第3話 焼き魚

「ただいま〜」


「おかえりなさい、パパ!」


「ただいま〜!莉子!

偉いなぁ玄関まで迎えに来るなんて!」


そう言って雄二は莉子を持ち上げて胸に抱え莉子のほっぺたにキスをした。

莉子も嬉しそうに雄二に抱きつく。



それを廊下の先のキッチンの影から顔だけ出して、怪訝そうな顔付きで覗き込む由美。



「わっ!なんだよ、覗き込んで!

ビックリするじゃ無いか!」


「…。」


由美が挙動不審にキッチンに戻り、夕飯作りの続きに取り掛かる。


「…どうしたんだよ、そんな顔して。

なんかあったの?」



「…いや別に…。」


「?」




「なんかね〜、ママ頭痛いんだって〜。」


雄二に抱かれながら、莉子が眉を八の字にして困り顔をし、自分の頭をさすってみせる


「ママ可愛そう…痛いの飛んでけ〜」


「そうなのか?」


「…う、うん。ちょっとね…。」


「そしたら、風呂入って飯の準備手伝うから。ちょっと待ってて。」



莉子を床におろして、浴室に雄二が消えて行った。



「…ちょっとぉ。もう少し自然にしないとバレちゃうじゃない!」



腰に手を当てて、不満そうに莉子…

いや莉子の体を借りた智美が言った。



「し…自然にしてるつもりだけど…。」


「いや!全然不自然!!!」


「…。」


「もうちょっと夫婦2人でいつもみたいに自然な会話して!」


「…だって、なんか

…お母さんに見られてると思うと恥ずかしくて…。」


「今更でしょ〜。

だってずっと前から見てたって言ったじゃない!い・ま・さ・ら!


ほ〜らお鍋吹いてるよ!火消さないと!」



「あっ…。」


急いで火を消す由美。





「…私ね、由美以外の人にバレちゃったら

地獄行きなの…。」



「え!!」


慌ててカウンターキッチンから顔を出す由美、



「地獄に落とされちゃうのよ。

約束を破ったら…。」



「地獄!!!」



「神様も結構厳しくてさ…まぁ、本当は化けて出ることもダメなんだけど。

今回は神様のとにかく特別な奇跡みたいなもんだから…、こんな事って他の人には絶対に起こりえない事なのよ。

だから他の人にバレたら絶対にダメって言われてるの。」


「はぁ。」



「由美も約束守ってくれる?」



「…うん。分かった。必ず守るから。」



「よし!じゃあ雄二さんが出てくる前にご飯作っちゃって、テーブルセッティングしちゃお!お魚焼き始めちゃって良いわよ!」



「…は、はい!」


冷蔵庫から秋刀魚を取り出してグリルで焼き始める。



「それと…明日なんだけど、横浜に行くから。」



「へ????」



「横浜駅じゃなくて関内駅だけど…。

朝、雄二さんが会社に出たら、すぐに準備して行くわよ!

グズグズしてると直ぐに夕方になっちゃうから、寝る前に明日の着て行く服とか準備しておきなさいよ!」


「え…え...、ちょっと待って。

何しに行くの?」



「お父さんに会いに行くのよ。」


「え??え???

だってお父さん、徳島に居るんじゃ無いの?」



「何言ってんのよ、10年前から横浜に住んでんのよ!お父さん!」



「えっ!???!うそっ!!

だって単身赴任で徳島支店に居るって…。」



「…そんなのウソよ。

お父さんずーーーーっと嘘ついてるの!」




「えーーーーっ…………。」



「詳しい事は明日話すから!

ほら、お魚焦げちゃうよ!!!」








「おーい!バスタオル取ってくれる〜。」


浴室から雄二の呼ぶ声がする。


「はーい!」


元気よく莉子に戻った智美が返事をして、バスタオルを抱えて浴室に向かって行った。


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私の産んだお母さん りんまる @rinnneko3333

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