第11話
「おお、長谷川さんが電話をかけてくるとは? どうしました?」
「それが……。」
俺はしばらく悩んだが、
ただ単に味方がほしかった。 信じてくれるか通報するのかは、何の確信は持てなかった。 大きい冒険だった。
「そんなことがあったのですね。」
ゲームの中の通称、ガミさん、カミさんではないガミさん。 濁音一つ違いで自身は神ではないと笑っていたその名前は実名ではないニックネームだった。
「それは、怪しいですね。 長谷川さんの話は一理あります。 おかしな点が多すぎますね。 少し調べてみるので、待っていてください。 いくら何でも指紋だけで長谷川さんをすぐ追跡するのは不可能ですから、少し落ち着いて待っていてください。」
彼はそう言って電話を切った。 このまま俺を通報するのではという心配がないといえば嘘になるが、俺は首を横に振った。
いつか彼が、ゲームで命を救ってくれた俺に対して、恩返しといって株の情報を流してくれたことがあった。 そして、その情報は、俺をニートとしての生命を延長させてくれた。 だから、一旦信じることにした。
そして、再び考えを整理する。
先の仮説に戻ろう。
犯人がいたとしたら、何といっても先の矛盾している行動は、その犯人をかばうための工作だろうか?
そうだとしたら、この場合は家族の犯行?
そうではなく、犯人のいない自殺だとしたら?
何か他に目的があっただろう。
死にながらも、いや。
死を選択した後、必ず俺に包丁を渡さなければならなかった理由が。
仮に自殺だけど、他殺に見せかけなければならなかった理由というか。
俺は再びガミさんに電話をかけた。
すると、低いおじさんの声が再び俺の耳の中に入り込んできた。
「あの、ガミさん。」
「何か、思い浮かんだことでもありますか?」
ガミさんの言葉に俺は今までの仮説を説明し始めた。
すると、ガミさんは大きな声で笑い出した。
「ははは、それは、それは。さすが、長谷川さん。本当にそういうところに頭が切れますよね。気に入りました。そんなところまで推理が及ぶとは。」
「そんなことありません。それよりも理由のことですが。もし他殺に見せかけなければならない理由が、つまり、犯人が必ずいなければならない理由があるとしたら? そういうことありますかね?」
「ありますね、もちろん。むしろ、世の中には日常茶飯事ではないでしょうか。ちょうどこの前に読んだ小説が思い浮かびました。保険金殺人に関連したサイコパス……。」
「はい?」
「保険金ですよ、保険金。」
「あ!」
俺はガミさんの言葉に脳がひらめいた。
自殺して他殺に見せかけるための偽装は、保険金目的が一番適している理由だと言える。
違うとしたら、俺を犯人に仕立てて人生を破滅させるという恨みがあるということだろう。
しかし、俺は他人にそのような恨みを買うような記憶などなかった。
そうすると、誰かを庇うためなのか。
家族に保険金を残すための工作という理由。
この2つが最も妥当なストーリだと言えよう。
そして、実際に怨恨の仮説は色々と、保険金目的の仮説よりも現実性が不足していた。
もし後者だとしたら、まともな人間の人生を破滅させて、自分の家族だけが保険金を手にするということなのか。 急に中年男の顔が浮かぶ。 俺の推測が事実であれば、かなり酷い男だ。
自殺には保険金が下りないケースが多い。
借金の多い中年男。
自殺を選択したが、 残りの家族を食べさせるためにこんなことを仕掛けたという話だとしたら。
そういう類のヘッドラインが頭の中をさまよい始めた。
「心配しなくてもいいです、長谷川さん。警察に知り合いがいます。落ち着いて今までの推測を説明しましょう。信用してくれなくて長谷川さんが犯人ではない事実だけは信じさせるので。今まで受けた恩は必ず返しますので。」
ガミさんはそう言ってくれた。
いずれにしても、当時、俺一人の力で、これ以上捜査するのは無理があった。 今のようにアイテムという絶大な力があれば話は別だが。
しかし、そのまま連れて行かれて何も説明もできずにいるより、自分なりの有力な仮説を立てたという事実だけが、俺に大きな勇気となった。
俺に必死に包丁を渡そうとした男の行動は。
どう考えても今ガミさんと考え出した保険金殺人としか考えられないから。
「わかりました。」
俺は、携帯に向かって頭をうなずいた。
