虎鶫

深川夏眠

虎鶫(とらつぐみ)

 二階の部屋で姉と布団を並べて横になったら、ヒーッと、女性の悲鳴のような細い声が聞こえた。

虎鶫とらつぐみ

「トラなの、ツグミなの?」

「トラツグミ。羽根の模様が虎の縞みたいな。ぬえともいうね」

「ヌエ?」

「夜の鳥って書く。万葉集に、こんなのがあったっけ……」


  ひさかたの あまの川原に ぬえ鳥の

  うらなけましつ すべなきまでに


 切ない歌だと思ったけれど、再びヒーッと鋭い叫びが上がって、血の気が引いた。啜り泣き、咳き込み、哀願。


 ヒーッ——


 悶絶、沈黙……。




                  【了】



◆ 初出:note(2015年)退会済


*縦書き版は

 Romancer『掌編 -Short Short Stories-』にて無料でお読みいただけます。

 https://romancer.voyager.co.jp/?p=116877&post_type=rmcposts

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虎鶫 深川夏眠 @fukagawanatsumi

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