私の産んだお母さん
りんまる
第1話 懐かしの味噌汁
日付が変わり2月2日、午前2時。
私は娘を産んだ。
無事に長いこと夢に見てた一般的な家庭を作る事ができた。
神さまに感謝した。
そして娘はスクスク育ち、もうすぐ5歳になる。
ある日
娘が子供のイスからスクッと立ち上がって言った
「由美、私はお母さんだから」
「…っ?」
ビックリして危うく味噌汁のお椀を落としかけた。
「しばらくこの子の身体を借りるからヨロシク」
状況が全く飲み込めなかった。
「…っえ?…誰?」
「だからお母さんだよ、あなたの」
「は?」
「貴方が20歳の時に死んだ、智美。
山口智美!」
「り…こ…莉子ちゃん…
そんなおませな言葉をどこで覚えてきたの…?」
冷や汗をたくさん流しながら
精一杯の言葉を掛けた。
「だから!お母さんなの!!!!
…まあ、いきなり信じろって言っても無理ないよね…」
唖然とした私に追い打ちをかけるように娘が言う
「…前からずっと見てたけど、
とりあえず言わせて…!
こんなに小さい子に
この味付けは濃すぎる!!!
味噌汁はもっと薄味にしなきゃダメ!!」
「………へ????」
「こんな濃いのは、大人でも病気になるわよ!
もっともっと野菜の旨味を出さないと!」
「は…はい!」
正直何を言ってるか全然頭に入って来なかった。
「ねえ、昆布ある?
乾燥してる昆布、鍋用の。」
「あ、はい。」
急いでキッチンの棚から、鍋に使うときの昆布を取り出す。
「じゃあ、新しい鍋に昆布入れて。
で、水入れて!
酒も少しあったら入れなさい。
今作った味噌汁から具だけ取り出して…」
慌てて新しい鍋に水と昆布を入れて、
作った味噌汁の中から具だけ取り出して入れる。
火を掛けた鍋を見ていたが、頭の中は真っ白だった。
「沸いたら火を止めて味噌をといて。
そしたらすぐにお椀によそって食べるの。
食べる直前に味噌を入れたら、少ないだしでも風味で美味しく感じるものよ。
ちょっと飲んでみなさい。」
言われるがまま少しだけよそって味見をする。
「…あ。」
事実、昔懐かしい母の味に近くてビックリした。
「ほら!あと卵焼きくらい作りなさい!
味噌汁とおにぎりだけじゃタンパク質が足りないでしょ!
卵出して!!」
「は、はい!」
急いで冷蔵庫から卵を出す。
「卵割って、お砂糖と塩。
あ、そんなに塩入れたらダメ!!
塩はほんのちょっとで良いの!」
言われるがままに卵と砂糖と塩を入れてかき混ぜる。
「そんなにかき混ぜたらダメ!!
ちょっとで良いのよ!かき混ぜるのは!
オムレツじゃないんだから!」
ジューっと流し入れた卵が焼けていく。
「そうそう、もう少し火を弱くして!
かき混ぜて、丸めて
少しずつ卵をまた入れていくのよ。
余分な油をペーパーで取って。
丁寧にねー。巻いて巻いて。
早く早く!焦げちゃう!」
5歳に急かされながら卵焼きを作っていく。
「で…出来ました…
あ、あれ?
…今までで一番綺麗に出来たかも…。」
「良かったじゃない!
さ、食べるわよ!座って座って!」
そう言って一緒に食卓についた。
「ネギでも入れればもっと良い味になったわね〜。」
卵焼きをフォークで刺して、眺めながらパクつく我が子…
さっきまであどけなかった我が子…
その口から今は信じられない、大人顔負けの言葉が飛び出してくる。
そんな姿を見ながら
恐る恐る食べた卵焼きも、味噌汁も
懐かしい母の味だった。
不思議と一瞬だけ安心感が湧く。
でも、ハッとして思う…。
「え…違う違う!
何これ…。意味わかんない。」
自分の置かれている状況が理解できなくて、頭をかきむしって首を振る。
自称「お母さん」の5歳児の我が子…
彼女は食べていたフォークを置いて
ふーっとため息をひとつ付いてから
私をジッと見つめて話し始めた。
「まあ、急だったし無理もないか…。
ごめんね驚かして。
…お母さんさぁ、
死んでからずっと貴方を見守ってたのよ。
空の上で。
不器用でも貴方がちゃんと頑張ってる姿を
影ながらそっと見てたの。
たまに心配になるくらい大きな失敗をしてるのも、ずーっとみてたわよぉ。
だってね、基本的には手助けするために化けて出ることは禁止されてるの、天国って。
それで、禁止事項を破って化けたりしたら
地獄行きになっちゃうのよ!
怖いでしょ〜。」
ふふふ、と嬉しそうに笑う顔は間違いなくあどけなかった。
「でもね、
どうしても今やらなきゃいけない事が出てきちゃって…
神様に必死にお願いして、
ちょっとだけこの子の体借りることにしたのよ。」
「…やらなきゃいけない事って?」
「それはね…
…今は秘密!!!」
「ひ…秘密…!?!?!?」
頭の中は更にパニックになっていく。
「でも期限は決まってるから!
たった1週間なの!
そしたら直ぐに莉子ちゃんに戻るから安心して!」
「1週間!!?!?!?」
もうすでにパニックを通り越して
ロボットみたいにオウム返しするしか出来なかった。
「そう!1週間!
あとね、貴方以外の人に気がつかれたらいけないから…
貴方の旦那さんの前では莉子ちゃんで居るから安心してね!」
どこか懐かしい、でもいつもの見慣れた
あどけない顔で、彼女が笑った。
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