が闊歩するようだ。

しかし、そんな人に危害を加えるような直で見た目がヤバい奴等を“倒す者”がいるらしい。


軍曹のカンはよく当たる。目標は“そいつ”だ。早速、信頼のおける部下とご自慢の装備を

身に着けた彼は、彼等が突き止めた敵の所在地に向かう。


時間帯はお昼。今や、人口減で人通りが絶えた、この国では、武装した彼等が自由に闊歩する許可を与えてくれる。目標の居る建物とは、反対の公営団地の屋上に陣取った軍曹達は

手持ちの突撃銃に装着された高性能スコープで、相手を探す。事前に部下が設置した

振動センサーと盗聴器で音を拾うのも忘れていない。


最初の驚きは建物が学校だったという事。給食が終わり、教室から飛び出す子供達の

姿を見て、軍曹は顔をしかめる。


(厄介だな…そもそも、目標は子供という事か?)


子供と戦った経験がないわけではない。彼が戦った紛争地域では少年兵が多くいた。しかし、

それでも罪悪感は残る。いや、正直に言おう。


「嫌だな!」


依頼を取り消すべきか?しかし、前金は貰っているぞ?どうする?

考えを巡らす軍曹に、別の場所から建物を見張る部下から通信が入った。


「こちらパージ5、軍曹、まもなく目標が教室から出てきます。1階の教室番号4です。

見ていて下さい。」


「了解…」


迷いつつもスコープを再度調整し、目標を捉える事に成功する。レンズに映ったのは、

真っ赤に目をウルウルさせ、隣の少女に寄り掛かった、およそ“最強”とは程遠い可愛らしい少女の姿をだ。


「キイ殿ぉ~、吾輩の上履き、また片方盗まれたのだぁ~」


「マリさん、落ち着いて。そして私は、鍵子(かぎこ)ここでの名前は

錠前 鍵子(じょうまえ かぎこ)ですから!設定大事です!」


「うう~んっ(鍵子が出したハンカチで鼻をかみ始めるマリ)」


とりあえず、スコープから離して、軍曹は目元を抑える。周りの部下が驚いた感じで

こちらの様子を窺う。念のため、確認の連絡を入れる。


「パージ5、再度の確認だが、あれが目標か?」


「ヤーッ(了解の意)彼女の名前は天津 マリ。我々の依頼主が放った刺客を素手に5回も

迎撃した強者です。」


「どうみても…“幸薄だけど!何とかしてあげたい!可愛いっ子”にしか

見えないんだけど…」


「ヤーッ、それについてはポイント2F奥倉庫前を確認です。」


部下の声に再度スコープを覗き込み、視点を移動させる。3人組の女生徒が固まり、

恐らくマリの上履きだと思われるモノを頭に乗せたり、匂いをスンスン嗅いでいる。


大体の察しはついだけど、とりあえず耳元のイヤホンを操作し、盗聴器の音声を拾う。

聞こえてきたのは、はしゃぐ女の子達の嬌声だ。


「ハァハァ!この匂い!たまらんわん!!」


「見て!見て!!私なんか、こうやって、頭に乗せたら疑似“キャァーッ、マリさんに

踏まれてるぅ~”を体感できるよ!!」


「それ最高!でも、抜け駆け禁止だよ!!マリさんファンクラブ淑女協定は

絶対だからね!」


「それ言ったら、最近、転校してきた鍵子さん!あの子ちょっと距離近くない?

マリさんも慕ってるみたいだし~」


「よし、今日の放課後!殺るか!」


「オウッ!」


最後ら辺の、どす黒い感じの会話辺りで通信を切り、そのまま部下を呼び出す。


「あの…パージ5‥‥オイッ、てめっ、これは、どーゆうこった?女の子のドロドロした昼下がりなんて見たくねぇんだよ!」


「軍曹!それは違います。これは目標がどれだけ周りに慕われているか?崇拝されているか、最強なのか!を察するいい例でして…」


「何処が最強だ!意味が違うだろ!馬鹿野郎!!俺は帰るぞ。こんな任務はやってられん。」


「軍曹!」


怒る彼の隣で、待機する部下から声がかかる。振り向き、彼の指さす方向にスコープを合わせると同時に、全身が凍り付く。いつの間にか、こちらに視線を固定したマリと鍵子がいた。


そして目標であるマリの右手は銀色に輝き、光を発している。あの光は

決して癒しをくれるモノではない。あれは…


「ハハッ、なるほど理解したよ。確かに最強だわ…」


苦笑いと共に呟く軍曹達を巨大な光球が包み、大空に向けて、吹っ飛ばして

いった…



 「凄いですよ!マリさん、今月に入って、5件、あの謎の兵隊さん達も含めれば

6件。ジャマの撃退に成功しています。」


「ありがとう。キイ殿。吾輩も嬉しい。だけど、その手の包帯は?」


「ああっ、これは、クラスの級友さん達から過剰すぎる新人歓迎を受けましてね!

