RTA

汀こるもの

RTA

 ――ぼくは中学の帰りにトラックに轢かれて死んだ、はずだった。


「――やあ、言葉はわかるかな? 伝達の魔法陣は動いているはずなんだが。と」

 気づいたら銀髪で眼鏡の男がぼくを覗き込んでいた。ぼくは何やら水槽のようなものに入っているらしかった。水がぼくの周りに満ちていた。

「わかるかい? わたしは、ええと」

 ――もしかして神さまとか?

 途端、男は喜色満面、にやにや笑い出した。

「いい響きだ、神さま。そうだ、わたしは神さまだ。もう一度呼んでくれるかい」

 どうやらぼくが念じるだけで話が伝わるみたいだが……何か思ってたのと違うな。

「何も違わないよ! 君は平凡な中学生の天勝てんしょう太郎くん十五歳。異世界転生に憧れる中学生! 死んだら神さまがチートをくれて異世界に復活させてくれる小説ばっかり読んでる天勝太郎くんだろう!?」

 ――いや、まあ、そうすけど。何で早口なんだよ。気持ち悪いな。

「君のことはよく調べたんだよ、わたしの子供になってもらおうと思って!」

 ――は?

「わたしは妻との間に完璧な子供を作り、万能の力を授けてこの世界の王とすることにした。しかし妻の方に不具合があってね。子を産むことはできなさそうなので、わたしたちの血肉でホムンクルスを造り、純真な少年の魂を呼び出して宿すことにした。それが君だ。今はまだ培養液から出ることはできないが、三日ほどで完成するから安心しなさい」

 は、はあ。

 男はささっと背後のカーテンを開けた。そこに寝台があり、綺麗な金髪の女性が上体を起こしていた、が――

 クッションで支えて棒に縛って無理矢理に起こしているのであって、首は包帯でぐるぐる巻きにされて、少し血がにじんでいた。目をつむっていて顔が青ざめているのは。

「これがわたしの妻、第二皇女メレディスだ。美しいだろう」

 ――この人、死んでませんか?

「ああ。聖遺物の短剣でのどを突いてしまったので蘇生魔法でも蘇らせることができない。死体を腐敗させないのがせいぜいだ」

 のどを突いたって、何で。

「わたしの子など孕みとうないと」

 メッチャフラレてますやん。

「いやフツーそういう台詞を吐く人はツンデレなんだと思うじゃん? ちょっとゴリッと強く押したら快楽堕ちすると思うじゃん? 死ぬ死ぬ言う人が実際自殺するとは思わないじゃん?」

 もしかしてお前最低か?

「いや思えばわたしも力ずくで女をものにして子を産ませるとか野蛮だと反省してね。折角魔法があるのだから、もっとスマートにエレガントに跡継ぎを作成しようと!」

 反省するポイント、そこ?

「君は口を開けていればわたしの魔法の全てを受け継いで最強チート魔王としてこの世界に君臨することができるんだぞ!?」

 今、〝魔王〟って言った。

「勇者より魔王の方が格好いいだろう!? ちなみにそっちの水槽で、妻にそっくりな君の妹を作成中だ。生まれつき君のことが大好きになるように三重の胎児性ギアス術式で縛っている。逆らうと脳髄が裂けて死ぬ」

 いやちょっと待て。

「君の好きそうな感じのをいろいろと用意してある。こういうのも」

 と男は台車で何か大きな箱のようなものを運んできた。よく見るとそれは檻で、中では下着姿の女の子が膝を抱えてうつろな目で空中を見ていた。

「ここで一緒に育つ幼馴染みだ! 村を焼いて攫ってきたから暗い過去完備!」

 お前が村焼いとるんやんけ!

「ケモ耳奴隷ロリは今、オークションで入札中だ! お楽しみに! 後、明日辺りメレディスの妹の第三皇女ラミリスが軍勢を率いてこの屋敷を襲撃する。それを生け捕りにすれば姫騎士もゲット!」

 さっきから聞いてればお前が楽しいばっかりだな!?

「当たり前だ! わたしがやってるんだから楽しいのが一番だ! チートってそういうものだろう!? 君は何もしなくても全てが手に入る! 君、そういうのが好きなんだろう!? 無双したいんだろう!?」

 ぼくのすることが残ってないよ!

 ――いや待てよ。



「――ということで悪い魔法使いは自分が泥をこねて作った人形に退治されてしまいましたとさ。その人形がこの国の初代王なのです。王はたくさんの妃に囲まれ、子宝に恵まれました。めでたしめでたし」

 祖母は最後の文を読み上げ、本を閉じた。わたしは不思議だった。

「どうして魔法使いは泥人形なんか作ったのかな」

「さあねえ」

 祖母は笑った。

「――何でもできる魔法使いなのに好きな女に死なれたのは、それなりに悲しかったんじゃないのかねえ」

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RTA 汀こるもの @korumono

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