本作は異世界転生した勇者による世界を舞台にして、その非道な行為に家族や故郷を奪われた暗殺者の物語です。
本物の勇者を始めとして、その仲間や子孫たちが幅を利かせる中、孤児となった主人公は闇の中で培った技術により、暗殺稼業に身をやつしていました。
そして、ついに訪れた勇者暗殺の依頼により、綿密に計画を立てようとするのですが、その先には数々のトラブルと色に因んだ同業者たちが現れるのでした。
主人公の生い立ちや作品のテーマが復讐譚であることから、全体的に重めで時に生々しい描写もありますが、文章は緻密でキャラクターの心理や戦闘が巧みに表現されており、ダークファンタジーが好きな方には特にお薦めです。
最初の印象としてはとにかく文章が良いと思いました。
バトルシーンの描写でもたんに「横薙ぎに斬った」みたいな表現ではなく、どのように切ったのか、その時のキャラクターの心の動き、思考みたいなのがすごく丁寧に描かれているので臨場感があります。
たぶん作者さんは日頃から人物観察とかすごくしてる方なのかなと思います。
街ですれ違った人たちの細かな仕草とかを見て、その人がどんな人でどうしてそんな振る舞いをしたのか?とかこの後何をする予定なのか?とか考えながら過ごしてるのかな……?
とにかく人物や場面を描くのがとても丁寧で好感が持てます。
あとは世界観を彩る小道具に含まれると思うんですけど、「雨のやまない『ニンフ通り』」、「パルケラスィの年節から、228年」みたいな表現もおしゃれだし、物語に描かれている部分だけじゃなく、世界観自体もしっかり練り込まれているんだなと感じました。