全然、問題ないですよ。ハイッ!」


「そうか、ならいいのだが、よし、お風呂入った後に吾輩が手当をしてあげるぞ!」


「うん、そうですね。ですけど、マリさん、あれです。お風呂は別々に入りましょう。

一応、マリさん位の娘はいる身ですし、見た目は同性ですが、色々とね。」


「・・・・駄目?(目元ウルウル、マジで泣きそう5秒前の表情)・・・??」


「(キイの耳元に付けられたコールのイヤリングがサディスティックな感じで軽く揺れる)

あ…アハハハッ!冗談です。ハイッ、行きましょう。」


「うん!」


嬉しそうに頷き、キイの手を引くマリに続きながら、後でコールの“お仕置き”が

待っているだろうなと、小さめに嘆息する。


「家族が出来たみたい!」


とはしゃぐマリは無邪気で可愛いが、今までの生活を乱されたコールとクラスの

マリファンクラブの面々の攻撃は正直厳しい。ちょっとでも気に入らない事があれば、


耳から直通の電撃と“えっ?最近の中学生、皮鞭とか持ってんの?”が待っている。


かと言って、マリの頼みを断れば、彼女がウルウルし、コールとファンクラブが怒る。

最悪の悪循環…今日は風呂場で、体の傷跡を上手に隠す必要があるだろう。


「キイさん、頭を洗ってもらっていいか?」


「ハイハイッ、オッケーですよ!」


そんな苦労には気づかないマリが、ちょこんと頭をこちらに出してくる。背中ごしなら、

自身の体を見られまいと、とりあえずの一安心。手早くシャンプーを彼女の髪につけていく。


「わあ~っ、気持ちいいのだ!」


はしゃぐマリの体が揺れ、白い裸身がより映える。継ぎ目の後もなく、とても人造人間には見えない。彼女の父親は余程優秀だったのだろう。


(しかし、それも問題か…)


先日の兵隊達がマリを監視していた件には、正直驚いた。キイが担当してきた

今までのケースで言えば、彼女達が戦うべき相手は、一種類の敵に限定されていた。


始めは未熟な少女達が困難や様々な試練を乗り越え、成長していく過程に合わせた

敵が出てくる。こちらとしても、彼女達の戦闘レベルに合わせ、上手に相手を選定し、

やがて地球の平和に繋がる勝利を導いてきた。


(しかし、マリさんは、始めから最強だ…)


だから、敵が焦っている。それはそうだ。送り込んだ部下が数秒で瞬殺されてしまう現状では、この世界を混乱に陥れたり、支配する事も出来やしない。あの兵隊達が良い例だ。


およそ、変身ヒロインと縁のない、戦う筈もない特殊部隊が来るなんて、あり得ない。

今回は敵の兵士がマリの姿を見て、攻撃を躊躇ってくれたから(まぁ、そうなるよな…と

相手に同情を覚える。)良かったものの。これからどんな相手が来るやら…


(状況を打開する手段はただ一つ。何とか魔法と機械の融合を急ぎ、真の意味での最強、

彼女を守れる変身形態を確立せねば…)


それはわかっている。しかし、何かが足りない。彼女自身には問題は…いや、あるのかもしれない。それを知るため…だからこそ、こうやって、マリのお願いを聞いて…


「ふふっ、くすぐったいのだ。キイ殿ぉ~」


「えっ?あ、すいません。考え事をしていまして。」


「大丈夫なのだ!その代わり、今日は一緒のお布団に寝るのだ~」


「えっ、ハイ、ハイ!オッケーですよ!」


「オイッ…どさくさに紛れてマリの体にペタペタ触れてんじゃねぇ?殺すぞ!」


「・・・・・」


迫りくる脅威と楽しそうなマリ、それを見て、色々キレッキレなコール両方に挟まれ、

キイは少し頭を抱えた…



 “それ”は穏やかな市街に突然現れた。30メートルはあろうかという巨体は、

あちこちが腐乱し、凄まじい臭気と、開いた口に並ぶ、鋭くとがった歯群が凶悪な印象を

もたらしている。あからさまな登場に気配を察知する必要はなく、急ピッチでキイが展開させた結界で、一般市民の目に触れる事は何とか裂けられたが…


「これがジャマ?信じられない…」


「エエッ、マリ、今マデノ敵トハ、レベルガチガイスギマス!」


思わず呟くマリとコールに頷くキイ。ジャマとは本来、世界中に溜まった障気の塊。

人に限定されず、環境破壊や居場所を奪われ、殺された動物達の恨みや憎しみ、悲しみが

形となり、世に害を為す存在と聞いている。


しかし、世界各地でキイの同僚達が支援した変身ヒロインの少女達が彼等と戦い、障気を

拡散させ、世にもたらせる障りを最小限レベルに留めていた。だからこそ、

敵の姿も不確定かつ、人間大の大きさがほとんどの筈だった。


それが、この巨体、理由は明白…


(マリさんが最強すぎるからか…)


