時にはイライラ、またはハラハラしながらも、なぜか話から目が離せない!

 個人的な感想として、この物語の主人公(翼)の最初の印象はあまりも気弱すぎて、そんな好きにはなれませんでした。

 それに加え、なんだかんだで周りを囲む優しい仲間と恵まれたとも言える環境は、第三者としてそれを見た時、どうしてもぬるま湯に浸っているのではと思える部分がありました。

 ただ、そんな主人公の言動にイライラしながらも、なぜかそこから目が離せない、そして続きが気になってくる……そんな話の展開が絶妙な物語となっています。

 なにより、最初に言及にした短所に感じてきたものを補って余りあるほどに、人物の内面描写が丁寧に行われ、また風景の表現などは一つの情景写真を感想するが如く美しく書かれていると感じました。
 長々として薄っぺらになることなく、だからといって短すぎて伝わらないわけでもなく、その文章の一つひとつが過不足なく綺麗な文体で表現されていると思います。

 だからでしょうか。
 最初にイライラの主犯だった翼の内的な成長と伴い、それらを丁寧かつ大事に大事に、そして繊細に表現しながら進められた物語は、やがて話に出てくる人物たちと読み手の間に一種のシンパ関係を構成していき、最後は彼らの行く末を応援したくなる気持ちにさせてくれる、そんな物語だと思いました。

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