そして、警察に自ら出頭した。
しかし、状況は思ったより複雑だった。 コンビニの防犯カメラには、買い物をする場面だけがぼやけて撮られていた。 俺が落としたコンビニ袋には包丁をつつんでいた残骸が出てきていて、困ったことに、何故かコンビニからはその時間帯に包丁が売られた記録が残っていたのだ。
その寒慄といえば、現に糞みたいな経験だった。
桜井の事件の時、パトカーに連れて行かれた以上に。
ある意味、パトカーに連れて行かれても、それなりに落ち着いてすぐロードを選択できたのも、この時の経験によるものだといえよう。
勿論、結果的に俺は無罪放免された。
俺がいかに陳述しても、俺を犯人として追い詰めるために、血眼になっていた警察の追究の中。
ガミさんが本当に力を働いてくれたからか。 ある日突然、俺の言葉を信じはじめた警察がまともな捜査をし出したのだ。
結論から言うと、コンビニの店員が共犯の一人だった。
そして、本当に男には高額の保険金がかかっていた。
馬鹿馬鹿しかった。 あの最後の場面を見ていた俺は。
俺自身が警察から出てくる場面と引き換えに、俺は天井をみることとなる。 ずきずきする頭痛と共に夢から覚めたのだ。
ベッドから体を起こす。
視界の片隅には、ゲームウィンドウが存在感を誇示している。
今見ていたのが夢で。
ゲームは現実、という実感が再び体の中を支配する。
とにかく何故あのような夢をみたのか。 正直にいうとこの夢をいくら思い返してもゲームに関する手がかりはなかった。
あの事件以降変わったことといえば。
俺の推理力に自分でも驚いたこと。
これから、より俺の人生と向き合うことにしたということ。
そして、ガミさんとはあの時以来、連絡が途絶えてしまったということ。
そうだ、まるでガミさんは蜃気楼のように消えていた。
何故かゲームの中の他のギルド員たちをみていても、最初からガミさんが存在しなかったような感じだった。
俺の推理を聞いて感嘆してくれたガミさん。
それにいつか株の情報をくれ、お金を増やしてくれたガミさん。
そして、警察の理不尽な追究から抜け出させてくれたガミさん。
勿論、これには確実な証拠はなかったが。
しかし、少なくても、お金が増えたことは事実として間違いないから、ガミさんは、俺の妄想の存在ではなかった。
なら、一体彼は誰だろうか。
夢の余波で、再び改まった疑問が頭の中かき乱した。
だが、相変わらずその疑問がすっきりと解決することはなかった。
俺は苦笑いをしてベッドから起き上がった。
ウィンドウを確認してみる。 勿体ない時間だけが過ぎていた。
**
おかしい夢を見たせいでがすっきりするどころか余計頭が重く感じる。浴室へ行き洗面台に水を溜める。そして、顔を水の中に突っ込んだ。
冷水によって少し眠気が覚める。顔を上げ鏡を見た。魅力値を10も上げたにもかかわらず、俺には変化がないように思える。どの部分が魅力的になっただろう。他人には違って見えるのだろうか。まるで魔法のように。
タオルで顔を拭き部屋に戻った。視界の隅には依然としてwindowsフォルダのようなゲームsystemが存在感を放っていた。冷蔵庫を開けて空腹を適当に満たた。そして伸びをした。
-うううーっ
適当に服を着替え、脱いだ服を洗濯かごに入れて家の外に出た。攻略対象を見つけなければならない。今回は少し遠くに行ってみるつもりだった。バスに乗っていくと繁華街がある。今日の俺の目的地はそこだ。ゲームに入り込んでしまってから一番遠くに行ったのは5分距離のコンビニだけだったから。
-このゲームが俺の家とその近辺の地域だけを具現したのではないかと少し変な心配もあった。
ははっ。そんなわけないだろう。
停留所でしばらく立っているとすぐにバスが来た。そして10分後に目的地である繁華街に到着した。どうやら杞憂だったようだ。ゲームの中とはいってもこの世の全てが完全に現実と同じだった。帰宅時間なのかたくさんの人々がそれぞれせわしく歩いていた。ネオンサインが付き始めた街も現実そのものだった。
違うものは、もっぱら目の前にちらつく[ゲームsystem]だけだ。
俺の現実は恋愛ゲーム?? ~かと思ったら命がけのゲームだった~ わるいおとこ/ファミ通文庫 @famitsu
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