敵も総力を持って戦いを挑んできたのだ。恐らく世界中の仲間達は助けにこられないような仕掛けを施して…現にキイの通信に答える同僚は誰もいない。


現状最強のマリを始末するために“ほぼほぼ最終決戦”に近い形を相手はとってきたのだ。


(アニメで言うなら、4、5話やって、一気に最終回。番狂わせには、番狂わせ…

全て、こちらの油断…最強に拘るあまり、敵の動向を急がせてしまった…)


後悔を顔に刻むキイの隣から、果敢に跳躍したマリが、腕から光球を大型のジャマに向けて

放つ。爆発に包まれた怪物だが、その爆炎を突き破り、強大な腕が空中のマリを叩き落とす。


地面に激突した彼女が苦痛に顔を歪める。本来なら即死レベル…人造人間の彼女だから

耐える事の出来るレベルだ。


そのまま怪物が巨体を全身させ、マリの体を踏みつぶそうとする。


「いけない!」


叫ぶが、キイには何も出来ない。介入支援員に出来る事は限りがある。結界は形成できても

戦えない。だからこそ、彼女達を頼るのだ。


マリが倒れたまま右手を翳し、連続して光球を放つ。いくつもの爆発が起こり、怪物が

怯んでいく。そこで気づく。


「爆発の数が多い?」


マリの光球だけではない。あれは?驚くキイの視線は、倒れたマリを守るように取り囲む

複数の影を捉えた。


「助けてもらった借りを返すぜ!最強嬢ちゃん!」


先日、吹き飛ばされた兵隊、軍曹達が携帯式ミサイルを構え、大型のジャマに向けて、

攻撃を再開した…



 「こないだの兵隊さん?何で吾輩を?」


ミサイルと重機関銃を乱射し、ジャマを退かせていく軍曹に思わず訪ねる。

振り向いた彼は笑いながら、吠えるように言葉を返す。


「理由は二つ。一つ目は前回、吹き飛ばされた時、俺達は死を覚悟した。だが、生きている。

状況的に、アンタに助けられた事になる。何故?だから、アンタの事を色々調べさせてもらった。結構近くに張り込ませてもらってな。


この空間にすんなり入れたのも、傍で待機してたからだ。そして色々わかった。このまま

二つ目の理由に繋げる…嬢ちゃんはあれだろ?よく映画とかアニメとかに出てくる

“正義の味方”って奴なんだろう?」


「えっ?」


「だから、俺達を助けた。本来なら命を狙う相手だ。報復を恐れるなら始末をしておくべきだ。それをしないっていうのが良い証拠だ。


正義の味方は、脅威となる敵を先手で潰したり、確実に殺したりしねぇ。いつだって、

向かってくる相手を受け止めてやる。それは何度挑まれても絶対に負けない気持ちと

敵も、自分も、世界さえも…全てを正しく導く意思の強さがあるからだ。嬢ちゃんが俺達を助けたのも、そんな感じなんだろう?」


「吾輩は…」


「まだ、自覚はないってか?確かにそうかもな。これは俺達の早合点かもしれねぇ。

だが、意識なくとも、自身の持てる力を駆使して、例え、どんなに大きく、強大な相手にも

立ち向かう姿勢、何か見返りがある訳でもない。それでも立ち向かう。つまり、今の

アンタだな。充分、資格アリ、立派な正義だぜ?」


「そういうものなのか?」


「確信を持って言える訳じゃねぇ、価値観と見方は様々!だから後は自分で考え、

育てればいい。最強の体に見合った最高の正義の在り方って奴をな。それじゃぁ!

