第37話 “異世界の知識”を知るモノ。


白ウサギの背から噴き上げた、青い炎。

それが推進力となって。

ガラスの盾を一気に前へと押し進めた。


その勢いに任せるように。

白ウサギは腋に抱えた黒竜を、ガラスの盾の上へと放る。ちょうど良く乗せる。乱暴だが。



『待てッ……』



ガラスの盾は水面を駆け抜ける。

すぐにドラゴンを遠くにやる、スピード。

それにともなう反動、風圧。



「ひゃあっほー!」



灰色ネズミが叫び、盾の上に立ち上がる。

気持ち良さげに、雄叫おたけびを上げる、ハイエルフ。


白ウサギの魔力噴射によって、波立つ水面。

その波に乗るようにして。

彼女は膝を折り曲げ、盾をコントロールする。

小刻みに、揺らす。


それと対照的たいしょうてきに、反動と風圧にほぼ負けて。

果ては屈みこむ少年。

彼は前を見て、それから、目を丸くした。


なぜなら、進む先、目の前に見えたのだ。

このまま真っ直ぐ進めば――



「壁だッ! 曲がり角がある!」

「っ……」

「急カーブしろっ! 曲がれ――」



――白ウサギ!


そう言おうとして、振り返る、少年。

そうやって、彼女を頼ろうとする、赤憑き。

しかして、その前に――



「了解……ッス!」



灰色ネズミが右手を挙げた。



屍よドゥーガ風の導を灯し給えヴェントゥ・パル・コルガ……どっこいしょ!」



彼女が詠唱を唱えた、その後の一瞬……

身体の周りに、赤い液体が現れたかと思うと、吸い込まれて消えていく。


灰色ネズミの、無い人差し指に。

その切り落とされた傷口に。

そこから吸い込まれて、赤は消える。


その後、ガラスの盾の下、水流が急に変わって。

無事に、盾を急カーブさせた。



「やるな、ネズミ。水の魔術も使えたのか」

「水じゃないッス……風ッスよ」

「へえ」

「ふぅ……水の中で空気の流れを起こしたんス」

「……ガラスしか作れないのかと思ってた」

「他にも、簡単な電気くらいは起こせるッス。まあ――」



ドォン――と、地響きのような音。

その後ろからの音に、赤憑きは振り返る。



「アイツには負けるッスけど」



それは、緑色の巨体がぶつかった音。

さっきの急カーブ……

その曲がり角に、さっきのドラゴンがぶつかった、その乱暴な音。



『逃げられると思うな』



まだ、この竜は追ってきている。

白ウサギの魔力噴射によるスピード。

その全開をもってしても、突き放せていない。



「っ……ハアッ……ハアッ……」



白ウサギが、苦しそうな息を漏らす。

その顔は青くなってきている。

貧血だ。黒竜の時と同じ。



「……そうだったのか」



彼女は黒竜と戦って……

いや、その直後ですら何度も全力で魔力を放った。

青い炎が見えるほどの魔力噴射をやった。



――『っ……ほら、赤憑き』



束の間だったが、あの息切れ。

アレが白ウサギの状態を示していた。

彼女は、もうすぐ限界だったのだ。



「ごめん、白ウサギ。無理させた」



首を振る、白ウサギ。



「あたしは約束を果たしてるだけ。それも勝手に」



約束。

その言葉を聞いて、赤憑きは顔を歪ませる。



「そうだな。ボクも果たさないと」



――白ウサギを助けないと。勿論、灰色ネズミも。


考える。考えろ、赤憑き。

その後ろに、無慈悲に迫る、ドラゴン。



「くっ……スピードが落ちてきてるッス……!」



灰色ネズミが叫ぶ。

その顔は少し青白い。

思えば、さっきから『ふぅ……』だのと。

彼女は、息を切らしていた。


彼女も、限界までもうすぐだった……。


今の、このハイエルフには……

ガラスの盾を作ったりは出来ないかもしれない。

絶縁体でもう一度、雷を防ぐことが出来ないかも。


何か……

何かが必要だ。


起死回生でなくともいい。

とりあえず、この場を打開できる。

そんな策が必要だ……!



「機械人形の破片……」



あの時。

あの瞬間だ。


ドラゴンが雷を放った時。

それはガラスの盾にぶつかってから。

それから跳ね返って、雷は金属片へと向かった。

機械人形の破片へと向かった。


つまり、あの破片が雷を引き寄せた。


その破片には、その部位には……

魔鉱石が組み込まれていた。



「魔鉱石は光る。その仕組み……それは――」



――『それは、中に小さな雷が入っているからさ』



赤憑きはひらめく。

父親の代わりだった、アレスの言葉を思い出して。


雷は、電撃らいげきは、違う種類の電子が引かれ合う現象。

マイナスからプラスへと。

プラスからマイナスへと、電子が流れて、線となる現象。


そうして、電気は流れるのだ。



「それが、“カガク”……」



仮定:――


雷撃を引き付けた、機械人形の破片。

そこに組み込まれた、魔鉱石。

あの魔鉱石には、特性があったのだ。


電気――いや、電子を溜め込むという特性が。


多分あの魔鉱石には、プラスかマイナスか……

雷撃を構成する電子とは、“逆”の電子が入っていた。逆の電荷が、中にあった。


そしてドラゴンが放った雷撃の“マイナス”電子は、魔鉱石の中の電子“プラス”に反応して……

引き寄せられたのだ。


つまり――



「“逆”の電子を作れば、雷撃を引き付けられる」



――ドラゴンの雷撃による電気を誘導できる。

  こちらに当たらないようにできる。


カガクと呼ばれていた、ソレを……


アレスから教わった、“異世界の知識”を使えれば。

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勇者パーティから略奪をうけた村人Aは地道な暗殺者となってヤツを殺す ~転生チートvs6人の暗殺者 松葉たけのこ @milli1984

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