第4話 跳ね橋での戦闘は?

 空港とは言うものの、広大な滑走路を有しているわけではない。

 この国では魔術を使用して飛行する船、即ち魔導飛行船が運航しているのだ。だだっ広い大草原に乗客の昇降と荷の積み下ろし、そして魔導飛行船の補給の為の施設を空港と呼んでいる。石造りの強固な城塞都市と言った風の建築物である。


 その空港を背にして帝都へと向かうララたちであった。周囲には田園が広がり、のどかな雰囲気を漂わせている。正面には大河が横たわっており、その脇を下流へと進んでいく。

 しばらく進むと大きな跳開橋ちょうかいきょうが架けられていた。それは跳ね橋であり、橋桁はしげたが彼我の両方から跳ね上げられていた。そしてこちら側の岸には二機の人型機動ロボット兵器が起立していた。この世界では標準的な戦力である魔導騎士ベルムバンツェであった。


「おやおや。私達を歓迎して下さるようですよ」


 いかにも楽しげに話すトリニティ。


「これは腕が鳴りますな」


 笑みをこぼしているのはレグルス少将。

 ララはしかめっ面のままぼそりと呟く。


「隠密は何処へ行った……」

「さあ何処でしょう」


 笑顔で答えるトリニティだった。


 騎上の憲兵が馬車を制止する。

 そして二機の魔導騎士ベルムバンツェも盾と剣を構えて馬車の方へと移動してきた。


「なあレグルス。我々は素手なんだが、連中は大仰ではないか?」

「勿論です。ララ殿下」

「ここは奴らと対等に鋼鉄人形ゼクローザスを出して対処すべきではないか?」

「戦術的には妥当な対応であると考えますが、魔導騎士ベルムバンツェ鋼鉄人形ゼクローザスの戦闘になれば開戦となりかねませぬ。そのような事態は避けよとの命にございます」

「ではどうするのだ」

「我々は無手でございます。さすれば、我々に対してあのような兵器を使用することは武人のほまれを傷つける行為であると存じます」

「逃げるのか?」

「いえ。ここで叩きのめせば良いのです。さすれば連中はこの事を公表する事も叶わず泣き寝入りするしかないのですよ」

「ぷぷぷ。お主もわるよのお」

「殿下には及びません。では一人一機でお願い致します」

「自分が全て片付けるとは言わんのか?」

「御冗談を。ララ殿下の獲物を半分分けていただいているだけでございます」

「そうか。では参ろう」

「御意」


 ララとレグルスが馬車から降りた。

 空港での一件が知れ渡っているのであろう。憲兵は騎馬でありながらも距離を取った。


 憲兵隊を睨みながらララは地面に落ちている石を拾った。


「ララ殿下。どうされるのですか」

「こうするんだよ」


 ニヤリと笑ったララはその石を魔導騎士ベルムバンツェに向かって投擲した。弾道の見えない超速の石礫は、左側にいた魔導騎士ベルムバンツェの右目に命中した。魔導騎士ベルムバンツェの右目は破裂し、その瞬間にララは魔導騎士ベルムバンツェの頭部へと取り付いていた。

 左目の正面でにやりと笑い、膝蹴りをかました。

 ララの放つ石礫や蹴りは、それ自体に膨大な霊力が込められている。命中したならば、それは戦車の主砲から発射された砲弾と同程度の衝撃を与え、更には内部構造をも破壊する威力を持つ。

 レグルスはもう一機の魔導騎士ベルムバンツェの右膝にパンチを加えていた。彼もララと同様の霊力使いであり、単純な打撃だけでなく霊力による内部破壊を得意としている。

 右膝を破壊された魔導騎士ベルムバンツェはあえなく横倒しとなり、両目を潰された魔導騎士ベルムバンツェは胸部のハッチを開き、搭乗者は外部を直視して確認しようとした。その瞬間、ララは操縦席に飛び込んでおりその搭乗者を殴り倒していた。

 右膝を破壊され横倒しとなった魔導騎士ベルムバンツェから脱出しようとした搭乗者をレグルスは蹴飛ばした。そいつは憲兵隊の方へすっ飛んでいき、幾人もの憲兵隊と共に地面に崩れ落ちた。

 跳ね上げられていた橋桁は降りていき、通行可能な状態へとなる。動ける憲兵隊と橋の守備隊は一目散に対岸へと逃走していった。


「他愛ないですな」

「ああ。では通らせてもらおうか」


 ララとレグルスは再び馬車に乗る。

 

「お見事です。こんな負け方、とても報告などできないでしょうね」


 トリニティはケラケラと笑っていた。


 ララたちの馬車が橋に差し掛かろうとした際に、対岸側の橋桁が爆破され可動部が全て大河の中へと落ちていった。


「おやおや。どうしても私達を帝都に入れたくないようですね。この橋を渡れば帝都は目前であるのに残念な事です」


 両手を広げて悔しがるトリニティだが、どこか余裕があるようでもあった。レグルスも笑っていた。


「トリニティ卿。どうされますか」

「一旦引きましょう。これだけで十分に目立ったようですからね」

「分かり申した。後はネーゼ殿下がうまくやってくれるでしょう」


 笑っているのはレグルスとトリニティだった。

 ララは顔を真っ赤に染めて怒っていた。


「ネーゼ姉さまが何をされるのですか?」

「おや? ララ殿下はご存知なかったのでしょうか? 黒剣と共にネーゼ殿下が帝都に侵入されるのです。私達はそれを助ける為の欺瞞行動が任務なのです」

「初めて聞いた。私は……私は……隠密行動に憧れていたのだ! 暴れるだけが仕事だと!! そんな馬鹿な作戦を誰が立案したのだ!!!」

「勿論、ネーゼ皇女殿下でございます」


 ララの怒りは収まらず、しかし、トリニティとレグルスは腹を抱えて笑っていた。そしてハドムス帝国ではララの事を「素手で魔導騎士ベルムバンツェを屠る悪魔」として記録されたと言う。


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

荒野の決闘☆策謀の源 暗黒星雲 @darknebula

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