第2話 冷めた弁当

母が死んだのは、私の20歳の誕生日の2日後だった。


交通事故だった。



ずっと単身赴任だった父は、母の死んだ次の日にやっと家に戻ってきた。




一連の葬儀を終えて、

ゆっくり悲しむ間も無く

父はまた仕事があるからと赴任先に戻って行った。



一人っ子だった私は孤独に押し潰されていた。


ちょうど大学が夏休みだった事もあり、

私はずっと家で一人で過ごしていた。


ほとんど寝て起きて泣いてを繰り返して、

たまに帰ってくる父が持ってきた冷めた弁当を食べ、

また一人で泣いて過ごした。




その時は30キロ台まで体重が落ちた。




救いは母が可愛がってた猫のミーアだ。


ミーアはいつも私に寄り添って、ただ静かに寝ていた。


猫の世話をする事が、私の生きる意味になっていたのかもしれない。


「私が死んだらミーアに餌をやる人がいなくなる」

そう思ってなんとか生きながらえていた。






夏休みが終わり、大学が始まってもなかなか行く気になれなかった。


このまま辞めてしまおうと思ったけど、


大学に合格した日


「私の時代には女の子に教育なんて要らないって言われてたから、大学なんて行かせてもらえなかった。

貴方は思いっきり自分のやりたい夢を叶えてね!」


そう言って涙を浮かべて喜んでいた母の姿が浮かんできて、

重い足取りを大学に向かわせる事ができた。





大学に行くと友達が随分と痩せた私の姿を見て、

月並みに心配して励ましてくれた。



後に旦那となる彼と付き合うことになったのもこの頃の事だった。



旦那曰く


「あの時のお前は消えて無くなりそうだったから、好きなら今付き合わないと後悔しそうな気がした。」


後から聞けばそんな理由で


その時は半ば押し切られる形で付き合うことになり、


気がつけばあっという間に

母と私が住んでいた家で彼との同棲が始まった。





そして大学卒業間近に妊娠が発覚した。



私は決まっていた内定を取り消し、

いわゆる永久就職をした。




これは母の言う

「自分のやりたい夢」だった。




正直大学に行ったのは母の夢を叶えてあげたかったからである。

母の出来なかった大学進学と言う夢。




私の本当の夢は

普通の暖かな家庭が欲しかった。


それが私の平凡だけど大きな夢だった。








物心付く頃から父は

たまにしか家に居ない存在だった。


家族揃って出かけた記憶はほとんど無い。


出掛けたとしても父はいつもどこかに座って煙草をふかして待っている事が多かった。



小学校を卒業する頃にはほとんど家に帰ってこなくなった。






母が死んで、流石にバツが悪そうに

ちょこちょこ私の様子を見に帰っていたが、


もうすでに父の居場所はこの家には無かった。




そして、母が死んでから3ヶ月後



父は再婚した。








私は心から父と縁を切りたくて、

出来るだけ早く結婚したいと思っていた。





妊娠がわかり結婚を決めた時、

震えながら父に電話した




「あの…、私結婚するから。」


「…そうか…良かったな」




「…それでさ、

もう会わない方がいいと思うんだ。

私たち。

そっちの奥さんにも悪いからさ…。」


「…。」


「…。」


「…わかった。色々すまなかった。」


「うん…。」



そう言って急いで電話を切って、

安心と悲しみの混じった感情で


「…終わったぁ。」


と複雑な涙を流した日、



自分の第2の人生がやっと始まった気がしたのを覚えている。


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