嬢ちゃん!俺等は先に逝くぜ?」


笑顔を見せる軍曹が咆哮を上げ、部下達と一緒に、怪物に突撃をかます。怒号と轟音。

どれだけ、戦闘に長けていても、所詮は普通の人間。全滅は時間の問題、それは戦いに

素人なマリでもわかる。


その光景を眺めながら、ゆっくりと立ち上がった彼女の隣に、キイが並ぶ。


「キイ殿…」


「わかっていますよ。マリさん。あの、軍曹さんは、本当にいいタイミングでした。」


「うん…吾輩、少しだけだけど、わかった。誰かのために戦う事を。正義の成すべき事を…」


「私も油断でした。最強の貴方に甘んじて、戦う意義と意思を教えれなかった。

もう大丈夫です。今の貴方なら立派な変身ヒロインになれます。それも最強のね!」


「やってくれ!!なのだ!」


キイが腕を上げ、マリに向けて淡い光を放つ。彼女の全身が、その光に包まれ、輝きだし、同時にコールの機械音声が辺りに響き渡る。


「未知ノ、エネルギー物質適合開始、進行状況!25パーセント!30…50、70、80、90、100!適合完了!ト同時ニ起動!マリ、プリーズ!コール!!ユア、ネイム!!」


「マジカル☆アイアン!!」


強い意思を秘めた彼女の声と同時に光が消える。そこに佇むマリの姿は、まごう事なき

変身ヒロインの姿。リリカルなコスチュームと、左手には魔法に使えそうなステッキを持ち、右腕は銀色に輝く機会の腕。それを大型のジャマに翳し、叫ぶ。


「“魔導光球!!”発射!!」


今までの光球とは比べモノにならない、巨大な一撃が怪物の全身を包み込み、ゆっくりと

優しく穏やかに浄化していく。


その残骸、光の塵が降り注ぐ中を立つ軍曹がこちらに振り向き、マリ達に笑いかけ、言葉を発する。


「やっぱり、正義の味方だな、アンタは!最高だぜ!嬢ちゃん!」…



 「今日は本当にお疲れ様でした!マリさん!!お怪我は?」


「コールのおかげで治ったのだ!ありがとう、キイ殿!」


「礼を言うのはこっちです。魔法と機械の融合、正に最強!

向かう所、敵なしですよ!」


「うん、でも、まだまだ学ぶ事が多い。あの兵隊さんの言葉でよくわかった。

吾輩の最強はまだ遠い…だから…(マリのモジモジ仕草が始まる)」


「?」


「もうちょっと、もうちょっとでいいから、一緒にいてほしいのだ!」


「勿論ですよ。マリさん(耳元のイヤリングが非常に怖いが…)この世界を一緒に

守っていきましょう!そのための我々です!」


パッと表情を輝かせたマリが嬉しそうに頷く。こっちも表情に出してしまいそうな程の

良い笑顔だ。この素直さも最強たる所以なのだろう。最も、さっきから耳でブルブル怒りを体現しているコールも怖いが…その考えは続くマリの言葉で杞憂に終わる。


「ありがとう!本当にありがとう!キイ殿!吾輩にとって、コールが母上、

キイが父上殿なのだ!!」


思わず口元を抑える。全く…この子は本当に天然…最強だわ。

頬が緩むのを悟られないように、ゆっくり頷くキイに続き、コールも思わず標準語で

喋りそうな勢いを何とか隠し、返答する。


「マジ天使だわ!!マリィィ!あ…ザーッ、ザーッ!(テレビの砂嵐のような音)

ウレシサノアマリ、オモワズ、音声ガ故障シマシタ、マリ!!サンクス!ワタシモ

マリノコトヲ娘のヨウニ、イヤ、ソレ以上ニ!!イツデモイッセンヲ…」


「それなら、俺達は、お兄さんやおじさんになるのかな?なぁっ!野郎共!!」


「オオーッ!!」


「えっ…あの、マリさん、この兵隊さん達はどうしたんですか?一体。」


「その、吾輩の家、広いから…にぎやかな方が楽しいかと思って…(マリのお眼目がウルウルしてくる)駄目…?」


「全然オッケーですよ!マリさん!ねっ、コール?」


「エエ、キーサン…デハ、全員、オチカヅキノ印ニ、コノイヤリングヲ…」


かなりの殺意が籠ったコールと笑顔で受け取る軍曹達。キイにとっては更に

慌ただしい日々が待っていそうだ。しかし、これでいい。最強の彼女が進む道を、

皆で作り、育てていく。それこそが自分の役目であり、彼等、彼女達が一役を買ってくれる。


キイは静かに頷き、にぎやかに騒ぐ軍曹達と、彼の部下1人1人に駆け寄る最強の彼女、


「兵隊さん達!皆、ヨロシクなのだ!」


と、はしゃぐマリを、とても優しい目で見つめ続けた…(終)


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鋼鉄!魔法戦記!マジカル☆アイアン 低迷アクション @0516001a

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